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フードリンクレポート


世界的な日本食ブームで見直される「味噌料理」を、気鋭の飲食店が新作メニュー競演
「ろばた焼き 絶好調 てっぺん」(東京・歌舞伎町/炉端焼き)
「個室街道 しちゑもん酒場」(東京・池袋/和風個室居酒屋)
「カフェ・リゴレット」(東京・吉祥寺/スパニッシュ・イタリアン)

2008.5.23
健康志向が高まる中、世界的に発酵食品が注目を集めている。ヨーグルトやチーズを昔から食事に多用するカスピ海沿岸のコーカサス地方は、長寿で知られる。また、韓国のキムチはビタミン豊富でカプサイシンによるダイエット効果も期待できる健康食だ。そして、世界的な日本食のブームの中、欧米のシェフの間で有望な食材として期待が高まっているのが、日本の伝統的な発酵食品「味噌」である。その味噌を使った創作メニューを、新進気鋭の3つの業態の異なった店によって考案された。3店の「味噌料理フェア」を取材した。


「しちゑもん酒場」 春の味噌祭り

味噌料理の王道にして定番で通用する居酒屋メニューを提案

 1店目に訪問したのは新宿・歌舞伎町、新宿区役所の前にある「ろばた焼き 絶好調 てっぺん」だ。オープンは昨年11月で、コンセプトは「和」。和食の「和」でもあり、調和の「和」でもあり、和みの「和」でもある。

 旬の食材にこだわる炉端の店で、ざるにその日のおすすめを乗せて顧客にプレゼンする、演出を行っている。顧客の7割ほどが注文するという、ダシを染み込ませて焼く、肉厚の石川産ドンコシイタケ(280円)は絶品だ。

 経営は株式会社絶好調で、社長の吉田将紀氏は「居酒屋甲子園」を主宰するNPO法人居酒屋甲子園理事長・大嶋啓介氏率いる、てっぺん総店長から独立を果たした。てっぺん各店と同様に、本気・元気・やる気を引き出す朝礼を、希望者に公開している。

 客単価4500円、客席数46席となっている。

 同店で提案していただいたのは、「スルメイカのゆず味噌肝入りホイル焼き」と、「八丁味噌の豚モツどて煮」の2品。


豊富な味噌フェアーメニュー表

「スルメイカのゆず味噌肝入りホイル焼き」は、千切りにしたスルメイカの上に、スルメイカの肝・ゆず味噌・酒・味醂を火にかけて醤油・塩で味を調えた「肝味噌」とうちネギをのせて、ホイルでくるんで炭火焼にしたもので、お酒の進む居酒屋らしい新メニューだ。ゆず味噌は、こうじ味噌に酒、味醂、ゆずのみじん切りを加え、砂糖で甘みを調整した。


「スルメイカのゆず味噌肝入りホイル焼き」

 一方「八丁味噌の豚モツどて煮」は、臭みを取る下処理をした豚モツを「甘味噌」で煮込み、うちネギとトウガラシを散らしたオーソドックスなメニューである。甘味噌は八丁味噌に酒、味醂、ダシ、砂糖、醤油、塩を加えて味付けした。煮込むほどに味噌の味がしみわたる、東京でも人気が高い名古屋の郷土料理をモチーフにしたメニューだ。


「八丁味噌の豚モツどて煮」

 素材を生かした正統派の炉端をうたう店らしく、できあがったレシピは店の定番として長く愛されそうな、食材が嫌いな人でない限り万人受けしそうなメニューとなった。甘めのゆず味噌を渋い肝味噌に、辛口の八丁味噌を甘味噌に変容させて使うところに、シェフの発想の豊かさが垣間見られた。


「期間限定ホタルイカの酢味噌和」


「ろばた焼き 絶好調 てっぺん」


鍋料理、前菜、メインディッシュ、パスタと多彩な創作料理

 次に訪問したのは、池袋駅東口より5分ほど歩いた飲食ビルにある、和風個室居酒屋「個室街道 しちゑもん酒場」だ。

 オープンは昨年の8月で、石川五右衛門に憧れて料理人とこそ泥の二足のわらじを履く小悪党たちが営む、江戸町民に愛された酒場という設定のテーマレストランだ。ゲームソフト「がんばれゴエモン」シリーズへのオマージュでもあり、30代のファミコン世代をターゲットとしている。

