フードリンクレポート


現在、東京侵攻中!
「モーニング」文化を全国に広める、コメダ珈琲店
布施 義男氏
株式会社コメダ 代表取締役社長

2008.11.5
喫茶店で朝食を食べる「モーニング」文化が習慣化している名古屋地区。そこを拠点に全国で「コメダ珈琲店」のFCを主軸に330店を展開するコメダ。創業者の加藤太郎氏は、2008年4月、後継をファンド、アドバンテッジパートナーズ(AP)に託し、さらなる店舗拡大を図っていく。APに選ばれた新社長、布施義男氏に展望を聞いた。


約200社という加盟店オーナーを束ねるのに相応しい、人間味溢れる布施義男社長。

コーヒー周辺のアメニティーを売る

 創業者の加藤氏(現取締役会長)が名古屋市に「コメダ珈琲店」を開業したのは1968年。卒業後、直に始めた個人経営の喫茶店。「コメダ」という店名は実家が米屋だったことに因る。

 加藤氏は、お客の欲することを次々に具現化していった。駐車場を作ってくれ、長い時間営業してくれ、などの要望に応え、ロードサイドや街中に次々と店舗数を増やしていった。1970年にはFC1号店が誕生し、85店に拡大した93年には株式会社コメダを設立し、FC展開を本格化した。現在、330店を展開しているが、内直営は6店に過ぎない。特に、愛知県内に245店舗もあり、名古屋のモーニング文化を支えている。

 コメダ珈琲店の魅力は、朝起きて顔も洗わずに来れるような気軽さ。そして、午前11時までに入ると、コーヒーのみの価格(380円、静岡以東は400円)で、ゆで卵とトーストが付く。しかも、コーヒー周辺のアメニティーが充実している。疲れずに長時間座れる、ふかふかのソファー。専用に洗われた臭くない、アツアツの厚手のオシボリ。しわのない、パリッとした朝刊。

 3000円で9杯飲める回数券も販売。1杯分333円。回数券でも、もちろんモーニングは付く。


ブレンドコーヒー380円(静岡以東は400円)


9枚綴り3000円、回数券の告知。380円のドリンクなら何でも使える。


「近隣のコメダ」

「平日は、朝7時にリタイアしたおじいちゃんとおばあちゃんが来て、そして近所の人が来て挨拶し合っています。休日はご夫婦が来て、旦那は競馬新聞、奥さんは週刊誌。ひとことも口をきかないでもくもくとモーニングを食べています」と9月に社長に就任したばかりの布施氏。人々の生活習慣に入り込んで、なくてはならない存在がコメダ珈琲店。

「笑い話ですが、研修に入った店で、口紅を拭き残したカップを数えてみましたが、ほとんど無かったです。近所の人が、スッピンや普段着で来るから、口紅が付かないんですね。 ガソリン代値上げも関係ありません。習慣になっているので、来ないと朝食が食べられない。だからガソリンが値上がりしてもお客様は来られます。」

 競合はないという。ジーコミュニケーション・グループの「元町珈琲」が近いが、店舗は9店とまだ少ない。

「他のチェーンで競合はありません。スターバックスさんや、ドトールさんのようにコーヒーだけを売る店ではありません。食事も出していますが、ファミレスとは違います。あえて言うならば競合は近隣のコメダです。東京の人から、どんなイメージの喫茶店かと尋ねられても、東京にない業態なので答えに苦しみます。」


本社ビルの1階にある葵店(直営)。同じ敷地内に、「コメダ珈琲店」と「甘味喫茶 おかげ庵」が建つ。


葵店 店内。夕方は女性客が多い。


入口すぐに、巨大な池があり、周りに1人客用の席が設けられている。


各テーブルには、タバコの煙用の吸引装置が付けられている。


11時までに日商の4割を売る

 喫茶店が衰退する一方で、コメダ珈琲店は繁栄してきた。

「FCさんには原則5年ごとの改装をお願いしています。常にきれいなのも一因でしょう。ロールスクリーンを変えてもらうとか、床がすりへったら削って上からワックスをかけてもらう。テーブルに傷がついたら削る。店によってテーブルの厚みが違います。木製だからできるんです。初期投資はかかりますが、メンテナンスが楽。椅子も貼り替えれば何年も使えます。40年前に作った店が今でも営業しています。敷居が低い方がいいんです」と布施氏。

「捨てない」がコメダのポリシー。古くなったおしぼりは、雑巾に仕立て直して店舗の掃除に使っている。

 朝7時の開店から、モーニング終了の11時までの4時間で1日の売上の4割を稼ぐ。

「入社して上山店(瑞穂区上山町)で働きました。200席で年2億円を売る基幹店です。土曜日で7時〜11時まで550人がいらっしゃいました。満席率を考えると15〜20分で皆さん帰られているという勘定です。」

「早く帰られる理由は、まず、提供時間が早いことです。コーヒーはすぐに提供され、ゆで卵は20〜30個ずつ常に茹で続けて温かいものを出しています。トーストも長い食パンを切って、コンベア式トースターで焼いています。」

