・ドンペリ出す店も。片瀬西浜はカフェ的にレベルアップ
湘南のビーチでも最大の集客力を誇る藤沢市の片瀬江ノ島。江ノ島に連なる道を境に、海水浴場は片瀬西浜と片瀬東浜に分かれるが、藤沢市役所によれば昨年は合わせて420万人が訪れ、例年どおりだったという。
うち約300万人が西浜、約100万人が東浜で、2004年の新江ノ島水族館リニューアルオープン以来、西浜は毎年300万人台を維持し、カフェ、ダイニング、ライブハウスの要素を強調した大人が水着を着ていなくても楽しめる、新しい海の家像の発信地の地位を確立している。
印象として、片瀬西浜の海の家はカフェのテイストが全般に強く出ており、また東京のトレンドと直結している点で、ライバルの由比ガ浜や逗子海岸と異なっている。その傾向は年々強まり夏季限定の飲食店街のような雰囲気を醸し出している。
それに対して、東浜はファミリーが主流ではあるが、10代、20代前半の海水浴客も多い。海の家は全般に従来型で特に見るべきものは少ない。今年は18軒が出店している。
片瀬西浜の海の家の数は31軒であり、湘南では逗子に次ぎ第2位。全国でもおそらくトップ5に入る賑やかさだ。
そうした中で、なんと「ドンペリ」を出す海の家があるというので行ってみた。水族館裏の海の家が連なる中では西端に近い場所にある、「ワイルドボア」がそれだ。
「ワイルドボア」外観。
運営するのは、中古車販売、イベント企画、飲食業などを展開する、立正コーポレーション(本社・横浜市港北区)で、飲食は横浜市内で横浜家系ラーメンの「九ツ家」を経営している。今年は昨年に続いて2回目の出店だ。
「社内に海が好きな人が多く、皆ジェットスキーをやるんです。オーナーの希望で海の家を始めたのですが、去年はいつまでも梅雨が明けない状況でさっぱりでした。今年は7月前半から集客が良く、去年の倍以上のお客さんに来ていただいています」と、丹野公人店長はホッとしている様子。
やはり昨年は、片瀬江ノ島を訪れた人の総数は例年どおりだったかもしれないが、海の家を使ってゆっくりしようという人は少なかった。このまま好天が続けば、昨年のマイナス分を補って余りある売り上げを計上できる見込みだ。
席数は25席ほどだが、顧客の要望を聞いて、今年から海側奥に予約限定のVIP半個室席をつくったり、新たにカウンターまわりに椅子を置く計画があるなど、順次修正しながら店づくりを行っている。昨年は営業にならない日が多く、問題点が発見できずに改善し切れなかったのが残念だったそうだ。
「ワイルドボア」店内。
海の家なのでロッカー、更衣室もあるが、メインになっているのは飲食。厨房には恵比寿のハワイアンダイニング「マハナ」が入っており、本格的なロコモコ(800〜1000円)、カレー(800〜1300円)のほか、枝豆、オリオンリングのようなおつまみも提供している。
恵比寿のハワイアンダイニング「マハナ」が作るロコモコ(800〜1000円)。
また、テイクアウト中心に、ジェラートの天ぷら、じら天本舗の「じら天」(500円)、K-1で活躍したニコラス・ペタス選手のケバブ店(ケバブサンド500円)がブース内に出店している。
ジェラートの天ぷら、じら天本舗の「じら天」(500円)。
「ワイルドボア」 ケバブとじら天の売場。
ドリンクは直営のバーカウンターで注文するが、何と言っても海の家に「ドンペリ」(5万円)が置いてあるのは面白い。そのほか「モエ・エ・シャンドン」(3万円)など高級酒が数種類ある。
「ワイルドボア」のカウンター。
「ワイルドボア」の冷蔵庫で冷やしてあったドン・ペリニョン。VIP席で飲む人が結構いるという。
VIP席。
「オーナーの知り合いの社長さん方も来るので、VIP席で景気付けによく開けられますよ」と丹野氏。顧客のニーズに合ってるというわけだ。
土日は音楽パーティーを開催し、サルサ、レゲエ、ヒップホップ、Jポップ、トランスなど様々なジャンルのファンがイベントごとに集まる。だいたい1回のイベントで200人くらいは来店するそうだ。
