・SA、PAが給油・休憩の立寄り所から、行って楽しむ場所に
高速道路のサービスエリア(SA)、パーキングエリア(PA)は、高速道路を走る人なら必ず使う施設である。しかし、従来の飲食のラインナップはいかにも貧相であり、どこにでもある、そば、うどん、ラーメン、丼などを、食券を買ってセルフ式で注文して食べるといった、一昔前の社員食堂か学食のようなスタイルが主流であり、一般道のロードサイドに立地する飲食店と比べて味、サービス、環境面ともに明らかに劣っていた。
また、物販は地元の名物を単純に並べて売るだけで、おみやげ物屋としての地方色は出てはいても、その店でしか買えないような独自商品を売るという発想はなかったのである。
しかし、2005年10月1日の日本道路公団分割民営化を機に、東日本高速道路(NEXCO東日本)、中日本高速道路(NEXCO中日本)、西日本高速道路(NEXCO西日本)という3つのNEXCO運営会社ができ、それ以降従来のやり方を改めて、ドライバーに対してよりおいしいものを、かつその地域、その店でしか出せないような持ち味で提供しようといったスタイルが広まってきている。
弁当においても、郷土料理ブームに乗って年々隆盛となっている駅弁、空港の旅客ターミナルで売り出して今はすっかり定着した空弁にあやかって、NEXCO中日本が高級料亭などと提携した「速弁(はやべん)」シリーズを、NEXCO東日本が旅行ジャーナリストである小林しのぶさん監修の「どら(道楽)弁当」シリーズをそれぞれ立ち上げるなど、活気が出てきている。
このようなSA、PAを一種のショッピングセンターとして考えるという「ミチナカ」の発想は、おそらく1997年の年末に供用開始された東京湾アクアラインの人工島に設けられたPA、「海ほたる」(千葉県木更津市)がルーツになっているように思われる。
海ほたるPA
「海ほたる」は一般公募で付けられた名称だが、近未来的な建築とオーシャンビューの見事さ、「海ほたる焼き」などこの地でなければ食べられない名物、「大漁揚げ・いわしバーグ」のようなここだけのおみやげ、キャラクター「ヒカルくん」設定など、オンリーワン戦略を推し進め、それ自体が観光地化する異例のPAとなった。
そして、2001年にリニューアルしてショッピングモール風となった中央自動車道(中央道)・談合坂SA上り(山梨県上野原市)の成功を経て、さらに07年に整備した東名高速道路・海老名SA下り(神奈川県海老名市)のSA初の屋台村「うまいもの横丁」の出現、今年3月にオープンしたSA、PAでは初の商業施設となる京葉道路・幕張PA下り「パサール幕張」(千葉市花見川区)へと連なって、「ミチナカ」が開拓されてきているのである。
では、その「パサール幕張」から訪問してみよう。
・女性をターゲットにした地産地消型自然食ビュッフェ提案
3月20日、京葉道路・幕張PA下りにオープンした「パサール幕張」は、NEXCO東日本がSA、PAを「あるから利用する施設」から「進んで利用する施設」へと転換するために新設した「Pasar(パサール)」ブランドの1号店。
「パサール」とは「パーキングエリア」の“PA”、「サービスエリア」の“SA”、「リラクゼーション」の“R”を組み合わせた造語であり、インドネシア語で「市場」、スペイン語で「立ち寄る」、「(時を)過ごす」を意味する。SA、PAの新しい形として「旅の途中に立ち寄ってほっと一息つける場所」、「旅の途中で楽しく過ごせるにぎわいの場」を提案するとしている。
NEXCO東日本はSA、PAを商業施設として再構築する「パサール」ブランドを、今後10年間で20ヵ所程度、建設していく予定である。従来、SA、PAでは1ヶ所につき1外注業者が管理・運営する原則があったが、「パサール」はNEXCO東日本と、グループ会社でSA、PAの管理・運営を統括するネクセリア東日本の直営である点も新しい。
「パサール幕張」は駐車場を従来の138台から262台へと約2倍に拡張し、首都圏湾岸エリアのSA、PAでは最大級となっており、トイレも温水洗浄・暖房便座やパウダーコーナーを設けて、ホテルのような快適さを追求している。
また、細長い施設の両端に、集客の核となる24時間営業のコンビニ「ミニストップ」とトイレを配置し、そこを往来する動線と周りのショップを街に見立て、中央に無料休憩所を設けて、各ショップへの回遊性を演出している。
