・クリエイティブな才能のあるバーテンダーがそろうバー
“イケメン”ぞろいのバーテンダーがいるバーとして、クチコミで確実にファンを広げているのが、南青山・六本木通り沿い、グローバルダイニング本社近くにある「Suu(スー)」。東京でのイケメンバーの火付け役となったと、噂される店である。
オープンは2006年で、2周年を迎えたばかりだ。経営は大阪・南船場や丸の内の「カフェガーブ」で知られるバルニバービ。
店名の「Suu」には、“素でいられる場所”といった意味合いが込められており、ゆっくりくつろいで楽しんでもらえる空間を目指している。ビルの地下1階にあって、入口は少しわかりにくく、隠れ家の雰囲気が漂っている。
「Suu(スー)」 エントランス
「Suu(スー)」 店内
「Suu(スー)」 個室
席数は40席あるが、店内はシックで高級感のある雰囲気が漂っており、黒い牛革の椅子は座り心地が良い。10名までを収容する個室は、裏口からも入ることができ、場所柄芸能人のお忍びも多いという。テレビドラマ「薔薇のない花屋」(フジテレビ系)のワンシーンでも使われた。
レストランで食事を取った後のシメで来るサロンとして活用できるが、魚沼産コシヒカリを釜で炊きあげた「おひつごはんセット」(1300円)も売りであり、本日の焼魚や味噌汁とともに楽しめ、メシの旨いサロンとしても使える店だ。つまり、1軒目からでも、2軒目・3軒目でも楽しめる店である。
また、エントランスを入るとすぐワインセラーが見えるが、500種類をそろえており、1本100万円クラスのビンテージ物もあるが、全般に産地を問わず品質の良いものを安く提供している。
「Suu」 ワインセラー
客単価は5000円ほど。平日はゆっくりと空間とお酒を楽しむ場所だが、週末はDJが入ってクラブイベントが開催されるので雰囲気が一変する。パーティー需要も多く、ウェディングの二次会、合コン、誕生パーティーなど、さまざまにニーズにこたえている。
顧客層は30代、40代が中心で、男女比は半々だ。
スタッフの“イケメン”たちは、店を始める前からの仲間たちが集まっているという。それぞれ、役者をしていたり、服飾のデザイナーであったり、音楽制作に携わっていたりと、ほかにクリエイティブな仕事を持っている。なので、話題も世間話にとどまらず、かなりコアな趣味にまで広がることもあり、一人一人に根強いファンが付いているのだという。
「ほぼ毎日来て、1杯、2杯飲んで帰る人もいますよ。女性1人でも気軽に来れる店ですし、近所の会社に勤めている人も多いです。男性が女性を連れて来られることも多いですね。人と人とのつながりを大切に、お客様にとって止まり木のような存在でありたいです」と、同店マネージャーの菊地龍太郎氏。
顧客と話しながらお好みのカクテルをつくるだけでなく、フードもメニューにないものも含めて、気を利かせて出していきたいとのこと。旬の新鮮な魚を使った料理を提案することが多いが、ある程度飲んできた人にはシメでお茶漬けを提案する、がっつりと食べたい人には「おひつごはんセット」といった具合だ。
「Suu」 自慢の釜炊きご飯
最初は入りにくいが、入ってしまえばホスピタリティを第一に考えた、手厚い接客と心地よい空間が待っている。デザインや芸能に関連する職種の人が集まる土地柄もあるのだろうが、同店スタッフによれば“イケメン”の効果は絶大で、顧客にはかわいい女性が多いのだそうだ。
・有名ホテルのバーが女性客獲得にイケメンをアピール
ホテルのバーでも、イケメンを前面にアピールする店が現れている。
「新宿プリンスホテル」最上階の25階にある和風ダイニング&バー「FUGA(風雅)」がそれで、エレベーターを降りてエントランスを入った、向かって右側がダイニングエリア、左側がバーエリアとなっている。
「FUGA」 ホスピタリティあふれるバーテンダー
「FUGA」 エントランス
「FUGA」 ダイニング
「FUGA」 バー
ダイニングエリアが67席、バーエリアが95席、計162席という大箱で、新宿の山手線の内側と外側、両方の夜景を見ることができる数少ない夜景スポットである。バーエリアにはカップルシートも設置されている。
ホテルの中にあるバーという性質上、「FUGA」でも特に夜は男性客が主流となるが、女性客を増やす企画がさまざまに練られてきた。
18歳以上の女性なら誰でも無料で入会できる、プリンスホテルの会員組織「プリンセスクラブ」に入会すると、「FUGA」オリジナルの「パラダイス・ブルー」、「愛の庭園」、「エックスブリーズ」といった、3種類の低アルコールで女性でも飲みやすいカクテルを、特別メニューとして提供。
