・サッカー観戦より日本人ファンにもスポーツバーが定着
六本木の「東京スポーツカフェ」は、旧ベルファーレの向いのビルにあり、日本のスポーツバーの草創期より今日まで、業界を牽引する店だ。
オープンは1996年。当初の顧客は外国人ばかりであったが、2002年の日本と韓国が共催したサッカー「第17回FIFAワールドカップ」の頃から日本人も増えて、今では平均すると外国人と日本人の比率は半々くらいだという。
席数は100ほどだが、人気スポーツの大きな大会の重要な試合ともなると、断り切れなくて立錐の余地もなくなるほどの人が詰めかける。
東京スポーツカフェ店内
パーティーにも対応できる奥のソファー席
放映するのは、アメリカンフットボール、サッカー、ラグビー、クリケット、バスケットボール、ゴルフ、テニス、野球、格闘技などで、スケジュールは同店Webサイトで確認できる。
店内にモニターは10台設置されており、特にサッカーの国際試合ともなれば、顔に国旗のフェイスペイントをしたサポーター大挙して押し寄せ、さながらスタジアムのような、一体感のある白熱の応援合戦が見られる。また、無料のビリーヤード台が置いてあったり、奥にはゆっくりくつろげるソファーを配した席もあったりといったように、顧客がさまざまな楽しみ方ができる店づくりを行っている。顧客単価は3000円前後だ。
店内ではビリーヤードも楽しめる
「アメリカではやっていたスポーツバー、スポーツカフェは東京に当時はなかったけど、外国人が日本一多い六本木なら成功すると思いました。オープンしてすぐ、アメリカ人が集まるようになり、ヨーロッパの人たちも来るようになりましたよ」と、アメリカ人のマイケル・ベルウェスト代表は流暢な日本語で、マーケティングの勝利であることを強調した。
数々の国内外有名アスリートも、同店を訪問している。
テレビ朝日にも近く共にイベントを仕掛けるなど、たびたびテレビや雑誌に取り上げられており、今ではすっかり六本木の名物店の1つになった。
人気メニューは「アメリカンハンバーガー」(1200円)、サルサソースと、ブルーチーズにサワークリームとマヨネーズをミックスしたソースで食べる「チキンフィンガーズ」(1000円)、「オニオンリング」(800円)などで、どれもアメリカンサイズでボリュームがある。ドリンクはなんといってもビール(800円〜)がよく出る。
チキンフィンガーズとアメリカンハンバーガー
カクテルのチャイナブルーとオニオンリング
来春からはランチも営業する予定で、もう少し魚や野菜を使ったヘルシーなメニューにも取り組んでいく方針だという。
・外国人が気軽にぶらり立ち寄れる赤提灯の雰囲気を演出
本格派のブリティッシュ・パブといえば「ホブゴブリン」。2000年に赤坂に1号店をオープンし、2号店は02年に六本木、3号店は04年渋谷にオープンしている。
英国・オックスフォードのウイッチウッド・ブルワリーと提携。ウイッチウッドの「ホブゴブリン」ビールを中心に飲ませる店として営業している。ちなみに英国で展開するホブゴブリン・パブの海外1号店でもある。
「ホブゴブリン」六本木店 外観
「ホブゴブリン」六本木店 店内
家具は英国直輸入のアンティーク
看板をはじめとする外観、英国直輸入のアンティーク家具を使った内装と、店舗を形成するものはすべて英国調で統一されており、本場のブリティッシュ・パブの雰囲気が味わえる。
六本木店は場所柄、特にイギリス人を筆頭に外国人が多い店で、顧客の7割は外国人である。
大型プラズマスクリーン4台によるスポーツ中継にも力を入れており、サッカーのイングランド・プレミアリーグやワールドカップ、ラグビー、F1、ツール・ド・フランスなどヨーロッパのスポーツが中心だが、北京五輪も放映した。
ダーツも導入しており、寛いだ気分で過ごすことができる。
店内はカウンターの立ち飲みも含めて100人ほどを収容するが、人気の試合の時はあふれるほどの来店があり、ビールがよく売れる。同じテーブルを囲んで飲んでいる人たちのうちの1人が、順番に全員のビール代を払う、ラウンドというブリティッシュ・パブならではの慣習がよく見られる。
看板メニューは、何といっても「ホブゴブリン生」(1000円)で、ダークエールではあるが、フルーティな味わいがあり女性にも人気がある。
イングランド本場のエールが飲める。