店舗面積は改築前の約6倍となる、約2000平方メートル。施設内は段差がないバリアフリー設計である。
レストランの核となっているのは、阪急産業が展開する自然食ビュッフェレストラン「野の葡萄」が提案する、「ちばの惠 千のぶどう」だ。
ちばの恵み 千のぶどう店内
ちばの恵み 千のぶどう ビュッフェ台
ちばの恵み 千のぶどう 4種類の塩で食べる野菜天
ちばの恵み 千のぶどう 蒸しパンと杏仁豆腐
ちばの恵み 千のぶどう 産地を明記して地産地消をアピール
これは高速道路の地元食材が集積する場という特徴を生かして、千葉の農協や八百屋と提携し、毎日届けられる顔の見える安心・安全な地野菜を使った料理を中心とした店。朝6時からの朝食が840円、11時以降20時半閉店までのランチが1250円で、煮物、おひたし、天ぷら、サラダなど常時20種類のおふくろの手作りの味が、炊き立てのご飯、味噌汁、コーヒーなどとともに、食べ放題となっている。
席数は70席で、その日の食材のラインナップで、料理長がメニューを考案するので、料理は毎日変わる。女性をターゲットにしており、休日では30分〜1時間待ちの行列もできる人気ぶりであるという。
「お客様は20代、30代のOLくらいの年齢の人が中心ですが、ご家族連れでおじいちゃん、おばあちゃんを連れていらっしゃる人も多いです。ジャガイモをはじめ、千葉の採れたての食材が味わえるので、地元の人が東京の友達を誘って来られるケースも目立ちます」とネクセリア東日本総務課の猪俣理惠さん。
まずは狙い通りに順調に集客している模様だ。
・高速道路初出店や新業態を優先させる攻めのリーシング
また、フードコートはベーカリー、うどん・そば、おむすび、カツ丼、ラーメン、スイーツという計6店の集積で、クリエイト・レストランツが一括して運営している。同社が一括運営するフードコートは14店目。
フードコートの前には約360席の無料休憩所があり、そこで食事を取ることができる。こちらは従来のSA、PAをよく使う商業ドライバーなどの便宜をはかった店と言えるが、出来立て感やこだわりを強く出したり、女性にも対応するベーカリーやスイーツにも力を入れて、新しい顧客の創造にも取り組んでいる。
パサール幕張 フードコート 洗練された明るいデザインは従来のSA、PAとは一線を画す
平日の顧客層は、サラリーマン、商業ドライバー、主婦などで、男女比は7:3。来店数は約2000人。
休日の顧客層は、ファミリー中心で男女比は半々。来店数は約4000人といったところだ。
ベーカリーの「ナチュラル・ブレッド・ベーカリー」は、約40種類の惣菜パンには黒豆や味噌といった和の食材を使ったものも含まれ、千葉県産落花生を使用した「とろけるピーナツクリームパン」(188円)はイチオシ。スイーツの「ディーズ・スイート・マルシェ」は、焼きたてのクレープ、ヘルシーなヨーグルトアイスパフェ、食感が楽しいタピオカドリンクと3本柱の店だ。
パサール幕張・フードコート スイーツコーナー
うどん・そばの「天つるり」は店内で打った自家製麺が売り。ラーメンの「麺大将」も店内自家製の麺とチャーシューで、とんこつ醤油ラーメン(590円)などを提供する。
パサール幕張・フードコート 自家製うどん・そばコーナー
さらに、おむすび「ひとにぎり」はこしひかり、千葉県富津産海苔、沖縄・粟国の塩といったこだわり食材を使用しており、千葉県産アサリの佃煮のおむすび(230円)が人気だ。カツ丼「とん楽」は揚げたてで半熟卵を乗せたカツ丼(630円)のほか、カツカレーも提供している。
一方、コーヒーショップでは高速道路では初出店の「タリーズ」が朝6時から夜10時まで開いている。
ショッピングゾーンは「旬撰倶楽部」のブランド名で、東京からの帰途や行楽地からの帰りにおける利用者に、都会的な「東京気分」の雰囲気の売場を演出している。
パサール幕張 旬撰倶楽部 デパチカのような雰囲気がある
旬撰倶楽部 水泳の北島選手の実家、きたじまのカツサンドも販売
スープ、ドーナツ、プリン、ジェラート、和菓子、中華惣菜、フライドチキン、東京の銘菓などといったものが売られているが、10店のうち6店が高速道路初出店だ。