また、フードではレディースコースとして、男性は女性と同伴の時のみ注文できる「舞姫」(6000円)を設置。
「チアアップ・プラスプラン」として3月31日まで3300円で、オードブル4種と、アロマキャンドルと、キャンドルの色をイメージしたカクテル(4種類より1つを選ぶ)をセットでサービスする、などといった具合だ。
「FUGA」 バーテンダーとの心地よい会話で、お好みのカクテルをつくってくれる
そうした流れの中で、社内報の記事に掲載された「FUGA」の社員バーテンダーが、女子社員の間で評判になり、「カッコいいので、一度バーに行ってみたい」といった反響を呼んだ。
そこでホテルとしてもこの際、バーテンダーの“イケメン”性をアピールして、女性1人でも楽しめる大人のバーとして、女性客の獲得を狙っていこうということになったそうだ。
バーテンダーが気をつけているのは顧客との距離感で、カウンター越しに近すぎず、遠すぎず、ざっくばらんになりすぎないで敬語を使った丁寧な接客を心がけている。
また、料理人とコミュニケションを取り合って、料理にぴったり合ったカクテルなどのお酒を出すようにしている。
「FUGA」がオープンしたのは06年12月で、“天空の隠れ家”をコンセプトに、調理人、ソムリエ、バーテンダー、焼酎アドバイザー、酒匠とそれぞれのプロがそろっている中で、全員一体となった“フーガ”(イタリア語で多声音楽の意味)を奏でるといった趣旨の店だ。また、食事とお酒と夜景のハーモニーを楽しむ店との意味合いもある。
フードのメニューは、中高年が多い同ホテルのレストランの顧客層を考慮して、和を中心に魚介類や野菜を重視した、食材を生かしたヘルシーな傾向の強いものとなっている。
顧客単価はダイニングが7500円、バーが4500円。ランチも営業しており、2000円の「彩り膳」からある。
「FUGA」 和とヘルシーさを強調したメニュー(魚料理の例)
「FUGA」 和とヘルシーさを強調したメニュー(肉料理の例)
同ホテル食堂部リーダー(風雅サービス担当)河西剛氏によれば、「少しずつですが、女性のお客さんも増えています。ペアシートもありますし、両側の夜景と“イケメン”のつくるカクテル、ヘルシーなお料理をもっとアピールしていきたい」とのことだ。
・新宿ゴールデン街にホストクラブから独立したバー登場
新宿・歌舞伎町「新宿ゴールデン街」の「花園一番街」に、昨年4月、オープンした「ブライアンバー」は、歌舞伎町のホストクラブ「アピッツ」のバー部門から独立したという、ユニークな生い立ちを持つバーだ。
ボトルキープが中心の店が主流の「新宿ゴールデン街」では珍しい、カクテルを中心としたショットバーで、チャージも700円と安い。70〜80年代のロックを流すミュージックバーの側面もあり、店名の“ブライアン”は、イギリスのロックバンド「クイーン」のギタリスト、ブライアン・メイ氏へのオマージュにより名づけられた。
店長の“ブライアン” こと津田拓真氏は、19歳よりバーに勤め始め、さまざまなバーを渡り歩いてバーテンダーの修業を10数年積んできた。そうした中で、03年12月に「アピッツ」が新規オープンする際に、ホストクラブの中のバー・カウンター担当のバーテンダー募集広告を求人誌で見て応募し、採用された。
「ブライアンバー」 ブライアンこと津田店長
「ホストクラブはサービス業の頂点に立つものだし、究極のサービスを一度体験してみたかったのです」と、津田氏は当時の心境を語る。
経営するスクラムライスとしても、5年ほど前にオープンしたホストクラブ「スマッパ! ハイパー」が成功した勢いに乗った2店目の展開「アピッツ」は、歌舞伎町でも新しい試みである、バー・カウンター付きのホストクラブにチャレンジした実験的な店であった。しかも入口は1つでも、ホストクラブとバーは別会計で、バーのみの利用も可能という画期的なシステムを取っていた。
津田氏は当初、ホストとしてのサービスを学びながら、バーテンダーを兼任していたが、次第にバーテンダーに専念するようになって、「ブライアンバー」の形ができあがっていった。
「お客さんの横に座って接客するホストは、カウンター越しに接客するバーテンダーとは異なるので、最初は戸惑いましたが、どんな人にでも満足してもらえるようなおもてなしの精神を学べたと思っています」と、津田氏はホストを経験した効果を語っている。
「ブライアンバー」 外観
「ブライアンバー」 カウンター
「ブライアンバー」 2階のテーブル席
