フードリンクレポート


1日平均3000人を集客。東京ラーメンストリートの成功。
〜1兆円ラーメン市場、勝ち残る店の戦略を探る〜(4−4)

2010.5.24
ラーメン屋は全国に約4万軒あり、市場規模は約1兆円と言われる。その中で近年は、毎年約4000店が新規開業し、ほぼ同数が廃業しているという。年々1割の店が入れ替わる新陳代謝が激しい市場において、勝ち組はどのような店舗戦略を練っているのだろうか。マスコミやブロガー、評論家たちがつくり上げるトレンドには、いかに対処しているのか。タイプの異なる繁盛店3店とラーメンコンプレックスの成功例を取材してみた。4回シリーズの第4回目。レポートは、長浜淳之介。


東京ラーメンストリート。4店で1日約3000人が来店する。

1日平均3000人を集客。東京ラーメンストリートの成功

 最後に、有名ラーメン店を集積したラーメンコンプレックスの成功例を見ていこう。

 ラーメンコンプレックスは、「新横浜ラーメン博物館」の成功に刺激されて一時期全国に広がったが、2003年末に華々しく渋谷に登場した「麺喰王国」が05年2月に早々と営業を終了したあたりから各施設の不振がささやかれるようになり、アクアシティお台場の「ラーメン国技館」も今年2月28日をもって閉館と、景況が良いとは言い難い。

 そうした中で、東京駅地下街「東京駅一番街」の南端に昨年6月にオープンした「東京ラーメンストリート」は、東京近郊の名店を4店集積し、「東京駅一番街」を運営するJR東海の子会社・東京ステーション開発によれば、1日約3000人もの顧客が来店する人気スポットになっている。

 入居しているのは、つけ麺の「六厘舎TOKYO」、塩ラーメンの「ひるがお」、海老そばの「二代目けいすけ 海老そば外伝」、北海道ラーメンの「らーめん むつみ屋」。席数は、「六厘舎 TOKYO」26 席、「ひるがお」22席、「二代目けいすけ 海老そば外伝」33席、「らーめん むつみ屋」34席、計115席で、同社の発表のとおりなら1日になんと26回転ほどする計算になる。近年まれに見る集客である。    

 顧客単価は900円ほどというから、日商で約270万円、月商で8000万円を超える。

「東京ラーメンストリート」のコンセプトについて、東京ステーション開発営業部営業課・牧口哲也氏は、「ラーメンコンプレックスというと、全国から有名店を集めるのが多いですが、東京の玄関口・東京駅にある地域性を考慮して、東京で真っ先に食べたい4店舗をジャンルを変えて集めてみました」と語る。

 では、なぜラーメンだったのか。

「東京駅一番街リニューアルにあたり、北側の物販ゾーンにはキャラクター商品を売る店を集めたキャラクターストリートをつくりました。それに対して、南側の飲食ゾーンで何か同じ形態の店を集めて特徴を持たせようと思うと、平日はオフィスワーカー、休日は旅行者と全く顧客層が異なる中で、幅広いターゲットで集客できるのはラーメンしかないと判断しました」と、ラーメンの国民食としての人気に期待した模様。

 高名なラーメン評論家にセレクトを任せず、スタッフの舌で100店以上食べ歩いて店を選び、直接電話をかけて交渉した。最近のラーメンコンプレックスではむしろ珍しい事例だ。

 しかも、「通常食べに行きづらい場所にある店を極力選んだ」という。そのあたりが成功の要因だろうか。

 たとえば「六厘舎」は2005年にオープンして、極太麺のつけ麺ブームの火付け役となった店。JR大崎駅より5分ほど歩いた場所にあり、かつ連日大行列で、多くの東京に出張してきたサラリーマンにとって、ついでに気軽に立ち寄れる店ではない。


「六厘舎TOKYO」外観。おみやげ販売も大きな収益源。


「六厘舎TOKYO」は、平日の朝でもオープン前から凄い行列。

「六厘舎 TOKYO」も常に行列が途絶えない超人気店だが、大崎の本店に比べればターミナル駅のビル内にあるのでハードルは低い。ちなみに本店とは麺を少し変えており、両方を食べ比べる楽しみ方もできる。 