ホブゴブリンのダークエールとフィッシュアンドチップス。
フードは、ビールを使った衣で揚げたタラのフライ「フィッシュ&チップス」(1500円)、ラムの挽肉を使いマッシュポテトを乗せた「シェパーズパイ」(1100円)などが、ボリュームもあって人気だ。顧客単価は3000円ほどである。
また、「ホブゴブリン」六本木店の隣には「レジェンズ・スポーツバー」があり、この店も経営はホブゴブリンジャパンが行っている。
「レジェンズ・スポーツバー」は04年のオープンで、アメリカンスタイルのスポーツ観戦を主体としたバーで、席数50席に対してプラズマテレビのスクリーンが5台設置されている。
「レジェンズ・スポーツバー」 外観
「レジェンズ・スポーツバー」 店内
野球、アメリカンフットボール、バスケットボール、アイスホッケーというアメリカ4大スポーツの放映が中心だが、時差の関係で、リアルタイムの観戦は難しく再放送が多いという。しかし、毎年1月最終週に行われるアメリカンフットボール・プロリーグの№1決定戦「スーパーボウル」は、日本時間の月曜朝8時30分頃に試合が始まるが、例外的に朝から営業して、リアルタイムに観戦できるようにしている。
この日ばかりは会社を休んで同店にやってくる、熱心なアメリカ人ファンの熱気に包まれる。また、サッカーのワールドカップの時は、店の外の道路のガードレールまで人があふれ、300人ほども集まった年もあったという。
このように臨機応変にスポーツファンにこたえる営業を行っており、充実した放映スケジュールで、顧客の支持も厚い。顧客の6〜7割が外国人である。
スポーツの放映スケジュールを掲示。
アメリカンスポーツの数々の写真が壁にかけられている。
メニューでは10種類以上の世界各国のボトルビールが飲めるのが売りで、フードはボリュームのあるハンバーガー(1400〜1600円)や、ビールのおつまみには格好のナチョス(レギュラーサイズ1200円)が人気だ。顧客単価はこちらも3000円ほどである。
「ブリティッシュ・パブやスポーツバーは、外国人にとっての赤提灯みたいなものです」と両店のゼネラル・マネージャー、小林修氏。
スポーツ観戦を通して、見知らぬ人々をつなげるコミュニケーションの場となっているのである。
・大リーグをテーマにしたエンターテイメントレストラン
東京ドームシティにある「ベースボールカフェ」は、1992年のオープン。スポーツカフェとして、この業態がブームになる前から営業している老舗である。
東京ドームは読売ジャイアンツのフランチャイズではあるが、「ベースボールカフェ」はアメリカのメジャーリーグのテーマレストランとして営業しており、野球ファンなら誰もが憧れるメジャーリーグをテーマとすることで、日本のどの球団のファンであるかどうかに関係なく、幅広く野球ファンを取り込むことに成功している。
「ベースボールカフェ」 外観
「ベースボールカフェ」 店内
席数は296席ある大箱で、店舗全体が球場に見立ててある。ホームベースや一塁、二塁、三塁ベースがあるフィールド席、ダッグアウト席、2階のスタンド席、ホームベース後方の放送席、3階のVIP席(席料は取らない)があって、どこに座るかで、違った雰囲気が味わえる。60席あるパーティー対応のクラブハウス席もある。
本塁ベース、階段の上は放送席
3階VIP席
顧客は遊園地に遊びに来たファミリー、カップルが中心。また、野球の試合の前後や東京ドームで開かれるコンサートなどのイベントの前後は、混み合う。
外国人の比率も1〜2割あり、ランチタイムのメジャーの試合の実況には、アメリカ人が多く来店する。
顧客単価は3500円で、ランチ平均は1000円。
毎日、18時30分過ぎから21時頃までは、各テーブルを回るバルーンアートによるパフォーマンスショー、19時と20時30分には店員たちが盛り上げるダンスタイムがあり、同店名物のエンターテイメントとなっている。
メニューも、4人前はあろうかという大きさの「ジャイアントバックリブグリル」(3990円)、生地の長さが70センチもありトマト・シーフード・カナディアン(ペパロニとチーズ)と3つの味が楽しめる「ホームランピッツァ」(3150円)、デザートでは3つの山型が連なった「バナナスプリット」(882円)など、1人ではとても食べ切れない超特大サイズが提案されており、一度見たら忘れられない強烈なインパクトを与えている。
