フードリンクレポート


「壱八家」はモバイル会員6000人に店舗情報を一斉配信。
〜1兆円ラーメン市場、勝ち残る店の戦略を探る〜(4−3)

2010.5.21
ラーメン屋は全国に約4万軒あり、市場規模は約1兆円と言われる。その中で近年は、毎年約4000店が新規開業し、ほぼ同数が廃業しているという。年々1割の店が入れ替わる新陳代謝が激しい市場において、勝ち組はどのような店舗戦略を練っているのだろうか。マスコミやブロガー、評論家たちがつくり上げるトレンドには、いかに対処しているのか。タイプの異なる繁盛店3店とラーメンコンプレックスの成功例を取材してみた。4回シリーズの第3回目。レポートは、長浜淳之介。


「壱八家」東戸塚店 外観。

「壱八家」はモバイル会員6000人に店舗情報を一斉配信

 エイトが展開する横浜家系ラーメンの店「壱八家」。こちらは横浜を地盤にいろんな業態を開発している、総合外食企業でのラーメン店の成功例と言えるだろう。

 横浜市内に、東戸塚、スカイビル(横浜駅東口)と2店あり、神奈川県厚木市の本厚木店を加えて計3店体制となっている。

 また、系列の「半蔵」というラーメン屋が東戸塚と神奈川県大和市にあって、ほぼ同様の内容の店である。


系列店の「半蔵」 東戸塚店。

 つまり、エイトは合わせて5店の横浜家系ラーメンの店を持っていることになる。

 家系ラーメンのフォーマットである「豚骨醤油」の醤油ダレ、豚骨スープは自家製。醤油にグレードの高いものを使い、豚骨は通常のバナーの倍以上のかなり強い火で煮込んでいる。背脂は使わず、チー油を使い、こってりはしているがしつこくない、コクがあって後味を引くスープづくりを実現している。


壱八家 ラーメン並650円。

 麺は特製のコシの強い平打ちの太麺であるが、昨今流行の極太ではない。しかし、長さが通常の家系ラーメンの2倍あって、ボリューム感を出している。麺の長さを変えたのは今年4月からで、このような時流に合ったマイナーチェンジは随時やっているのだという。

 JR東戸塚駅近くの東戸塚店は「壱八家」1号店。オープンして10年以上になるが、一昨年にリニューアルし、ラーメン屋にしては珍しくログハウス風の店舗となっている。そういった効果もあるのか、カップルの来店数も目立ち、女性客が3〜4割とかなり多い。


ログハウス風の「壱八家」東戸塚店、店内。

 専用駐車場もあるので、路上駐車の取締りが厳しくなってから、客足は一時期影響は出たものの、現在は旧に復してきたそうだ。  
          
 席数はカウンター11席、テーブル25席の計36席で、昼だけで平日3回転、夜は4 〜5回転する。土日祝日はその倍以上の集客がある。

 近くに大規模団地や病院、日立系企業のオフィスなどもあり、周辺人口に比べると飲食店が少ない地域と言えるかもしれない。しかし、激戦地域の横浜駅前のスカイビル店では年間9000万円以上の売り上げがあるとのことなので、「壱八家」の味に対する評価の高さが繁盛に直結していると考えたほうが説明がつく。ちなみに客単価は約800円、ラーメン並の値段は650円である。

 販売促進策として携帯電話のサイト、モバイルで会員になった人にさまざまな特典がある。たとえば海苔の追加を無料にする、各店だけで実施している特別メニューなどの情報がわかる、といったものである。また、ポイントカードを発行しており、スタンプが30個貯まるとラーメン並一杯無料になるが、モバイル会員でアンケートに投稿してくれた人はポイントが3 倍になる。抽選でマイ箸が当たる楽しみもある。


「壱八家」モバイル会員の案内。


モバイルでアンケートに答えた人には抽選でマイ箸をプレゼント。


「壱八家」スタンプカード。ラーメン30杯で1杯(並盛)無料。15杯でトッピングサービス。雨の日ポイント2倍。

 アンケートでは時には厳しい書き込みもあるが、多くは忙しい時に順番を抜かされたといった程度のもので、そんなに極端なクレームはほとんどないそうだ。

 ほとんどの場合、失望すれば顧客は無言のうちにお店から離れていく。そうならないように、「壱八家」は顧客の目線に立っている姿勢を、モバイル会員によるアンケートという形でつなぎ止めているのである。会員数は全店で約6000人に上り、目に見える心強いファンと言えるのではないだろうか。

 モバイルを販売促進に使うことによって、全店共通のキャンぺーンも広く一斉に認知させることが可能になり、来店頻度も上がっている模様だ。

 以上、ラーメンと提供するスタイルを一体化したブランドと考える「なんつッ亭」、シェフの視線で理想のラーメンを追求するアメリカ人店主の「アイバンラーメン」、女性でも入りやすい店舗やモバイルを使った販促術が見事な「壱七家」と、同じラーメンの括りながら、全く異なった方法で、繁盛店となっている3つの事例を見てきた。

 共通するトーンは、ラーメン評論家やテレビ、雑誌によってもてはやされる流行に対して、あまりに過敏に反応して無個性な店になるより、自らの哲学、ポリシーを貫いて、他店と代替できないオンリーワンの店になったほうが勝ち抜けられるということだ。

 たとえば、麺の流行が細麺から太麺に変わったとしても、個人の嗜好が多様化した現代ではかなりの数の細麺を好む人が残る。しっかりとしたリピーターを数多く確保する対策に長けた店は、トレンドから少々外れても、味が落ちない限り、安定した売り上げを維持することが可能なのである。


【取材・執筆】  長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年5月17日取材