フードリンクレポート


<ライジングシェフ・シリーズ⑥>
ダサかっこいいイタリア田舎食堂オープン。
佐山 保幸氏
「グリージョ・ラ・ターヴォラ」シェフ (株式会社ゼットン)

2008.2.29
新進のシェフを紹介する新企画。東京・赤坂のTBS再開発地区に2月に開業したオフィスビル「赤坂Bitzタワー」。その1階にゼットンが、イタリアン「グリージョ・ラ・ターヴォラ」を3月6日にオープン。そのシェフ、佐山氏はイタリアの地方にある食堂に惚れた。ゼットン稲本社長と意気投合し、ダサかっこいいイタリア田舎食堂をオープンさせた。


「グリージョ・ラ・ターヴォラ」厨房に立つ佐山保幸氏

カッコイイ内装でイタリア郷土料理を提供

「グリージョ」は、TBSの敷地に出来た物販店などが店舗が並ぶ小路に立つ。店内のテーブル48席に加え、六本木ミッドタウンの「オランジェ」のようにテラス16席を持つ。隣は、同じくゼットンの経営するシガ—バー「b&r」。

 ドアをあけると、左手に大きなステンレスのワインセラー、右手には厨房が覗ける。床は欧州の農家のような白木張り。壁にも、白木が貼られ、ステンレスの無機質なワインセラーが妙に溶け合っている。

 テーブル席は、壁側はベンチシートだが、布地は白と黒のぼかした感じのチェック。テーブルの色はグレー。店名「グリージョ」はグレーのイタリア語訳。


「グリージョ・ラ・ターヴォラ」店内 正面がワインセラー


「グリージョ・ラ・ターヴォラ」店内 客席


シガ—バー「b&r」

「カッコイイ内装。でも食堂。料理は昔ながらだが、店がカッコよくなった感じ。若者がヨーロッパでたまたまはいった食堂に感化されて自分で作ったらかっこよくなっちゃった」というイメージだそうだ。

 料理は、佐山氏がイタリア修行時代に食べ歩いた、田舎の食堂で食べられるイタリア郷土料理。旅して美味しいと思った料理を次々に日本のお客に提案していこうとしている。


WDIのイタリア研修。天狗の鼻を折られた!

 千葉で生まれ、横浜で育った佐山氏の父親は公務員。自分は警察官になろうと夢見たが、高校時代にアルバイトで働いていたWDIの「カプリチョーザ」で飲食業に目覚める。

 当時の「カプリチョーザ」は人気絶頂で、飛ぶ鳥を落とす勢い。最初はホールでサービスを担当したが、シェフに気に入られ、厨房の面白さを知った。そして、親の反対を押し切り、アルバイトからそのままWDIに入社。

 カプリチョーザ事業部で3年間働いた後に、4ヶ月間のイタリア研修を命ぜられた。当時は勤務5年以上でないと行けない研修に4年目で行かせてもらう。「俺すごい、やるじゃん俺」と天狗になっていたそうだ。

 研修先は、野菜の8割位は自家栽培というイタリアの田舎のアグリツーリズム・レストラン。

「毎日、泣いてました。カプリチョーザしか知らない。野菜の掃除の仕方も、カプリチョ—ザのやり方しか知らない。魚も下ろせない。くやしくて、ふてくされていました。朝行ったら、まず犬に餌をやる。そして、命じられる仕事は畑に行ってニンニクとってくる程度。畑と言っても全てが雑草。そこからニンニクを見つけるのは難しかった。厨房の中に入れてくれず、泣いてました」と佐山氏は鼻をへし折られた。

 しかし、一緒に行った仲間から「お前でも美味しい野菜の見極めはできるようになったんじゃないの」と言われる。

「あっと思った。今まで料理の上辺しか見ず、仕込とか下処理とか料理の下の部分を忘れていました。最後の完成形しか見てなかったので、やらせてくれないと自分でむかついていたが、これではだめだな」と気付いた。

 帰国後、WDI内の「プリミ・バチ」というイタリアンで働き、イタリア人シェフの下、料理のベースを勉強し直した。


再度、イタリアへ。イタリア人になってやろう!