 福助、招き猫、戎さんなどの縁起物が店内にいたるところに飾ってあるかと思えば、ミラーボールが回っていたり、提灯が吊り下げてあったりと、賑やかな内装の店だ。メニュー的には、「小判つくね」(1枚180円〜)と5種類の「石焼飯」(750〜900円)を売りにしている。客席数114席、客単価3500円となっている。

 この店では、「自家製粗挽き味噌コラーゲン鍋」(1280円、2人前より)、「海老とアボガドの味噌山葵マヨネーズ」(680円)、「清流鶏もも肉の西京焼き」(750円)、「茶蕎麦の味噌クリームパスタ 名物小判つくね添え」(820円)という4つのメニューを提供している。



「自家製粗挽き味噌コラーゲン鍋」は女性に人気のコラーゲン鍋を味噌味で展開したもの。鶏ガラを長時間煮込んで冷蔵庫で固めたコラーゲン入りの、豆板醤と特製合わせ味噌を1対1で配合した豆板醤味噌スープでいただく鍋である。粗挽きのつくねは歯ごたえがあり、そのつくねにも合わせ味噌、豆板醤を練り込んでいる。味噌の風味はほんのりと香ってくる上品な感じで、素材の味を妨げない程度に抑えられている。


「自家製粗挽き味噌コラーゲン鍋」(1280円、2人前より)

「海老とアボガドの味噌山葵マヨネーズ」は、海老とアボガドの壺漬を味噌入りの山葵マヨネーズであえたもので、サラダ感覚で食べる。味噌は素材の味をさらに引き出すスパイス的な使われ方をしており、前面に味噌味が出てくるわけではないが、お酒のつまみとしては上々の品だ。


「海老とアボガドの味噌山葵マヨネーズ」(680円)

「清流鶏もも肉の西京焼き」はやわらかくあっさりとした岩手の清流鶏もも肉を、西京味噌で焼いたシンプルな料理で、こちらは味噌の風味をストレートに味わうものだ。


「清流鶏もも肉の西京焼き」(750円)

「茶蕎麦の味噌クリームパスタ 名物小判つくね添え」は、茶蕎麦に合わせ味噌とアボガドをからませたクリームソースをかけてパスタ仕立てにした、イマジネーションに富んだメニュー。この店の看板である「小判つくね」が添えられているのもうれしい。これも味噌の風味がほんのりと香ってくる感じで、和と洋が融合した新感覚が楽しめる。


「茶蕎麦の味噌クリームパスタ 名物小判つくね添え」(820円)

 総じて、隠し味としての味噌の魅力を追求する一方で、ストレートに味噌味を生かしたメニューもあり、味噌の多彩な性格を引き出すべく考案した、洋食側から発想した和のメニューといった色彩の強いラインアップとなった。


素材の旨みを生かすソースに適材適所の味噌を使い分ける

 最後に訪問したのは、東京郊外吉祥寺にあるスパニッシュ・イタリアンという新しいジャンルを開拓した「カフェ・リゴレット」だ。

 これは西麻布「権八」にてブッシュ大統領と小泉純一郎総理(当時)にサービスした男、新川義弘氏が独立して設立したヒュージの第1号店。オープンは2006年4月である。

 1階エントランスにスペインバル風の立ち飲みゾーンとテラスを備え、奥にはオープンキッチンとカウンター及びダイニング、ラウンジ、2階にも半個室やカウンター、ダイニングがあるという、複雑な構造の店である。階段のあたりは吹き抜けになっており、豪華なシャンデリアが吊り下がっている。客席数約150席、客単価3500〜3800円となっている。


1階スタンディングバー


1Fカウンター

 集客は好調で、最近は1日に700人を越える顧客が来店する日もある。

 メニューではオール500円で提供されるタパス、手づくりのパスタ、釜で焼き上げるナポリ風ピザ、1本2500円均一で提供されるワインが売りとなっている。

 同店では、「味噌料理フェア」にあたって、「イベリコ豚の肩ロース バルサミコと味噌のソース」(1500円)、「サーモントラウト アイオリ味噌ソース」(1500円)、「焼き味噌のウニクリーム スパゲッティーニ」(500円)と3つのメニューが考案された。