お酒は、ビールや焼酎もあるが、何といってもメインはカクテル。メニューは特になく、顧客と会話をしていく中で、顧客が飲みたいカクテルをつくっていくのだという。客単価は3000円ほどで、狭い店内は連日賑わっている。
生のトマトやミントの葉を使った、素材のハーモニーを楽しむ“ミクソロジー”の考え方を取り入れた新感覚のカクテルや、フレア・バーテンディングも導入しており、楽しく飲めるカジュアルなバーを目指している。
「ブライアンバー」 左)桃とカスピ海ヨーグルトのミクソロジー(1000円)、中)ミントのモヒート(900円)、左)マティーニ(1000円)
顧客層はロックが好きな20代が多く、「新宿ゴールデン街」の中でも若い人たちにアピールしている。男女比は半々と「新宿ゴールデン街」の中では女性が多い。顧客の3割ほどはホストクラブにも行く女性で、「アピッツ」の頃からの根強い“ブライアン”ファンが来店するだけでなく、系列ホストクラブのアフターで使われるケースもある。連日、朝8時までオープンしており、日曜・祝日を休み、5時頃で店じまいをする「新宿ゴールデン街」の店では、異例の営業スタイルだ。
最近は新しい店主が増えて個性を競い合う「新宿ゴールデン街」の店の中でも、先端的なイケてるバーが「ブライアンバー」なのである。
・イケメンをそろえたスペインバルは全員バイリンガル
さらに、恵比寿駅西口北側の五叉路“星のこうさてん”近くに、06年9月にオープンした「Guapos(ガポス)」は、その店名がスペイン語で“イケメン”を意味するスペインバルだ。
スタッフを“イケメン”で固めているので目の保養になるだけでなく、“イケメン”による活気あふれる雰囲気で、顧客も明るくイケてる気分になるような店づくりを目指している。
ムジャキフーズ独特の独立サポート制度を活用した店で、オーナーが店舗運営をムジャキフーズに業務委託する形態となっている。
「ガポス」 バーテンダーは女性一人で来ても飽きさせない
「ガポス」 外観
「ガポス」 店内
お酒は50種類以上そろうスペインワインを中心に、グラスワインも10種類(赤6種類、白4種類、450円〜)と多く、日替わりのお勧めワインもある。スペインのビール、自家製サングリアなども楽しめる。
タパスも数十種類と種類が多く、スペインバルに定番のイベリコ豚の生ハム、オリーブ、ビクルス、チーズ、サラダのほか、鮮魚を使ったメニュー、煮込み料理、カレーライスなどがそろっている。フードメニューは旬の素材を生かしていく方針で、お勧めメニューは毎日変わる。
「ガポス」 左)牛胃のトマト煮込み(550円)、手前)菜の花とフルーツトマトのアンチョビサラダ(550円)、右)活ムール貝の白ワイン蒸し(700円)
スタンディングでも着席でも、気軽に立ち寄れるスタイル。内装は本場スペインの路地裏のバルを再現し、赤をポイントとした色使い、丸みを帯びたデザインのカウンターなどで、暖かい雰囲気を演出している。BGMはサルサのようなラテン系の音楽を流している。客単価は2000円強である。
席数は25席で、日曜・祝日が0時で閉店するほかは、深夜4時まで開いている。顧客の入り具合は通常で2回転、金曜で4回転といったところだそうだ。
顧客層は20代後半から50代までの男女で、30代が最も多い。男女比は半々くらいだが、20時くらいまでの早い時間は癒しを求めてやってくる女性客が目立つ。彼女たちは2、3品のフードを注文して、座ってゆっくりお酒を飲んでいくのが特徴だという。
「男性スタッフは、しつこい過剰サービスはしません。女性1人でも気軽に来れる店を目指していますし、実際に来ていただいています。スタッフは全員、外国での生活経験があって、英語が話せたりもするんですよ」と、中谷慶太郎店長。
なるほど、顧客との接し方に、外国人バーテンダーのような洗練された距離感があるのだろうか。顧客には外国人も多く、2割ほどになるという。
特に恵比寿界隈では、過当競争気味のスペインバルだが、「ガポス」の場合は“イケメン”というスパイスをきかせることで、あまたの店との差別化が成立しているのだ。
・ミクシィのコミュニティから生まれたイケメンカフェ
“イケメン”を前面に出したカフェもある。
アニメやゲームが好きな女性の聖地、“婦女子の秋葉原”として勃興する池袋だが、その通称“乙女ロード”の近くに、07年6月にオープンしたのがメガネスーツカフェ「Love-all(ラブ・オール)」だ。
同店はインターネットの会員制SNS「ミクシィ」の中のコミュニティ「メガネスーツカフェを作ろう」から生まれたという、ユニークなカフェである。
発案・企画・出資した株主は、池袋に執事が給仕する“執事カフェ”、男装の女性執事が給仕する“男装カフェ”が相次いでオープンし、女性オタク層に人気を博しているのに刺激された。
