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フードリンクレポート


卵料理が増える9〜10月も食中毒に注意!
サルモネラ菌は黄身にも潜む。

2008.10.8
食中毒は夏だけと思いがち。実は、9〜10月も要注意だ。食中毒の主流であるサルモネラ菌による患者数が特に目立つ。秋になると卵料理の需要が増える一方で、気温が下がるため、夏場に比べ、卵の扱いに油断してしまうのも原因のようだ。しかし、食中毒を起こせば営業停止、お客離れを招くことを肝に命じよう。


溶き卵を放置することで危険が高まる。

「月見バーガー」は2種のヘラを使う

 マクドナルドが9/1から期間限定で発売を始めた、秋恒例の「月見バーガー」。1991年から発売され、子供から大人まで人気のメニュー。特徴は、何といっても月を見立てた目玉焼き。

 その卵を焼く際に、マクドナルドは黄色と黒色の2種類のヘラを使っている。その理由を同社HPから引用する。トレーの下に敷かれる紙にも同様に記載されている。

「万が一生卵に有害な細菌があった場合でも、加熱後の卵に移さないようにするためです。黄色のヘラは生卵に、黒色のヘラは加熱後の卵に使い分けることで、2次汚染を防ぐ工夫をし、さらに2時間に1回、洗浄・殺菌をおこないます。手洗い、身だしなみはもちろんのこと、こうした調理器具の衛生を常に心がけることで、有害な細菌の2次汚染防止に細心の注意を払っています」

 国産卵を使用し、店舗納入前にヒビや汚れのあるものは下からライトを当てて取り除いている。さらに店舗での目玉焼き調理時にも食中毒を防ぐため、2種のヘラを使い分けている。

 汚染した殻の混入、殻に触れた事、介在した事での2次汚染による“ON EGG型”サルモネラ菌だけでなく、あらかじめ中味が汚染されている“IN EGG型”サルモネラ菌もあり、これが盲点となっている。これを防ぐのが、2種のヘラというわけだ。これは一例だが、マクドナルドは年間を通じて衛生に気を配っている。

 猛暑を終えた9〜10月には、行楽シーズンの弁当需要やおでんが始まるなど、卵の消費が増える。しかし、夏場を超えた安堵感から「涼しくなったから大丈夫」とばかりに卵の扱いを油断してしまう店が出てくる。ところが、厨房の中の温度や湿度は夏場とさほど変わらない。ここで食中毒の危険が待ち構えている。


サルモネラ菌防止マニュアルを実行しているか?

 ある企業の鶏卵取り扱いマニュアルでは、下記のように慎重に扱うことを推奨している。

① 入荷時にヒビの入っている卵は取り除き使用しない。
② 常に新鮮な卵を使用し、保管する際は、日光の当たらない涼しい場所を選ぶ。
③ 流水で洗浄する。
④ ジアノック(市販次亜鉛製剤の1つ)の400倍液に5分ほど漬けて殺菌する。当日使用する分だけ殺菌する。
⑤ 殺菌した卵はすぐに調理に使用する。保管する場合はすみやかに乾燥。
⑥ 卵を割る時は、原則として洗浄消毒した清潔な容器に1個ずつ割って、鮮度を確認した上で、別の洗浄殺菌した容器で混ぜる。割った卵を入れる容器は使用時毎に洗浄殺菌する。
⑦ 割卵液は、2時間以内に使い切る。氷中または冷蔵庫で保管して、常温に長く置かない。
⑧ 70〜75度で1分以上加熱する。熱が確実に内部まで伝わるように弱火で液状の卵がなくなるまで加熱する。



 このマニュアルで、汚染した殻の混入や、殻に触れた事、介在した事での2次汚染による“ON EGG型”サルモネラ菌だけでなく、中味が汚染されている“IN EGG型”サルモネラ菌も、割卵や液卵の保管、加熱時に防ぐことができる。

 しかしながら、現実には日々この通りに卵を扱うのは難しいようだ。本年9/5に京都第二赤十字病院で、入院患者と調理者15人が食中毒になった事件が発生。朝食に出されたスクランブルエッグからサルモネラ菌が検出された。同院の給食施設は保険所から3日間の調理停止を命じられた。安全だと思われる病院の施設でさえ、サルモネラ菌への予防措置が取られてなかったようだ。


米国ではお客が「殺菌卵」を選ぶ

 HACCPなど衛生手法の進んでいる米国では、出荷前にサルモネラ菌の殺菌処理をした「殺菌卵 pasteurized egg」が小売店頭にも並んでいる。消費者が「殺菌卵」と「未殺菌卵 unpasteurized egg」を選べるようになっている。殻付きの殺菌卵もある。

 レストランでも、「未殺菌卵」を使う際には、メニュー上で注意を促す表記をしなければならない。「殺菌卵」であれば不要だ。殻付きの殺菌卵を使えば、お客の前での卵料理も可能。

 日本の一世帯あたりの卵の年間消費量は、2007年で30,824グラム。1個65グラムとすると、474個。04年以降、ほとんど同量をキープしている。国別消費量は、社団法人日本養鶏協会によると2004年時点で、日本が1位で330個。2位米国257個、3位フランス253個。

「卵かけご飯」など生卵を食べる習慣がある日本では、卵の取扱いにも慣れ、安心感も根強くあるようだ。

 しかし、昨今の食品の安全・安心が声高に叫ばれる中で、既存食品が見直される動きもある。実際に、日本でも殺菌卵の市場が僅かながらも拡大している。食品工場での使用から、コンビニのベンダーに広がり、現在は一般飲食店でも採用するところが出始めている。最大手のキユーピーに聞くと、5キロ以下の小型容器に入れられた殺菌卵が、鶏卵業務用市場約75万トンから比べれば微々たるものだが、1990年に1万トンを超え、現在は3万トンに迫るまでに成長している。

日本でも「殺菌卵」使用をメニューに明記することがウリとなる時代が近いかもしれない。


【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2008年9月18日執筆


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