 また、朝の8時から10時まで、通常のつけ麺よりあっさり味の「朝つけ麺」(580円)も販売しており、朝食の分野に一石を投じている。


「六厘舎TOKYO」味玉つけ麺(950円)。太麺ブームとつけ麺ブームを牽引している。

 さらに、おみやげのつけ麺セットが、帰省の時期である年末、ゴールデンウィーク、お盆では1日に1000食ほど出るヒットになっており、「六厘舎」としてもおみやげを売る場所として、大いにメリットを享受している。

 せたが屋グループの「ひるがお」も、東急田園都市線駒沢大学駅近く環七沿いに2001年にオープンした本店は、昼のみの営業であり、夜は魚だし醤油ラーメン「せたが屋」に看板が変わる二毛作店だ。


「ひるがお」外観。


「ひるがお」塩玉らーめん(850円)。鶏がら、煮干、干し貝柱などからつくった無化調のスープは深い味わい。

 従って、夜に「ひるがお」の化学調味料を使わない、体にやさしい塩ラーメンが食せるのは「東京ラーメンストリート」だけである。さらっと食べられるので、飲んだあとに立ち寄る人も多い。

「二代目けいすけ」は、05年にオープンした高田馬場の本店では甘海老のスープと白醤油のタレが特徴。それに対して「東京ラーメンストリート」の「二代目けいすけ 海老そば外伝」は、スープの素材に海老の王様である伊勢海老を使った独特な深い味を実現しており、この店でしか食べられないオンリーワンのラーメンだ。


「二代目けいすけ 海老そば外伝」外観。


「二代目けいすけ 海老そば外伝」は内装も凝っている。


「二代目けいすけ 海老そば外伝」伊勢海老そば(850円)。色彩の美しさ、斜めになった有田焼の丼鉢も注目。

 昨年10月に放映された、テレビ東京「最強ラーメン伝説」の「王道ラーメン」部門で堂々1位の評価を受けた。なお「二代目けいすけ」も「なんつッ亭」と同様、シンガポール「パルコ」に3月31日、初の海外出店を行っており、その動向が注目される。

「らーめん むつみ屋」は1996年に札幌郊外の北海道月形温泉で創業して以来、60店以上の店舗が展開されており、東京では川崎市内溝の口に本店があるが、ほとんどはFCで直営は4店のみ。その数少ない直営の1つが「東京ラーメンストリート」にある東京八重洲店だ。


「らーめん むつみ屋」外観。


らーめん むつみ屋 赤みそラーメン(850円)。この店のラーメンは北海道月形町のきれいな水で仕込む。

 ここでは、あえて創業当時のレシピに戻して調理しているとのこと。「らーめん むつみ屋」の特徴であるメインの味噌ラーメンが、週替りで赤味噌と白味噌が、交互で提供されている。メイン商品を週替りで変える店というのも、ほかにほとんど聞かない新しいコンセプトだ。

 前出・牧口氏によれば、「出店してもらう店は必ずしも今の人気1位、2位の店ではなく、何年かの経過を見て、ブランドとして定着しているかどうかで判断する」とのこと。商業施設なので、スープを切らさないで営業できるか、多くの発想の引き出しを持っているかもチェックしたそうだ。

 来年には新しく4店が加わり8店体制になるが、どんな店がエントリーしてくるか楽しみである。

「東京ラーメンストリート」はターミナル駅ビルのある商業施設で、全天候型であり、路面と違ってむしろ雨の日に客足が伸びるといった、立地の有利さを持っていることは否めない。

 しかし、「六厘舎」人気に助けられたとはいえ、開業から1年近く経った今でもこれだけの集客力を誇る背景には、流行に流されるのではなく、スタッフ自らが足を運んで新たなるラーメンのスタンダードを発見しようと努めた姿勢があったように思われる。

 繁盛店をつくるにも、繁盛するラーメンコンプレックスをつくるにも、今のラーメンの傾向に追従するのではなく、どういう味が時代を超えて支持されるか。また、評論家たちの意見より、自分たちがおいしいと思った味を追求できるかが重要である点で、共通している。


【取材・執筆】  長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年5月17日取材