そして、萌え要素としてポイントの高い、知性の象徴でおしゃれグッズとしても浸透してきた“メガネ”と、男がビジネスをする上での戦闘服“スーツ”を組み合わせたコンセプトカフェ、“メガネスーツカフェ”を発案。「ミクシィ」を通じて内容を深め、オープンにこぎつけた。
06年には『メガネ男子』、『スーツ男子』(いずれもアスペクト刊)なる本も出版されて、評判になっていたのも後押ししたという。
「メガネスーツカフェ ラブ・オール」 スタッフ
「メガネスーツカフェ」 店内
「ラブ・オール」はイタリアが本社の世界的な外資系香料会社日本支社の社長室という設定になっており、顧客はクライアントという設定で社長室を訪問。多忙で不在がちな社長に代わって、メガネにスーツの秘書たちがおもてなしをするといった、少し手の込んだストーリーになっている。つまり、接客する男性スタッフは、執事ならぬ“秘書”なのである。
なお、ラブ・オールはこの店を経営する会社の名称でもある。
営業は18時〜23時、土曜・日曜・祝日は11時〜23時で16時〜17時は会議の時間と称して休憩している。平日は19時以降、休日は14時以降、常に満席といった状況で、客入りは順調である。
顧客層は10代〜30代の女性が中心で、男性の常連、カップルもいるが、男女比をとると1:9で圧倒的に女性が多い。しかも、大半がオタク層である。
顧客単価は3000〜4000円といったところだ。
だいたいがアニメやゲームの話になるが、秘書たちは顧客と、カウンター越し、または座席の横に立って、積極的に話すようにしているという。いわば、メイドカフェのメイドの逆バージョンで、秘書も基本的にオタクなのである。
「スーツや髪型、メガネは特に規定はなく、個々人の個性で着こなしています。外資系のエリートを演じるのですから、外国人がレディーを扱うような立ち振舞い、言葉遣い、カッコ良さ、清潔感には気を使っています。たとえば、荷物を席までお持ちしたり、デスクに座って作業をしている時にも、ふとした瞬間に余裕のある対応をするといったことです」と、同社秘書課・チーフマネージャーの橘穣一郎氏。
顧客との距離の縮め方は難しいが、礼節を重んじ、現実世界を思い出させないような配慮をしているという。
「メガネスーツカフェ」 バーテンダー
「メガネスーツカフェ」 オリジナルカクテルと手づくりデザートが売り。このミルフィーユはサクサクした独特な食感だ。
人気メニューは、オリジナルカクテル(950円)で、各秘書が独自のレシピを持つオリジナルもある。ソフトドリンクでは紅茶(750円)がよく出る。
スイーツにも力を入れており、日替わりで本日のジェラート、本日のケーキ(各600円)などが楽しめる。
フードは、ハヤシライス、パスタ、リゾット(各960円)が中心だが、要望に応じて可能なら何でもつくる。パスタの麺を使ってラーメンを出したこともあるそうだ。
秘書とチェキも写せ(1回500円)、ブロマイドのようなラミネートカードも販売している。
今後は、「メガネブランドとのコラボレーションも実現させたい。行く行くはいろんなタイプのコンセプトカフェにもチャレンジしたい」(橘氏)とのことだ。
・ホストクラブの深夜営業規制が追い風になった面も
以上見てきたように、“イケメン”をフィーチャーしたバーは、女性の社会進出を背景に、女性でも1人で入りやすい雰囲気づくりの一環として、さまざまな試みが行われてきている。
また、女性が集まるようになると、出会いの機会を求めて男性も集まる波及効果も期待できる。
一方で、キャバクラと同様ホストクラブも、風営法の規制強化で深夜0時または1時以降の営業が難しくなっている。そのために、イケメンバーが新しい深夜営業の受け皿として注目されてきた側面もある。
ガールズバーが、キャバクラに代わって深夜のナイトビジネスを担う存在に成長してきたようにだ。
そして、アキバ系もメイドカフェの逆バージョンとして、執事カフェ、メガネスーツカフェといったイケメンカフェを生み出し、イケメンバーと接近してきている側面があるのは興味深いところだ。
ホストクラブやキャバクラが規制されても、イケメンバーやガールズバーが台頭し、イケメンカフェがメイドカフェと同様に根強い人気を獲得しているあたり、現代人が精神的に疲れ、会話、潤い、癒しをいかに求めているかがわかる。
男性も疲れているが、女性も同じくらいは疲れている。おそらく、これからも疲れは慢性的に続くのだろう。イケメンバーはそうした事情を考えると、さらに増殖する可能性が高いと考えられる。