「決して早く帰るよう促したりはしません。何時間いても文句は言わないというマニュアルです。むしろ、お水はどんどん積極的にお持ちしましょう、灰皿もどんどん交換しましょうと教えています。『お客様、そろそろ』というお声掛けは一切しません」という。お客の間で、次の人に席をあけてあげるという暗黙のルールが出来上がっているようだ。

 コーヒー売上が70%。海老フライ、ヒレカツなどの食事や、人気の「シロノワール」などデザートの売上は30%。開店3日間は、オープンセールとして固定客作りのために、3000円のコーヒー回数券を2500円で販売している。ある店では、3日間で800枚以上が売れ、回数券だけで売上金額200万円を超したという。


人気の「シロノワール」590円。温かいデニッシュの上に、冷たいソフトクリームが乗る。メイプルシロップをかけて食べる。ミニサイズ390円もある。

FCオーナーは1店1オーナーから

「コメダはここ数年、新商品やキャンペーンは行っていません。開店時の回数券割引のみです。それでも良い方に回っているから、従業員は新商品の売り込みに神経を使う必要がなく、お客様の方を見る余裕ができて、さらに良い循環につながります。」

 FCは最初、1店1オーナーからスタート。今は約200社が直営除いた324店を運営している。大きいFCでも20店しか持っていない。脱サラして退職金を元手に個人から初めた方が大半。 

「閉店はほとんどありません。今年はゼロ。ロードサイド店でも損益分岐点が相当低いので、多少売上が悪くなっても乗り切れます。まだまだ、名古屋で出店したいという方々が多いですが、市内はパンパンで隣接店との距離が近すぎる。そんな場合のために、和風甘味処『おかげ庵』という新業態を作りました」という。

 コメダ本部はFC店への原材料卸・指定食材の手配も行っている。コメダ珈琲のブランドを決める、コーヒー豆、フレッシュミルク、そしてトンカツや海老フライも扱う。コーヒーは生豆で輸入し、自社で焙煎。ミルクも乳脂肪分40%の濃いもので通常はホテル向けの商品。パン、卵、野菜は各店で独自に仕入れる約束になっている。

 商業施設に過去3年で5店とスローペースで出店してきたが、ここにきて流れが変わった。商業施設からの出店要請が増えている。

「今までの商業施設は、ファッショナブルな店を入れようとしており、コメダ珈琲店はありえない業態でした。あるショッピングセンターに後発で出店しました。ゆっくり落ち着いて話をしたい人もいるはずだと仮説を立てて出店したんです。まさしくその通り。有名コーヒー店を抜く売上となりました。」




フードも充実。


アドバンテッジパートナーズの下、組織的経営へ

 2008年4月にプライベートエクイティファンド、アドバンテッジパートナーズ(AP)に株式の大半を売却した。同社は、外食企業では、「牛角」のレインズ・ホールディングス、高級フレンチのひらまつにも出資している。

 いままで創業者である加藤氏が手作りで築いてき会社を基盤に、APの下、カリスマ創業者に依存しない先進的・組織的な会社に転換していこうとしている。そして、社長に迎え入れられたのが、サントリー出身で、名古屋勤務の経験もあり、ファーストキッチンの社長も務めた布施氏。

 そして目指すは、関東・関西への積極展開。特に、現在19店ある東京はその試金石だ。本年11/14には、東京初の直営として三鷹に出店する。

「横浜に出しましたが、3〜4ヶ月間売れませんでした。お客様に『モーニング付けますか?』と尋ねると、『いらない、いらない』と言われます。『無料ですけど』と加えると、『え、無料なの』と喜ばれ、口コミで広がっています。東京のモーニング比率は25%、名古屋は40%なので、まだまだ行けると思っています。」

 東京の客層は、当初は意外に東京に多い名古屋出身者や名古屋経験者だったが、徐々に名古屋経験のない地元のお客様も増えてきているという。9月に日本テレビ『秘密のケンミンSHOW』で東京で食べられる地方料理として、名物「シロノワール」が取り上げられ、店舗売上やホームページのPVが飛躍的に伸びた。

「東京でも受けると思います。客単価は名古屋500円に対して、東京650円。食事をして、ファミレス的な使い方の人も多いです。サラリーマンが打ち合わせや面接で使い、主婦がテニスの後に集まってランチができる。使い勝手がよい店です。実は、そういうところを誰もフォローしてなかった。」

「お客様へのサービス精神さえあれば、オーナーも儲かるし、過剰な手間もかからない。しかも、お客様も心地よく長居出来る。だれもハッピーな業態です。」

 コメダ本部のスタッフは、皆真面目で、朝8時に出社し午後4時には終業する。こんな効率的な働き方をずっと続けてきた。「継続は力なり」を具現化してきた企業だ。この継続力で、日本中にモーニング文化を広めようとしている。


■布施 義男(ふせ よしお)
株式会社コメダ 代表取締役社長。1958年生まれ。東京都出身。明治大学卒業後、サントリー株式会社入社。子会社のファーストキッチン株式会社の代表取締役社長を、2004年4月から08年3月まで務め、08年8月サントリーを退社。2008年9月より現職。

株式会社コメダ http://www.komeda.co.jp/index.html

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2008年10月16日取材