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一部でユッケ復活も、再開を喜び飛びつく顧客は少ない。
~焼肉店は生肉提供に依然慎重。本格的な復活は秋以降へ。~(4-1)

2011.7.31
「焼肉酒家えびす」の食中毒事件以来、提供を取りやめていた焼肉店のユッケなどの生肉メニューを、一部で再開する動きが見られる。しかし、夏場の食中毒を起こしやすい時期でもあり、厚生労働省には生レバーの提供を禁じようという動きもあって、多くの店では再開に慎重。また、消費者にもあえて今、生肉を食べなくてもといったムードが広がっている。しかし、ユッケは元々人気メニューであり、各店はどのタイミングで復活させるか、機をうかがっている。4回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


「まるしま」本店の再開したユッケ。

一部でユッケ復活も、再開を喜び飛びつく顧客は少ない

7月4日、大阪・船場にある焼肉店「まるしま」本店はユッケの提供を再開した。

 同店の店長によるブログ「takabeefのひとり旅」によれば、「先般より生食肉の提供を自粛しておりましたが保健所の指導のもと、再開できることになりました」とのこと。

 同店は食肉処理場「船場ミート」を有しており、仲卸問屋直営店なので牛肉の流通ルートも明確。大阪食品衛生協会食品検査センターで検査し、陰性の牛肉を入荷。厚生労働省が定める生食用食肉等の衛生基準に適合した加工を、店内で行っているので安心して食べられるというわけだ。

「まるしま」本店は安全、新鮮、安価、良肉をモットーに19年間営業してきた店。ランチの黒毛和牛焼肉定食が800円でライスと浅漬けお替わり無料といった内容からして、その営業方針がわかるだろう。


まるしま本店。サラリーマンに人気の店だ。

 ただし、レバー、センマイ、ハートなどといった内臓の刺身は引き続き自粛中である。

 夏場はスタミナをつけたい人が来店するため、焼肉店は冬に次ぐ繁忙期。このタイミングで元々人気メニューだったユッケなど生肉メニューを、復活させようという動きが一部で出てきた。

 厚生労働省の発表によれば、4月27日以降「焼肉酒家えびす」で食したユッケが原因と見られる、腸管出血性大腸菌O111及びO157の食中毒事件は、富山、福井、石川の北陸3県と神奈川県で、有症者数169名、死亡者4名を数えた。

 それを受けて危機感を募らせた厚生労働省は、全国の保健所を通じて、焼肉店など牛肉と馬肉の内臓肉を含めた生肉を提供する施設に対して緊急監視を行った。平成10年に策定された「生食用食肉の衛生基準」が守られているかどうかを立ち入り調査。

 適合店には衛生基準に則った加工を施した生肉であることを、メニュー表、店内などに掲示。非適合店には生肉の提供自粛を求め、改善を行った後、再度保健所が立ち入り調査を行って、適合していれば生肉が提供できるようになっている。

 特に生肉の需要が高い関西では、元々今回の食中毒で被害者が出た地域ではないこともあって、生肉の再開を心待ちにしている消費者も多いとされていた。

「まるしま」本店の決断は、他店に先んじて生肉を再開して、消費者の生肉需要にこたえた英断ととらえることもできるだろう。

 しかし、そういった焼肉店の思惑にもかかわらず、生肉の動きは必ずしも良いとは言えない。

 たとえば、神戸の生田神社の裏手にあるA4ランクの黒毛和牛を提供する「炭火焼肉 遊山苑」では、同店ブログで5月20日にユッケ、生レバーの再開を宣言。「自信を持って生ものを提供していましたが今一度見直し安全を再確認しました」としていたが、7月に入って再度自粛に入った。


「遊山苑」店内。

 周囲に生肉を提供している店がほとんどなく、消費者の理解も得られないといった判断のようだ。

 京都・祇園の「肉割烹 安参」は一人1万円相当のコースを出す、昭和23年創業の高級生肉専門店。レバー、ツンゲ(タン)、ヘルツ(心臓)、ヘレ、マーゲン(ミノ)の刺身を自粛することなくずっと提供を続けているが、「焼肉酒家えびす」の食中毒事件以来客足がパッタリと減り、なかなか回復してこないという。


「安参」 レバー刺身。


「安参」外観。

 関西ですら数少ない生肉の提供店に顧客が集中して繁盛しているということはなく、やはり影響を受けているといった状況である。

 大阪市保健所によれば、生肉提供370施設のうち、適合施設は69であり、わずか18.6%であるが、それでも70店近くは市内で生肉が提供可能なはずでかなりの数がある。

 コリアンタウンで知られる鶴橋の通称「焼肉通り」では十数店の焼肉店がひしめくが、全ての店が生肉を出しているわけでなく、提供店はごく一部。多くの店では自粛中だ。そして地元に詳しい人たちに聞いても、ユッケ、レバー刺などの生肉を提供しているからといって、その店が特別繁盛しているようにも見えないようだ。


鶴橋の焼肉通りでも生肉提供店は主流ではなく自粛する店が多い。

 それどころか、5月以降失速していた焼肉店の需要は、6月後半の気温上昇とともに回復基調にあり、そろそろ生肉の復活もと考えていた矢先に、福島県南相馬市から放射性セシウムに汚染された肉用牛が出荷されていたことが発覚。福島第一原子力発電所に近い東北一円の肉用牛に汚染が拡大している。

 それとともに焼肉店への客足が再度鈍くなっており、ユッケ再開どころでもなくなってきた。

 小売でも、京都と滋賀に6店を有する「お肉のスーパー やまむらや」では6月11日に生肉復活。牛ユッケ、牛タタキ、牛センマイ、牛ハート刺を販売しているが、「自粛する前は人気商品でしたが、以前ほどの勢いはないです。よくぞ再開してくれましたと非常に喜んでくださるお客様も多い反面、まだ抵抗感がある人も少なからずいらっしゃるのじゃないですか」と、当てが外れた様子だ。


「やまむらや」生肉復活広告。


やまむらや天神川本店(京都市右京区)。

 ただし、人気商品であったユッケなど生肉をどこかのタイミングで復活させたいと各店は考えており、秋以降の時期をはかっている感がある。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ)  2011年7月24日執筆