 まず、肉料理の「イベリコ豚の肩ロース バルサミコと味噌のソース」であるが、甘みのあるイベリコ豚に、香が豊かで旨みがのっている2年熟成味噌とバルサミコ酢を合わせたソースをかけることで、さっぱりとした中にも素材が生きる、日本人の味覚にフィットした味が表現されている。味噌は強く主張することはないが、まろやかな口あたりが心地よい。


「イベリコ豚の肩ロース バルサミコと味噌のソース」

 魚料理の「サーモントラウト アイオリ味噌ソース」は、サーモントラウトを京風白味噌とアイオリを合わせたソースでいただく。これも、アイオリの味わいがさらにまろやかでコクのあるようなタッチに仕上がっており、味噌は強く主張しなくても素材を引き立てる役割を果たしている。

「焼き味噌のウニクリーム スパゲッティーニ」はパスタではあるが、あえてタパスとして小皿料理で提供するものだ。ウニクリームのソースが、焼き味噌と合わせることで、深みを増している。小品ではあるがワインと一緒に楽しみたい、印象に残る一皿である。


「焼き味噌のウニクリーム スパゲッティーニ」

「カフェ・リゴレット」では一貫してソースに適材適所の味噌を合わせることで、素材の味がさらに引き出されることを主眼に、レシピがつくられていた。これは日本料理の味噌をスープとして楽しむ、あるいはさまざまな味噌焼き・味噌煮のように素材より味噌を楽しむ考え方と異なり、調味料としての味噌の可能性を追求したといえるだろう。


「カフェ・リゴレット」 外観


調味料、ソースの素材としてもさまざまな可能性を秘める

 3店のシェフが独自の視点で味噌料理を開発した、今回の「味噌料理フェア」。

 味噌の提供を行ったマルコメでは、店舗でのアンケートを実施したが、おおむね「おいしくてよくできている」との回答を得た。

 また、居酒屋で味噌料理を注文しない理由として最も多いのは、「味噌料理のメニューをあまり見かけない」との回答が多く、ブランド露出の少なさが顕著に現れた。

一方で、味噌のイメージは「体にいい」、「健康食だ」など、食べること・味に対しては非常に肯定的にとらえる向きが多かったのも事実である。

 近年の食の洋風化に伴って、日本における味噌の消費は減少傾向にある。ところが、世界的な日本食ブームで、味噌の輸出は対照的に伸びている。ヘルシー志向の時代にぴったりな発酵食品の一角として、フランス料理やイタリア料理では、大豆を原料とする味噌はタンパク源としても注目の食材なのである。

 今回の3店が示したように、味噌は調味料としても、ソースの素材としても、さまざまな可能性を秘めている。世界の食のトレンドに乗り遅れないように、身近な食材である味噌を見直してみてはいかがだろうか。


【ろばた焼き 絶好調 てっぺん】
住所 東京都新宿区歌舞伎町1-2-6 三経55ビル9F
電話番号 03-3209-5578
営業時間 月曜〜土曜 18:00〜翌5:00
日曜・祝日 18:00〜24:00
定休日 不定休
客席数 46席
客単価 4500円
経営母体 株式会社絶好調

【個室街道 しちゑもん酒場】
住所 東京都豊島区南池袋2-26-10 アクティオーレ南池袋3F
電話番号 03-5391-6210
営業時間 月曜〜木曜、日曜・祝日 17:00〜24:00(L.O.23:00)
金曜・土曜、祝前日 17:00〜翌5:00(L.O.翌4:00)
定休日 無休
客席数 114席
客単価 3500円
経営母体 株式会社ダイヤモンドダイニング

【カフェ・リゴレット】
住所 東京都武蔵野市吉祥寺本町2-14-25吉祥寺第二マーブルビル1・2F
電話番号 0422-28-7676
営業時間 11:30〜翌4:00
定休日 無休
客席数 約150席
客単価 3500〜3800円
経営母体 株式会社ヒュージ


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2008年5月22日執筆


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