そのうち、アメリカ・シアトル直輸入の具だくさんスープ専門店「チャウダーズ・エクスプレス」、北海道・十勝産小豆あんや乳製品を使った草大福やシュークリームを販売する「菓匠・寶舩」、ハリウッドのセレブ御用達のヘルシージェラート「ゾーン・ジェラート」の3店が新業態となっている。
このように、高速道路初出店や新業態が連なる「パサール幕張」は、上り線も整備中で一部、コンビニ「ファミリーマート」、ファーストフード「マクドナルド」、ベーカリーカフェ「神戸屋」がすでにオープンしている。ネクセリア東日本では今夏中に、メインのショップとレストランを構築して、グランドオープンさせたい意向である。
・全国一の繁盛SAのポイントは個性あふれた専門店街の確立
全国の高速道路のSA、PAの中で売り上げ1位を誇るのは東名・海老名SA下りである。ちなみに2位は同じ東名・海老名SA上りである。
海老名SA下り SAでは日本一の売り上げを誇る
海老名SA下り フードコート
海老名SA下りの成功は、通行量の多い東名の東京に近いという、立地によるところが大きいが、運営者である西洋フード・コンパスグループが新しい対策を次々に打った成果でもある。同社は「ドーナッツプラント」と「キハチ ソフトクリーム」を除く海老名SA下りのレストラン、物販のすべてを管理運営している。
なお、海ほたるPAの管理運営も同社であり、「ミチナカ」発展の先鞭をつけた功績は大きい。
レストランゾーンは02年10月に、従来のお好み食堂のような雰囲気から、より専門性を持った食堂街にするためにリニューアルし、洋食「ダイニングCASA」、和食「海鮮三崎港」、パスタ専門「パスタバール ブイトーニ」、コーヒーショップ「カフェ ネスカフェ」というラインナップとなった。
海老名SA下り 「ダイニングCASA」
「ダイニングCASA」 ドリンクバーと店内
「ダイニングCASA」のオムライスコーナー
「ダイニングCASA」名物、高座豚のトンテキ定食(1580円)
「ダイニングCASA」はファミレスの「CASA」チェーンとは異なる独自のメニューで運営しており、カフェテリア方式となっている。人気メニューは、地産地消の考え方を取り入れた神奈川県産高座豚のトンテキ定食(1580円)。低コレステロールで肉質がやわらかい高座豚の特徴を生かし、厚切りの三重県四日市名物・トンテキに仕上げたもので、ここでしか味わえないメニューだ。席数は103席となっている。
「海鮮三崎港」は京樽のFCではあるが、回転寿司ではなくファミレス形式のフルサービスとなっている。年配の人の利用率が高いのが特徴である。席数は88席。
海鮮三崎港は年配者に人気
「パスタバール ブイトーニ」はカウンター形式になっており、高速道路にあって手頃な値段でパスタが食べられる店は貴重な存在だ。席数は18席。
パスタバール ブイトーニ
「カフェ ネスカフェ」はネスレがプロデュースしており、全国でも神戸・三宮とここの2店しかないので、差別化されている。席数は約12席だ。
カフェ「ネスカフェ」
フードコートにおいては、そば・うどん、ラーメン、カレーなどが味わえるが、「吉野家」が入っているのが、目を引かれる。それだけではなく、「ペッパーランチ」の「ビーフペッパーライス」、「紅虎餃子房」の「黒胡麻担々麺」、横浜中華街「雄華楼」の肉まんのような専門店の味が楽しめるのも魅力だ。平均的な顧客単価は約700円とのことだ。
フードコートに吉野家も入居
ペッパーランチの「ビーフペッパーライス」や紅虎餃子房の「黒胡麻担々麺が食せる
なお、「ドーナッツプラント」はオーガニックコーヒーも飲めるイートインとなっており、ここだけの限定品「海老名ドーナツ」は、本場ニューヨークのソルティテイストなキャラメル味が特徴となっている。
また、「キハチ ソフトクリーム」は高速道路では初出店である。
・屋台村、オリジナル商品を開発して楽しさと賑わいを演出
大型111台、小型426台を収容する駐車場の前に展開する「うまいもの横丁」は8店が集まる、高速道路初の屋台村である。SA、PAの中にあるので酒類の扱いはないが、縁日のような賑わいを生み出す効果が表れている。
海老名SA下り屋台村 うまいもの横丁
「観光バスで来られるお客さんの中には、高速に乗る前にビールなんかを購入されて、うまいもの横丁で買ったものをおつまみにして、バスの中で旅行を楽しまれる人も多いです」(西洋フード・コンパスグループ海老名エリア管理担当支配人、森島裕之氏)といった上手な使い方をしている人もいるという。