さらに毎週木曜日は「Ve.ナース(ヴィーナース)」という8人組のグラビアアイドルグループのメンバーが、セクシーなナースの衣装で接客する。なのでファンの人が遠くからやってくるという。スカパーの「Ve.ナース」の番組に立正コーポレーションが協賛していることからコラボ企画が実現した。
顧客単価は1000円ほどで、顧客層は20代後半から40代が中心。顧客を飽きさせないように、多様なサプライズを海の家の企画に盛り込んでいる。
さて、今年の片瀬西浜の海の家は、東京でトレンドリーダーとなっているカフェがこぞって出店している。
1990年代の終わり頃、原宿キャットストリート沿いにあった、カフェブームの基点と言われた伝説のカフェ「ルームルーム」を源流とする、代官山「オウカフェ」が進出して7年目となるが、今年はレストランの要素を今まで以上に強めている。
「オウカフェ湘南」は、今年は食事を強化した。
日替わりでお勧めメニューが変わるが、ある日の肉料理は「骨付き鶏もも肉のカレークリーム煮」(1100円)、パスタは「えびとパプリカのバジルソースパスタ」(1000円)、一品料理に「ラタトゥイユ」(700円)、「鴨もも肉のコンフィ」(1350円)などといった具合で、これまでの海の家の常識を覆す本格的な洋食が提供されている。
今年が2年目となるゼットン経営の「アロハテーブル」は、ハワイアンカフェのテイストをそのまま海の家に持ってきた感じだ。「オリジナルロコモコ」(900円)をメインに、「ハワイアン塩ラーメン」(800円)、「BBQ肉巻きおにぎり」(400円)、ハワイ風かき氷で粉雪のような「シェイブアイス」(400円)など、創作性やトレンドも交えてそつなくメニューをつくっている。席数20席で、客単価は2000円。
ゼットン経営の「アロハテーブル」。
その「アロハテーブル」の隣に、今年初出店のパーティカンパニー経営の「the
Beach Cafe」が2区画を使って大々的にオープンしている。席数は100席。
「the Beach Cafe」 店内。
全国6店で展開中の「芸能人カレー部」というカレー好き芸能人6人、石田純一、ラサール石井、武蔵、益若つばさ、新山千春、森下千里の考案したオリジナルカレーが各800円で食べられるのが売り。特にラサール石井の「牛すじカレー」は人気があるそうだ。
ドリンクでもハワイ・マウイ島から直輸入した豆を使った、丸一日かけてつくる水出しコーヒー「マウイコーヒー・ロースターズ」(500円)を湘南で初めて提供している。お酒は生ビールのほか、カクテル、ハイボール、テキーラショットなどと揃っている。
東側のカフェスペースに対して西側は個室ジャグジー付きラウンジ「the Beach Grand」になっており、こちらでもカフェメニューが楽しめる。肌の古い角質を食べてくれる「ドクターフィッシュ」という小魚も導入しており、脚を水槽に浸しているだけで肌がきれいになる。イベントも適時開催しており、これだけの猛暑とあって今夏は相当な売り上げを計上すると目される。
同じく今年初出店の「花畑牧場」。タレントの田中義剛経営の北海道・十勝の牧場で、生キャラメルとホエー豚が名物。農場、工場、ショップ・レストランと垂直展開しており、六本木ヒルズにもカフェがある。
「花畑牧場」。
看板の「ホエー豚丼」(1000円)のほか、カレー、焼きそば、ホエー豚のソーセージ、生キャラメルのシロップをかけたかき氷などが味わえる。
そのほかにも、本格中華を出す海の家、富士宮焼きそば、地場のシラス丼、イソフラボンラーメンなるものを売りにする店など、ここに来れば東京のカフェとB級グルメの売れ筋はほぼ制覇できるようなラインナップとなっている。
片瀬西浜の海の家の営業期間は7月1日から8月31日まで。営業時間は朝8時から夜は遅くても20時までで、店じまいの時間が湘南のビーチの中でも早い。それだけにバーや居酒屋的な夜の商売に向かず、カフェに近い海の家が発達した面もある。