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甲府鳥もつ煮人気沸騰! 富士宮は経済効果439億円!
〜首都圏初開催の 第5回B-1グランプリ。入場者数最多の43万5千人〜(5−4)

2010.9.30
9月18日(土)・19日(日)の両日、神奈川県厚木市で開催されたB級ご当地グルメの祭典「第5回B-1グランプリ」(主催:愛Bリーグ、B-1グランプリin厚木実行委員会)は、首都圏で初の開催ということもあり、入場者数は43万5000人を数え、昨年の26万人を大幅に更新して過去最高となった。参加団体も過去最多の43、うち18団体が初出場とフレッシュな顔ぶれも増えた。来場者の割り箸投票数で決める優勝のゴールドグランプリには、山梨県甲府市「甲府鳥もつ煮」を提供した「みなさまの縁をとりもつ隊」(土橋克己会長)が輝いた。5回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


次回第6回は姫路おでんの兵庫県姫路市で開催。

甲府鳥もつ煮人気沸騰! 富士宮は経済効果439億円!

 気になるのは本当に「B-1グランプリ」の趣旨のとおり、B級ご当地グルメでまちおこしができるのか。過疎や中心市街地空洞化を食い止める経済効果があるかどうかである。その点に関しては、今回優勝した「甲府鳥もつ煮」の地元山梨県甲府市で早速反響を呼んでいる。


優勝してテレビ局の囲み取材を受ける、甲府市・みなさまの縁をとりもつ隊。

 甲府市役所観光開発課によれば、甲府駅前にある観光案内所に立ち寄る人数は、22日(水)200人、23日(木・秋分の日)497人、25日(土)847人、26日(日)1083人と日増しに増えており、テレビ、新聞、雑誌などでの報道により国民の甲府への関心が高まっていると、市の職員は考えている。

 同課のメンバーが23日午後13:30頃、この料理の発祥の店で「B-1グランプリ」当日「甲府鳥もつ煮」ブースを手伝っていた、中央自動車道甲府昭和I.C.に近い手打ちそば「奥藤本店」に足を運んだところ、15台収容できる駐車場が満杯。外で7台待ちの行列ができていたそうだ。


奥藤第十分店(山梨県甲州市塩山)。甲府鳥もつ煮は奥藤先々代が考案し甲府一帯のそば屋に広がった。

 車のナンバープレートを見ると、東京、千葉、静岡、長野といった県外ナンバーが9割。
明らかに「B-1グランプリ」前と状況が変わっているという。

 また、地元紙「山梨日日新聞」によれば、市内のスーパーで、レシピ付きの鳥レバーとタレのセットを売り出したところ非常に好評。夕方には売り切れるとのことだ。

 甲府市役所ではこの勢いに乗って、「甲府鳥もつ煮」とブドウ狩り、あるいはヴァンフォーレ甲府のサッカーの試合など、さまざまなセットの観光を仕掛けていきたいと意気込んでいる。

 これを機会に「甲府鳥もつ煮」の提供地域が、甲府周辺から山梨県全域に広がる方向性も見えてきた。

 県東部の大月市では、同市産業観光課によれば「そば屋のメニューに豚のもつ煮込みはあっても、甲府のような鳥もつ煮は見たことがない」はずが、JR・富士急の大月駅前に今年2月にオープンした食堂兼居酒屋のような業態「水琴茶堂」では、店の玄関に「鳥もつ煮」のノボリが「ほうとう」とともにデカデカと掲げられている。経営母体は「桔梗信玄餅」で知られる和菓子の老舗・桔梗屋。さすが抜け目がない。


中央特快も走る東京通勤圏の山梨県東部・大月駅前、水琴茶堂。鳥もつ煮を大々的にPRしている。


水琴茶堂にて。甲府流にそばを待つ間、鳥もつ煮(500円)で一杯やってみた。かち割りジョッキワイン・赤(350円)。


水琴茶堂。石臼挽き手うちそば(630円)。そばと甲府鳥もつ煮と酒は甲府市民にとってワンセットのもの。

 そばが出来上がるまで、「鳥もつ煮」をつまみながら一杯やるのが甲府市民ならごく当たり前の食習慣なのだそうで、氷の入った「かち割りジョッキワイン」と「鳥もつ煮」を注文してみた。相性はバッチリで、甲州の名産であるワインにも合う料理である。山梨観光の楽しみの1つとして、「甲府鳥もつ煮」は定着するのではないかと思った。

 大手外食企業でも、ダイヤモンドダイニングが早くも動き、「聖橋 鳥福」、「真骨鳥」、「地鶏屋 長治」、「新橋シャモロック酒場」といった系列店で、オリジナルアレンジにて「甲府鳥もつ煮」を提供すると発表。東京でも一気に広がりそうな兆候が見えてきた。