元々休日には約200席あるフードコートが満席になるので、外でも食べられるようにと、以前から屋台を設置していたのだが、「うまいもの横丁」と名づけて整備したのは昨年からで、以来知名度が上がって集客も好調のようだ。
焼鳥、たいやき、いかやき、富士宮焼きそば、チヂミ、黄金餅、にぎり天などが150円から楽しめる。
一番の人気商品は、牛串、豚串(各400円)で、地元の高座味噌を使った味付けが受けている。
物販はデパチカをイメージして、海老名SA下りならではの限定品と、おみやげ物としての東京名物を強化している。
牛串・豚串はうまいもの横丁で一番人気
特に1日平均5000個売れるという驚異的なヒットとなっているのは、ベーカリー「ぽるとがる」のメロンパン(170円)。外はクッキーのようにサクサク、中はしっとりとやわらかい食感が、バスガイドのクチコミによって広まったらしい。
メロンパンのぽるとがる 行列が絶えない
1日5000個売れる驚異のヒット商品、ぽるとがるのメロンパン
新名物として小田原で水揚げされた新鮮なアジ1匹を丸ごと使った、アジの唐揚げ(塩味100円、醤油味110円)の人気が上昇している。
人気急上昇中のあじの唐揚げ
おみやげ物では、東京駅などで人気の菓子「東京ばな奈」、横浜中華街の各種惣菜のほか、グリコショップ「ぐりこ・や」のような意外なショップも入っていて結構楽しめる。
全般的に天井が高いショッピングセンターのような快適な環境と、盛りだくさんの内容を持ったSAであり、全国一の人気も解せるところである。
・ヨーロッパ風モールにて山梨の郷土色を強調した食を提供
2001年のリニューアルによって、SA、PAのショッピングモール化の先鞭をつけたのが、中央道・談合坂SA上りである。イタリアの田舎をイメージした洗練され、かつどこか懐かしさも醸し出すデザイン、デパチカのやり方をSAに持ち込むようなグレード感ある対面販売中心のショップ構成で、“脱サービスエリア”を強く印象づけた。
運営するキャニーは、三井不動産の100%子会社である。駐車場は大型51台、小型458台を収容する。
レストランは地元・山梨の郷土料理である、ほうとうを中心に据えたメニューで、顧客の半分以上がほうとうを食するという。
バリエーションも豊富で、山梨産マイタケの天ぷらが入ったほうとう(1280円)、カレーほうとう、キムチほうとう、とん汁ほうとう、夏場はつけ麺のようにごまだれでいただく冷しほうとう「おざら」(1280円)など、常時5種類前後のほうとうを提供している。
名物・焼きほうとうの屋台
冷やしほうとう おざら(1280円)
また、高品質の山梨産「フジザクラポーク」の鉄板焼き、「甲州麦芽ビーフ」のハンバーグなど、地元の厳選素材を使ったメニューには積極的に取り組んでいる。
山梨名産フジザクラポークを使ったメニューも提供
席数は95席。利用者はさまざまだが、ファミリー、年配の夫婦が目立ち、東京や長野など県外の人が主流だ。顧客単価は1050円で、平日で平均約450人、休日で約600人が来店するという。
また、フードコートはラーメン、カレー、ごはん物、アメリカンドッグ、ソフトクリーム、カフェ、「神戸屋」のベーカリーなどを展開する。
そのうちで、「フジザクラポーク」の角煮ラーメン(790円)、甲州の名水・白州の天然水で炊いたおにぎり、山梨・石和の人気ショップ「ケーキハウス ミサワ」のケーキなどは人気が高く、この施設の名物となっている。
屋外には屋台のスペースもあり、「甲州麦芽ビーフ」の串焼き、焼きそばならぬ「焼きほうとう」なるオリジナルメニューが人気だ。
物販のみやげ物では「桔梗信玄餅」の売れ行きが抜群で、ベーカリーでは「桔梗信玄餅」入りのデニッシュをこちらの限定品として販売しているほどである。ホイップされたチーズケーキの「富士の淡雪」も、ファンの多い商品だ。
おみやげでは断然人気の桔梗信玄餅
談合坂SA上りの神戸屋でしか買えない、桔梗信玄餅デニッシュ
一般的なモールを目指しながらも、郷土色の強いメニュー、商品を意識的に強く出しているのが談合坂SA上りの特徴と言える。
