フードリンクレポート
居抜き仲介のパイオニア、トラブルは熟知。
株式会社ABC店舗
ABC店舗社長、土井恭一氏。
・2004年、ネットでスタート
代表取締役の土井恭一氏は山形県から上京し不動産業で働いた後、2002年に一般的な不動産業としてABC店舗を設立。やるならその分野で1番を目指したいと、店舗仲介に目を付けた。
「不動産は事務所と店舗と部屋の3種があります。事務所と部屋は大手企業が握っているので新規参入で1番になるのは難しい。大きな企業が無かった店舗に目を付けました」と土井氏。漠然と大金持ちを目指して上京してきたそうだ。
そして、さらに差別化するために、居抜きに注目。2004年にインターネットで居抜き物件を紹介するサイトを立ち上げた。
「当時、居抜きは流通されていませんでした。肝心の閉店情報が集まりませんでした。そこで、中古厨房機器売買のテンポスバスターズさんと業務提携して閉店情報をいただいて、それを1つ1つ商品にしてサイトに掲載していきました。段々とお客様に認知されるようになり、単独でもお店を閉めたいという情報をいただけるようになりました。でも元々はテンポスバスターズさんの情報から始まったんですよ」と土井氏。テンポスバスターズは2002年末にジャスダックに上場。厨房機器のリサイクル市場が確立し、ネガティブなイメージだった閉店がビジネスチャンスに変わっていった時代だ。
「閉店しようとしているお店に訪問して、スケルトンにしなくてもこのままで売れるんですよと説得して回りました。店をやりたいと言う方が多かったので、居抜き商品を作れば売れました。」
同社社内。会議は立って行う。壁一面がホワイトボード。
2014年に株式公開を目指す。
・料金は造作代の10%と、家賃1ヶ月分
ABC店舗のHP上で紹介されている物件は約3000件、そのうち同社の自社開発のものは約300件が紹介されている。自社開発の物件は新規に月約60件が登録され、成約するのは月約30件。競合業者で掲載件数のより多いサイトがあるが、同社の物件や業界で流通している物件も掲載しているので多くなっているのが実態。
「売りたい方にとっては私どもが一番高く売れると思います。私どもの登録会員だけでなく、競合他社、ビールメーカーなど広く情報を公開して多くの方が競合できるような状態で行います。基本的には私どもで開発した物件は全て公開します。公開する前に裏で取引するようなことはしません。」
人気物件のエリアは、山手線の内側。特に、港、千代田、中央区などに物件が出ると申込みが殺到するそうだ。買い手はネットで見て同社に問合せ、現地で会って物件を視察する。但し、営業中の場合も多い。
売り手から居抜きの相談を受けると、同社は過去の成約事例をベースに造作の売却希望価格を売り手と決める。賃貸条件が相場より安いと造作の値段が付けやすくなるそうだ。
「高い値段で売るためには、1回目のオープン価格が大切です。それで決まらないと値崩れします。あとになって値段を下げても、お客様が集まらなくなります。最初に400万円で出していれば確実に決まる物件が、580万円で出して長期間決まらず、結局200万円に下がってしまうなど、全ては初回の価格設定が重要です。」
そして、オーナーと交渉。
「契約上はスケルトンで返すことになっていますので、大家さんから造作譲渡の承諾を得る必要があります。そして、新しい賃貸条件を決める。そしてサイトに公開します。大家さんからは、契約書通りスケルトンで引き渡してもらわないとダメだと言われます。1つ1つ説明してご理解いただくのに骨が折れます。基本的には9割がた了解してくれます。ノーと言われるのは、匂いや害虫などの問題で、今後は飲食店を入居させたくないという大家さんや、今の借り手と上手く行っていない大家さんです。」
新しい家賃は現状維持か、その少し上になるケースが多い。居抜きの場合、オーナーにとって家賃が途切れず入ってくることが魅力だが、しかも、わずかながら増額になるメリットもある。
同社のマージンは造作売却代金の10%と、不動産仲介手数料としての家賃1ヶ月分。但し、造作売却マージンの最低は30万円に設定している。
・営業中の視察からトラブル発生
居抜きのトラブルで最も多いのが、営業中に物件視察する場合。
「営業中で合意し契約も交わす場合、引き渡しの際に譲渡すると約束していたものを、思い出の品とかで売り手が持って出てしまうトラブルが多いんです。それを防ぐために、品番と写真を付けて譲渡資産等一覧を作って契約しています。」
同社の譲渡資産等一覧の例
「あとは機器が動かない。聞くところによると、電気やガスを切って、真っ暗な中で引き渡しのための確認作業を行うことがあるようです。契約締結までの間はいざこざがありますが、引き渡しの時はお互いにやりましたねといい雰囲気なんです。機器の動作を確認しなくても先週まで営業していましたから大丈夫ですよ。お互いにいいよ、いいよ、になってしまいます。瑕疵担保責任は付いていないので、引き渡しが終わったら買い手の責任です。動かなくても売り手に請求できません。私どもは売り手と買い手の立会のもと、全部開栓させて全部動作確認します。様々なトラブルを経験して進化しました。」
「そしてリース。リース分を清算してからが本来の契約ですが、資金繰りがひっ迫しており、 造作の金額が入らないと清算できないというケースが多い。お金を入れて清算いただく約束ですが、ふたを開けたら清算してなかったというケースがあります。大家さんに言って保証金を押さえたりしました。現在は造作代金を私どもで預かって、私どもからリース会社に清算する形にしています。」
居抜き物件の成約数が昨年に比べて5割ほど増えているという。トラブルを未然に防ぐことが出来れば居抜き市場はさらに成長するだろう。「社員に不動産経験者はほとんどいません。額に汗して稼ぐことが好きな外食産業出身者が多くて、自分の店を持つために頑張っています」という真面目な姿勢のABC店舗。居抜き業界の活性化にはなくてはならない企業だ。
→株式会社ABC店舗