「限界を感じた」。そして、イタリアで修行していた現在の奥さんのコネをたどり、10万円も持たず取り敢えずイタリアに渡る。奥さんとはカプリチョーザ時代に知り合った。

「帰りのチケットは着いた瞬間に捨てた。料理なんて覚えようと思わない。イタリア人になってやろう」と、レストランに住み込みで働く。

「給料が少しづつ上がってきて、アルバイトのような扱いなので休みを取ることもできた。普段は節約して、妻と休みを合わせて旅行がてら、こぎれいなレストランではなく、日本で言うと何とか食堂、夫婦でやっているような店ばかり回りました。」

「レストランより、田舎の汚い店で食べる料理の方が好きでした。イタリア人はクリスマスは家で過ごし、正月はレストランで年越しです。クリスマスの時にシェフが家に呼んでくれ、そこのお母さんの料理がすごい美味しかった。『グリージョ』のベースです。」

「家族で経営している店がいい。アッパーなレストランは本当に特別な日にしか彼らは行きません。日本人と異なり、ミシュランの星が付いていようがなんだろが、自分の好きな店にいく。ブームとか関係ないんです。」

「自分たちの土地を愛している。周りの家族を愛している。いい意味のプライドがある。だからと言って、お前は違う州だから嫌だというのはない。自分たちの領分をちゃんと分っている。だから、日本で同じように勝負しても食べ手が分かってくれない。」

 日本でイタリア郷土料理そのままを持ってくることの難しさをを理解している。確かに、郷土料理と銘打った店はあるが、繁盛店は少ないのが現状だ。

 1年後に帰国し、グラナダの「デカンターレ」(新宿)、ワルツの「トラットリア・ブリッコラ」で働いた後、ゼットンに出会う。


プーリア産 空豆の温かいピューレと産直野菜 880円


アンチョビとういきょう オレンジのサラダ仕立て 1,160円


水牛モッツァレラチーズとマリネしたフルーツトマトカプレーゼ 1,160円


アンチョビとちりめんキャベツのスパゲティ 1,100円


ムール貝とポロ葱のクリーム仕立てレモン風味 ブカティー二 1,680円


岩中地豚ロースの炭火焼き 2,310円


ゼットンは人間を豊かにする

「ゼットンの社風がよかった。ここは人間が豊かになる、と感じました。自分には反省点が多い。このままでやって行って直せるのかと疑問に思っていた時です。自分の人間性が豊かじゃないのに、いくら料理が美味くても違うんじゃないのかな」と気付く。

 稲本社長は「田舎っぽいくて優しい店。お皿の盛り付けは大したことはないが、食べたら美味くてまた食べたい」店を作りたいと話し、佐山氏は「この人は、僕の都合のイタリアンを突いてくる。この人と組んだら分かってくれるだろう」と確信して「グリージョ」が誕生した。

「楽しんでもらいたい。料理だけでなく、サービスもよし、誰かに会いに来るもよし。帰る時に、美味しかったより、楽しかったと言って欲しい。呼ばれたら客席にどんどん行きます」と、佐山氏はイタリア人のように明るくラテン系だ。

 ヨーロッパの郷土料理に注目する若手シェフが多い中で、レストラン・プロデュースの天才、ゼットン稲本社長とのコラボレーションで一抜けで、ビジネス的にも成功する郷土料理店が誕生しそうだ。



佐山 保幸(さやま やすゆき)
「グリージョ・ラ・ターヴォラ」料理長。1974年生まれ。千葉県出身。高校卒業後、株式会社WDIに入社。2000年にイタリアに渡り修行。2001年に帰国し、「デカンターレ」(株式会社グラナダ)、「トラットリア・ブリッコラ」(株式会社ワルツ)で料理長。2008年に株式会社ゼットン入社。

「グリージョ・ラ・ターヴォラ」
東京都港区赤坂5-3-1 赤坂Bizタワー1F  電話 03-5545-6885

株式会社ゼットン http://www.zetton.co.jp/

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2008年2月25日取材