「ジャイアントバックリブグリル」3990円
「ホームランピッツァ」3150円
ドリンクでは、団体客向けに4000ミリリットルのビールが入った、豪快な「摩天楼ビアサーバー」(4305円)がある。
「摩天楼ビアサーバー」4305円
このように、野球、メジャーリーグに強い関心がない人でも、一度来れば印象に残る楽しさがふんだんに店舗企画に盛り込まれているのが、人気が持続する理由なのだろう。
・チアガールがフレンドリーに接客する萌え系ダイニング
スポーツバーに萌えの要素を取り入れた、新業態も登場している。京急川崎駅前に今年7月オープンした「アメリカンダイニング チアーズ」がそれ。
「チアーズ」 外観
「チアーズ」 店内
「チアーズ」 カウンター
ピンクとブルーの2タイプあるチアリーダーの扮装をした、ウエートレスが接客する店で、時間のある限り、ウエートレスが積極的に顧客に話し掛けてくるのが特徴だ。
スポーツ観戦にプラスして、かわいいウエートレスとのコミュニケーションを楽しむ店でもあり、メイド喫茶のノリを持った店である。
元気なチアガールが出迎えてくれる
経営するボノボという会社は、2006年3月、横浜駅西口にメイド喫茶「ハニーハニー」をオープンして起業。その店を軌道に乗せて2店目として、「アメリカンダイニング チアーズ」を開店した。席数は36席。顧客単価は約3000円。
「メイドとは別の切り口で、サラリーマンの街で、フレンドリーに接客するスタイルが通用するかどうか、試してみたかったのです。川崎は神奈川県では第2の大きな都市ですし、やりがいがあります」と代表の平沢雄介氏は語る。
近くに「ソリッドスクエア」というIT関係の会社が多数入居するオフィスビルがあり、そこに勤めるサラリーマンの顧客が多い。また、横浜の店と両方を行き来する常連もいる。中継スケジュールをホームページで見て、来店する人も多い。
スポーツの中継では、野球の巨人・阪神戦、オリンピック、サッカーの日本代表戦、地元の川崎フロンターレのアウェーの試合などに人気がある。
メニューは、ドリンクではビールはもちろんだが、チアリーダーが席の前で直接果汁を搾ってくれる「生しぼりオレンジサワー」と「生しぼりレモンサワー」(各780円)の人気が高い。
チアガールが果汁を絞ってくれる、生しぼりオレンジサワー。
フードでは、ガーリックライス(880円)、チアリーダーが席の前でソースを絡めてくれる「バッファローチキンウイング」(580円)が人気だが、サラダ、スープ、ピザ、パスタ、おつまみ類などバラエティに富んだメニューだ。
「ガーリックライス」880円
デザートも手作りのケーキが充実しており、「チェーリーパイ」(580円)などがある。誕生日の人にはケーキ無料で、チアリーダーたちが歌を歌うなどして盛り上げるサプライズもある。
スポーツ+萌えというコンセプトが受容されるのか、期待したい店だ。
・格闘技ファン垂涎のレアなお宝が満載の夢に浸れる店
格闘技の聖地、水道橋にある「コロッセオ」は、プロレス、格闘技、ボクシングを中心に、団体にこだわらず、あらゆる格闘技ファンが集まる店である。
オープンは2001年5月で、既に8年目に入り、選手のトークイベントや記者会見も行い、ファンの間では広く知られている。
「後楽園ホールではほぼ毎日、何かしらの団体の試合が行われているのですが、ファンの人たちは見終わってから語り合いたいと思っています。しかし、適当な場所がなかったので、これまで居酒屋に行っていたのです。だったら、ファンたちが集まって語れる場所がつくれないかというのが原点です」と語るのは代表の大森敏範氏。
「コロッセオ」 外観
「コロッセオ」 店内
隠れ家のようなロフト席。
大森氏自身、K-1審議員でもあり、格闘家との交流も深く、多くの選手が来店しており、約500点のレスラー、格闘家、ボクサーのサイン入りパネルを店内に展示している。
また、店のエントランスの階段を下りた場所の壁には、アントニオ猪木氏の手形があり、店内にも大山倍達氏の遺品、モハメド・アリ氏直筆サインパネル、有名ボクシング選手のサイン入りグローブなど、格闘技ファンならずとも興味が引かれるお宝も満載である。
アントニオ猪木氏の手形