「長野、山梨方面から東京に戻る最後のSAが談合坂ですが、お客さんが何が食べたいか、何をショッピングしたいかというと、その土地のものを求めるのではないでしょうか」とキャニー中央自動車道談合坂レストラン副支配人・鈴木仁氏。高速道路で初めての酒類販売となる、甲州ワインのカタログ通販も、7月1日よりスタートした。
・高級な「速弁」と大衆価格「どら弁当」、勝つのはどちらか
さて、「ミチナカ」グルメを考えるにあたっては、鉄道駅の駅弁、空港ターミナルの空弁に次ぐヒットとして、SA、PAで販売する弁当「速弁(はやべん)」について触れなくてはならないだろう。
速弁は字のごとく高速道路の「速」と弁当の「弁」を組み合わせた新語であるが、NEXCO中日本とそのSA、PA運営会社である中日本エクシスのブランドだ。従ってその管轄である東名、中央道及び名神や北陸道などの一部でしか販売していない。
速弁 鮎ちらし(関・長良川SA 1500円)
速弁 甲州(談合坂SA上り 2500円)
速弁 特選すき焼き弁当(港北PA 3150円)、人形町今半プロデュース
速弁は包装にも高級感が漂う
最初に速弁を売り出したのは、06年11月で、東名・上郷SA、名神・養老SA、北陸道・南条SAの3カ所でスタート。現在は20カ所にまで拡大している。
事前アンケートによって、ターゲットは50〜60代の子育てを終えた女性に照準を当て、多少割高でも良い食材を使って、旅行気分を盛り上げる郷土色豊かで家庭では出せない味を、多品目かつ少量ずつ詰め込んだ弁当を開発した。
駅弁と差別化するために、あでやかな風呂敷で包んで販売。実際の各速弁の内容、デリバリーなど実作業に関しては、SA、PA近くの料亭などと提携し、本物の味を提供。季節ごとに年4回、商品の入れ替えを行っている。
中心的な価格帯は1500〜2500円。平日で20個ほどが売れるが、休日のほうがさらに売れる。特に人気が高いのは、中央道・談合坂SA(上りのみ)、東名・港北PA、東名・上郷SAで、港北PAではかのすき焼き・しゃぶしゃぶの名店「人形町今半」が担当している。
活用の仕方としては、購入した速弁を観光地にまで持っていって、春なら桜、秋なら紅葉を観賞しながら食べるといったものが主流。おみやげとしても人気がある。旅行会社のバスツアーで予約が入るケースも増えており、思い出に残る旅行のエッセンスとして、今後さらにニーズが増えていく勢いだ。
一方で、NEXCO東日本、ネクセリア東日本は、4000個以上の駅弁を食したという旅行ジャーナリストで駅弁愛好家の小林しのぶさん監修のもと、昨年6月より「どら(道楽)弁当」シリーズをSA、PAに投入している。
どら弁当1番人気 笠間いなり(友部SA 550円)
どら弁当 煮豚弁当(上里SA 800円)、赤城山麓で育った福豚使用
どら弁当 田毎の月(姨捨SA 900円)は信州の食材満載
これは豊かな特産物、食材を生かす地産地消をテーマとしているのは「速弁」と同じだが、弁当本来が持つお手頃感、お手軽感を目指している点では全く違った考え方である。従って価格帯も500〜1000円と安い。
現在のところ、7〜8種類の展開だが、常磐道・友部SAの「笠間いなり弁当」、長野道・姨捨SAの「田毎の月弁当」、関越道・上里SAの「煮豚弁当」といったところが人気ベスト3である。
最終的にミチナカ弁当を制するのは、高級路線の「速弁」か、大衆路線の「どら弁当」か。今後も興味深くウォッチを続けていきたい。
以上、見てきたように高速道路のSA、PA の利用促進を目指して、ショッピングモール化、グルメ化はいっそう進む傾向にある。
ガソリンの高騰といった不安要素はあるが、SA、PAそれ自体が旅行、ドライブ目的の1つとなるような施設建設が増えていくだろう。
たとえば兵庫県淡路島の淡路SAは観覧車が回る異色のSAだが、淡路島公園の一部をなすハイウエイオアシスともつながっており、SAをエントランスとした一大観光地を築いている。淡路SAはNEXCO西日本では最大の売り上げを誇るSAである。
一方で、小型のPAではコンビニの設置が進んでおり、今後は高速道路の「ミチナカ」とインターチェンジ付近にあるロードサイドショップとの熾烈な商戦に発展していく方向性も見えてきた。
いずれにしても、「ミチナカ」は食に関連する業者にとって、ビジネスチャンスを広げている面白い存在であり、従来のロードサイドとは異なった独特のニーズもあることは確かだ。