フードリンクレポート


「えん」は惣菜、ファーストフード、次はガレット!
中野 耕治氏
株式会社ビー・ワイ・オー 常務取締役

2008.4.9
ビー・ワイ・オーは、1996年、池袋の「手作り料理とお酒 えん」で居酒屋業界にアッパー和食ブームを巻き起こした。2003年には高級惣菜店と高級ファーストフードに進出。居酒屋業態以外でも成功する秘訣は、あきらめず学び続けることだ。


ガーリックシュリンプとラタトゥイユサラダ添え  1,250円

2008年3月、「ブラウンレシピ」でガレットに挑戦

「ブラウンレシピ」は新宿・小田急新宿ミロード9階に、ビー・ワイ・オーが出店したガレットとスイーツのカフェ。

 ガレットは、フランス・ブルターニュ地方の郷土料理で、そば粉で作ったクレープのこと。そば粉と水、塩を混ぜた生地をクレープのように円形の鉄板に伸ばして、卵、チーズ、ハムなど様々な具材を乗せて焼き上げたもの。小麦粉で作るクレープと異なり、生地の色はブラウン。リンゴの発泡酒、シードルとともに楽しむなど、大人でも満足できる食べ物だ。

「ブラウンレシピ」のガレットは、プレーンで850〜1000円。さらに、ソースを加えてボリュームアップしたもので1050〜1200円。ソースは、ホワイトソース、ラタトゥイユ、キーマカレー、アボガドクリームの4種を用意している。

 実は、ガレットは2000年前後に一時、日本でもブームとなった。当時はフランスから来たおしゃれなクレープと理解されていたようだ。原宿などのスイーツとしての甘いクレープと混同され、消費者は割高感を感じた。ガレットの真価は伝わらず、ブームは短命に終わる。

 しかし、今、ビー・ワイ・オーは敢えて挑戦。同社楊文慶社長は、「ガレットの店を開店させることを周りに相談したら、ことごとく反対された。だから、ますますガレットをやりたくなった」そうだ。その背景には、「和食屋の惣菜 えん」、高級ファーストフード「だし茶漬け えん」を成功させた経験がある。


「ブラウンレシピ」 ガレットの商品ケースが目立つ外観


「ブラウンレシピ」 木を多用した暖かいイメージの店内


「ブラウンレシピ」 L字型の店内の奥


惣菜店、ファーストフードは先達に学んだ

 惣菜やファーストフードに挑戦している外食企業はあるが、成功しているところは少ない。その1社が、ビー・ワイ・オーだ。居酒屋ながら本格的な割烹料理を提供し、女性にも人気で、若者から年配まで集客できる「えん」ブランドが成功の一因だ。

「和食屋の惣菜 えん」は、2003年2月の渋谷東急店のオープンを皮切りに、吉祥寺ロンロン、コレド日本橋、ラゾーナ川崎、新丸ビル、三越と商業施設ばかりで現在6店舗を展開している。

「だし茶漬け えん」は高級ファーストフード。同じく2003年2月の渋谷東急店からスタートし、コレド日本橋、ルミネ新宿、高田馬場メトロピア、AKIBA−ICHI、オリナス錦糸町、ルミネ大宮、ラゾーナ川崎、新丸ビルとこちらも商業施設を含め10店舗。

 もう一つの秘訣は、先達に学ぶこと。「日本の御馳走 えん」の機能はコンビニに学んだという。通常の外食では、器やデコレーションなど見た目に拘る必要があるが、惣菜は違う。日常で自分が食べる弁当を買う時には、容器よりも中身。実際に店頭にならぶ弁当を見ると、枠をはみ出すくらいに魚のフライが盛られていたりする。このボリューム感が良いようだ。また、お茶のペットボトルの置き場所もレジの横、会計時のついで買いを狙っている。


「日本の御馳走 えん」 コンビニから学ぶ

「だし茶漬け えん」では、店の外から覗ける場所に、わざと券売機を置いてある。この店はファーストフードだということをお客にまず知らしめることで成功している。ファーストフード感覚で、質の高いお茶漬けが食べられるとお客は割安感を持ってくれる。


「だし茶漬け えん」 外から券売機が見える


ガレットもしつこく追及する

 ビー・ワイ・オーは「えん」の成功で、デベロッパーからの信頼が厚い。今回の「ブラウンレシピ」も小田急からの強い要請で実現した。この小田急新宿ミロードの集客力はすさまじく、新宿駅からお客が吸い込まれていく。2008年3月のレストランフロアのリニューアルの際、新業態を依頼され開発したもの。

 若いお客が多く、10年近く前のガレットブームも知らない。聞いても7割の方がガレットを知らないという。今はまだ、単なるカフェが新しく出来たと思って入ってくるお客が多いそうだ。しかし、「そば粉のクレープです」と説明すると興味を持ってくれるという。


粗挽きチキンとコーンサラダ添え 1100円


塩キャラメルアイスとくるみ 580円

 最近、ガレットを扱う店が3店できた。クラウドプロスパーが、2007年国立でオープンさせた「LAガレット」、1996年に日本で初めてガレットを紹介した神楽坂の「ブリッツカフェ クレープリー」が2008年3月に赤坂サカスに出店、さらに、ビー・ワイ・オーの「ブラウンレシピ」だ。

 そばはアレルギー原因の一つだが、問題のない方には、そばルチンは毛細血管を強化し、脳溢血を予防するとされる。しかも、ガレットはフランスの郷土料理。日本だけでなく、欧州でも郷土料理が見直されている。スローフードの流れだ。かつてのブーム時には日本人にはスローフードの概念が無かった。さらに、店舗数が増えると、一般メディアでの掲載機会も増え、認知を高めることができる。

 中野氏は、「ブラウンレシピには、見直すべきところはまだ沢山あります。それをしつこく追求していくことで、お客さまに理解してもらえるようになる。ブラウンレシピも多店舗展開が目標です」と語る。それが出来るのは、「次世代スタンダードになる事業を提案し、新しい価値を生み出すことにより、社会から評価される企業になる」ことが、ビー・ワイ・オーの経営目標だからだ。ビー・ワイ・オーには年次の業績目標はなく、じっくりと取り組む姿勢が根付いている。



中野 耕治(なかの こうじ)
株式会社ビー・ワイ・オー 常務取締役。社長の楊文慶氏と同じく1966年生まれ。東京都出身。和食の職人としてデュッセルドルフでも活躍。1996年の「手作り料理とお酒 えん」池袋西口店のオープン時に料理長として入社。「えん」の本格感のある和食は中野氏の功績に依るところが大きい。総料理長としての役割に加え、人前に出るのが苦手な楊社長を支え、広報も担当している。

株式会社ビー・ワイ・オー http://www.byo.co.jp/

【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき) 2008年3月27日取材