パーティー需要も多く、格闘技会場の臨場感を味わえるように、音響、照明のシステムにもこだわっているので、パーティーでは非常に喜ばれる。たとえば、結婚式の二次会で、好きな選手の入場曲とともに新郎新婦が入場すれば、とても盛り上がる。
ラウンドガールが女性スタッフとして働いており、その面でも臨場感を感じられるだろう。席数は50席、顧客単価は2500円ほどだ。
ウエートレスは現役ラウンドガール
人気メニューは、「名物!炎の石焼麻婆豆腐」(700円)、「秘伝!壺漬けサーロインステーキ」(1150円)、10個のうち1個に激辛餃子の入った「危険!死亡遊戯的餃子」(800円)など。
「名物!炎の石焼麻婆豆腐」700円
これからの秋冬シーズンは、山本小鉄氏直伝の「新日本プロレスちゃんこ鍋」が新メニューとして登場する。
ドリンクは生ビール、サワー、ワインなど基本的なものがそろっている。
同店の知名度は海外の日本のプロレスファンも来るほどで、ファンにとっては夢に浸れる店だと言えるだろう。
・シネコンのような雰囲気で食事して馬券も買える競馬場
競馬の観戦スタイルも変わってきている。
東京シティ競馬(大井競馬場)では2001年、4号スタンド4階に、日本初の競馬観戦レストラン「ダイアモンドターン」をオープン。
全席指定で1人5000円(お酒は別途料金)のバイキング形式となっており、テーブルにはモニターが付いていて、オッズやレース映像も確認できる。店内に馬券販売機や払戻機も置いてあり、快適な環境で競馬が観戦できる。
ダイアモンドターンの店内
ダイアモンドターンのビュフェ台
ステージグリルコーナーでは、シェフが肉料理をその場で調理して提供するほか、個室やパーティールームも完備。週末や大きなレースがある時などは、満席になるほどの人気だ。総席数は524席となっている。
また、06年にTCKスクエアという正門とスタンドの間にある建物の1階に、スタンディングバー「カレラ」をオープン。店内には37インチ大型液晶モニター2台と20インチ液晶モニター7台(オッズ用)が設置されており、スタンドのように直接競馬は見れないが、映像を通して中継を観戦できる。
つまり、競馬専門スポーツバーである。収容人数は約70人で、店内に馬券販売機や払戻機も置いてある。
「カレラ」 外観
「カレラ」ではお酒を飲みながら馬券が買える。
日本酒ベースのカクテルFumioは名旗手の的場文雄氏にちなむ。
そのほか、L-WINGと呼ばれる03年に新しく建設された指定席エリアは3階3000円、4階3500円が基本料金となっているが、カウンターバーや本格的な中国茶と点心が味わえる店などが入っている。
大井競馬場内「L-WING」
「L-WING」は快適な環境で観戦できる指定席エリア。
「L-WING」内のスタンディングバー。
5名席5万円のコンパートメントルーム。
いずれも、おしゃれな空間でレースの合間、あるいはレースを見ながら飲食も楽しんでもらおうという趣旨であるが、価値の多様化を背景に、競馬場での過ごし方も人によって違ってきていることを意識したものだ。
しかし、競馬が紳士・淑女のエンターテイメントとして定着している欧米にはすでに競馬観戦レストラン、バーはあって、大井競馬場では提携しているアメリカのカリフォルニア州サンタアニタ競馬場を参考に、飲食の充実をはかっている。
大井競馬場では1986年より、平日の夜に楽しめるサラリーマン、OLの遊び場として日本初のナイター競馬「トウインクルレース」を開催。幻想的な「トウインクルレース」はデートや合コンにも使えると評判になり、今日にいたっている。
幻想的なトウインクル競馬。
「ダイアモンドターン」、「カレラ」などの展開は、その延長線上での飲食強化と言えるだろう。
以上見てきたように、欧米から始まったスポーツを観戦しながら飲食を楽しむスタイルは日本でも定着し、さながらスタジアムのような熱気のある応援も見られるようになった。
スポーツ中継のない時にも集客できるように、「ベースボールカフェ」のようにイベントを打ったり超特大サイズのメニューで差別化をはかる、「アメリカンダイニング チアーズ」にように萌えの要素を導入する、といったような工夫も行われており、注目されるところだ。ファン、サポーターの集う場としてスポーツバー、スポーツカフェはこれからも着実に広がっていくだろう。