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北海道直送、旬の食材でいただく本格派フレンチ
「ジャンヌ ダルク」
(東京・自由が丘/フレンチ)

第322回 2010年6月29日

季節によって異なるジャンヌ ダルクの料理。
 東急東横線・大井町線自由が丘駅より徒歩10分ほど。世田谷区等々力の洗練された住宅街にある、マンションの一角にあるのが、北海道直送の食材を使う新感覚のフレンチの店「ジャンヌ ダルク」だ。今年4月10日にオープンした。

 支配人兼シェフの半田勝也氏は、札幌の出身。上京し銀座のフランス料理店に入り、フランスのパリ、オルレアンのミシュラン星付きレストランで修業。

 帰国後、赤坂の全日空ホテル(現・ANAインターコンチネンタル東京)でメインダイニングのシェフとして立ち上げにかかわり、釧路全日空ホテルに出向。オープニング・レセプションまで従事して、北海道の食文化に深くかかわるきっかけとなった。


支配人兼シェフ 半田勝也氏。

 1995年に知床の玄関口にあたる清里町にできた、オーベルジュのはしりである「ホテルP」に転職。5年間従事した後、阿寒国立公園屈斜路湖のオーベルジュに勤務。さらに日高町の「グランオーベルジュホッカイ」に支配人兼任のシェフとして勤務。

「グランオーベルジュホッカイ」では、オープン以来5年間年間7000万円の赤字を続けていた経営を、3年間でトントンにした手腕が話題になり、北海道ローカルの新聞で取材を受け、TVにも数多く出演したという。その時はプールの運営をやめるなどのリストラ策と、オーベルジュを本来の目的である料理と宿泊に絞るといった、適切な選択と集中を行ったのが奏功。日本オーベルジュ協会加盟店にまでなった。

 このように北海道、特に道東ではオーベルジュの開拓者的存在である半田氏であるが、オーベルジュの仕事を始めた当初から、40歳を過ぎれば東京に帰って、もう一度料理人としての人生をリセットしようと思っていたそうだ。

「北海道の田舎にいると、どうしても情報に乏しくなる。周りの人たちも楽観的なのんびりした人ばかり。同期のシェフたちがどんどん東京で名前が売れてくる中で、だんだん自分の料理が東京で通用するのか不安になってきました。出資するという人も現れて、去年の秋から東京に戻ろうと具体的に考え始めました」と半田氏は語る。

「ジャンヌ ダルク」を自由が丘にオープンしたのは、元々世田谷近辺で物件を探していて、当初は駅前に決まりかけていたが、自由が丘には独特なイタリアンと融合したようなフレンチの文化があり、一見客が主流の駅前でその流れに飲み込まれるのを避けて、あえて駅から少し離れた住宅街に決めた。青山や代官山はオーバーストアー気味であり、レストランの売り上げが下降気味と聞き、エリアとしては考えなかった。

 立地は住宅街の中とはいえ、自由が丘駅や田園調布駅などへと頻繁にバスが発着する停留所前にあり、看板はかなり目立っている。近くにコインパーキングもあり、車でも来れる環境になっている。


外観。


店に繋がるファサード。


エントランス。

 反響は大きい。周囲には富裕層、芸能人が数多く住んでおり、特に宣伝していないにもかかわらず、土、日、祝日はすでにそうした顧客で満卓になる状況と、順調な滑り出しとなっている。平日も波はあるが平均で30人弱は入り、夜は3、4件の予約が入る。

「自由が丘には正統派のフランス料理店がほかにないので、喜んでいただいています。平日のランチはご近所のマダム、休日はご家族でいらっしゃる人が多いです。リピーターが多く、もう6回くらいお越しになっている人ばかりになってきました。リピーターの人が、新しくお客さんを連れてきてくれるような感じで、広がっています」と、半田氏は予想以上の反響に戸惑いながらも嬉しさを隠せない。


店内。


店内。


テーブルセッティング。

 最初の3ヶ月は顧客を入れることより、来た人の反応を見る試運転期間と考えていたが、ゴールデンウィーク頃には忙しくなってしまった。顧客は店に近い、等々力、奥沢、田園調布、駒沢、二子玉川エリアから来る人が多いが、5月末から都内中心部、横浜あたりからの来客も増えてきたそうだ。

 半田氏が勤務していた北海道のオーベルジュは、大半が東京など首都圏から泊まりに来る人だった。北海道にありながら、ターゲットは首都圏だったのだ。自由が丘にフレンチをオープンしても、オーベルジュと顧客層が同じなので、半田氏を慕う美食家たちが集結してきている面もある。

 ランチは5000円のコースが中心。ディナーの単価は8700円〜8800円ほどで、1万円のコースを注文する人も多いそうだ。自由が丘のフレンチでは断然、客単価は高い。

 料理は何といっても北海道の勤務経験を生かした、現地直送の旬の食材を使うことに魅力がある。

「野菜はほとんど北海道直送です。特に盆地の旭川周辺は夏は30度、冬は氷点下30度といった寒暖の差が激しい場所で、育とうとする野菜が頑張るので糖度が高いです。ホワイトアスパラなんて、スープにすると絶品ですよ」と、半田氏は北海道の野菜事情に熟知している。

 また、乳製品には絶対の自信があり、牛乳、チーズ、バターは日高の牧場から、半田氏が目利きした上質のものを送ってもらっている。

 魚介類は、タラバガニ、アブラガニ、花咲ガニなどを直送してもらってコストが抑えられ、ソイの仲間のヤナギノマイなど、首都圏ではあまり出回らない種類も、この店で食すことができる。

 ジビエも、たとえばエゾシカは知人の猟友会の人から、直接撃った肉を送ってもらっている。

 半田氏によれば、北海道の食材は皆、築地など東京に行ってしまうので、良い旬の食材を仕入れようと思えば、地元のレストランといえど、懸命に交渉してきれい事でなく仲良くならないと地産地消は無理とのこと。そうした、努力の結晶が今につながっている。

 そして半田氏は、「北海道の料理は、ジャガイモをふかす、ウニイクラ丼のような素材をそのまま使ったものばかりで、観光地として売り出してバスツアーを組んでも、食事の面ですぐ飽きられてしまう」と苦言を呈している。

 半田氏の料理は、北海道の食材を生かして本格的に調理すれば、こんなにも味の世界が広がるのだということを提案しているのだ。

 ワインもインポーターの全面協力で安く出せるとのこと。それもこの店の魅力だ。

 カフェとしても利用でき、フレンチスタイルのパスタ、サンドイッチ、サラダなどが楽しめる。

 北海道のオーベルジュを土台とした、素材を生かした本格派フレンチ「ジャンヌ ダルク」。新しいスタイルとして業態が確立していくか、注目したい店である。


ジャンヌ ダルク
住所 東京都世田谷区等々力6-5-11 カサデリア自由が丘
電話番号 03-5760-6323
営業時間 ランチ  11:30〜15:00(L.O.)
ディナー 18:00〜21:30(L.O.)
定休日 月曜
客席数 48席
客単価 ランチ4,400円、ディナー8,750円
目標月商 非公開
開店日 2010年4月10日
経営母体 半田勝也、堂城紀明(共同経営)
※取材当時の情報です。変更されている可能性がありますので訪問される場合は、店舗にご確認下さい。
長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年4月10日取材

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