 なぜ地域のまちおこし団体が「B-1グランプリ」に夢中になるのかというと、好成績を挙げて有名になれば実際に効果があるからだ。

 第1回と第2回を連覇した、静岡県富士宮市「富士宮やきそば」は一躍全国区の知名度を得て、富士宮やきそば学会から委託されて地域デザイン研究所(静岡市葵区)が調査したところ、同学会が宣伝活動を始めた2001年から現在までの約9年間の経済波及効果は、およそ439億円と算出している。年間50億円近くになるから馬鹿にならない。この中には麺、食材の売り上げ、メディア報道の広告費に換算した数値などが含まれる。

 しかし、最大のポイントは日帰り観光客の総数約345万人を新たに創出したこと。消費額は総額で約250億円に換算されるとしている。

 富士宮市は浅間神社の門前町から発展した歴史を持ち、富士山の登山口であって、白糸の滝、朝霧高原などといった名所を有する観光都市であるが、「富士宮やきそば」が観光の新しい目玉に加わり、より魅力を増したと言えるだろう。


富士宮やきそばブース。経済波及効果は過去9年で439億円。

 昨年優勝の秋田県横手市「横手やきそば」は、横手市役所によれば地元開催の「B-1グランプリ」を含めてそれ以降今年5月までの約半年でおよそ34億円の経済波及効果があったと試算している。関連行事を含む開催期間3日間の来場者の消費額は約13億円と、これだけでも大きい。


横手やきそばブース。昨年優勝で全国区の知名度を得た。

 高速道路のETC休日上限1000円の効果が非常に大きく、開催時には秋田自動車道が開通して以来初めて横手I.C.で渋滞が起こったほどだ。

 現在に至るまで県外、特に首都圏から「横手やきそば」を食べに来る人が急増し、休日には行列ができる提供店もあるという。

 年中かまくらが体験できる施設「かまくら館」などの市内の観光施設、宿泊施設、お土産品店、ガソリンスタンドにいたるまで多くの波及効果があり、「横手やきそば」は冬のかまくらと並ぶ観光の柱となった。

 今年4月には県内の地域グルメでまちおこしを目指す13団体が集結する、秋田県「食」のネットワーク協議会が立ち上がったが、それにも参加して毎週のようにイベントを行っている。

 東北4大焼そばということで、宮城県石巻市「石巻焼きそば」、青森県黒石市「黒石つゆやきそば」、福島県浪江町「なみえ焼そば」と行動することも多く、やはりB級グルメでは知名度が高い青森県八戸市「八戸せんべい汁」とも緊密な関係を保ちつつ、さらなる盛り上げをはかっている。


石巻焼きそばは、横手、黒石、浪江とともに東北4大焼そばフェスティバルを開催。地元のジュニアアイドルが歌う宣伝歌もある。

 このような県単位、周囲の市町村と組んだ地方単位のB級ご当地グルメのイベントが盛んになっているのも「B-1グランプリ」の効果であり、訴求力のある郷土食のある地域がますます有利な状況になってきている。

「横手やきそば」でまちおこしを推進する「横手やきそば暖簾会」には50店近くの加盟店があるが、イベントはたいてい休日に行われるため、お店の店員がイベントに借り出されていたのでは、観光に来てくれた人に自分のお店の焼そばが提供できなくなる。

 そこで「横手やきそば暖簾会」では、退職者や普段は会社員をしている人を集めて3ヶ月の講習を行い、「横手やきそば職人」という市民サポート部隊を育成しており、既に40人ほどが登録している。

 こういった地域ぐるみの後方支援グループがあるからこそ、「横手やきそば」は全国区になれたとも言える。「B-1グランプリ」に出場するのが全てではないのだ。

 来年の第6回は兵庫県姫路市で開催される。近畿では初の開催である。食道楽で旨くて安い料理が多数ある近畿地方は、兵庫県南西部の播州地域以外は「B-1グランプリ」にこれまで熱心でなく、好成績も残していないが、ここで火が付けば間違いなくB級ご当地ブルメは全国的なブームになる。

 姫路は大阪からの距離感では、首都圏で言えば東京から小田原くらいの感じである。かつ岡山、高松、鳥取などからもそんなに遠くない。集客は今回に迫ると思われる。

 岡山勢は今回真庭市「ひるぜん焼そば」2位、津山市「津山ホルモンうどん」4位と健闘している。当然、勝負をかけてくるだろう。兵庫勢の高砂市「高砂にくてん」、明石市「あかし玉子焼」ばかりでなく、地理的に近い鳥取県鳥取市「とうふちくわ膳」、関西のうどんを好む食文化から大分県佐伯市「佐伯ごまだしうどん」なども大きなアピールのチャンスとなる。今まで参加が見られなかった四国勢も、これを機会に進出してくるだろう。


鳥取のソウルフード・とうふちくわをステージでアピールする、鳥取とうふちくわ総研。

 もちろん姫路地元の生姜醤油につけて食べる「姫路おでん」にとっては、既に知名度が高い「静岡おでん」に次ぐ全国区のおでんの街に名乗りを上げる最大のチャンスが巡ってきた。

 世界遺産・姫路城は残念ながら改修中だが、産官あげての市民、メディアを巻き込んだどんな展開が見られるか、楽しみだ。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年9月25日執筆