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フードリンクレポート


兵庫県、受動喫煙防止条例制定は不可避か。問題は規制対象に飲食業が入るか。

2010.7.28
神奈川県に続いて、飲食店を含む公共的施設の禁煙・分煙化を義務付ける条例が決まるか。注目の兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会であるが、7月14日に2回目の会合が行われ、条例化には大筋合意したもようだ。ただし、飲食業、ホテル・旅館業のようなサービス産業は、官公庁、病院、学校などと同列に括れないとして、対策は別途検討される模様だ。


神戸の夜景。飲食業が規制対象になると夜の街も寂しくなる?

委員の大半は禁煙推進のオーソリティという構成

 7月14日、兵庫県議会棟7階中会議室で、第2回兵庫県受動喫煙防止対策検討委員会が行われた。

 今回は6月2日に行われた第1回検討委員会の論議を踏まえ、さらに公共的施設での受動喫煙防止対策が具体的に話し合われた模様。

 兵庫県では平成15年に施行された健康増進法第25条に基づき、公共的施設での受動喫煙の防止対策を推進する、「兵庫県受動喫煙防止対策指針」を平成16年3月に策定。

 これは条例ではなく罰則はないが、公共的施設、具体的には官公庁(敷地内または建物内)、教育機関(敷地内)、医療機関(敷地内または建物内)では100%禁煙を目標。事業所(遊技場、娯楽施設、商店、社会復帰施設等を含む)、運動施設、文化施設、飲食店、宿泊施設、交通機関では、平成22年度までに禁煙(敷地内、建物内)または完全分煙100%を目指す。家庭では家庭内の妊婦や乳幼児がいる場での禁煙など、努力目標を定めており、県では指針に基づいた啓発活動を行ってきた。

 今年度でその指針の運用期間が終了し、達成率100%を目指して来年度以降の受動喫煙防止対策をどのように進めていくか、検討委員会が開かれている。


兵庫県庁(神戸市)

 事務局の兵庫県健康増進課・明神繁氏によれば「必ずしも条例化が前提の検討会でもなく、新たな指針が策定される可能性もある。まず幅広く有識者、関係者の意見をお聞きしたい」とのことであったが、実際に委員として参加した人の感想は違っていた。

 兵庫県飲食業生活衛生同業組合理事長で、和食ダイニング「いり江」(神戸市西区)代表の入江眞弘理事長によれば、「委員として集まってきたのは嫌煙のオーソリティばかり。最初から偏った観点からの受動喫煙の弊害を示すデータを見せられ、公共的施設での禁煙は条例化すべきといった空気が支配していた。慎重派は私とホテル・旅館組合の方だけで、自分たちの意見を聞いてくれているのかと疑問に感じた」とのことだ。

 15人のメンバーの主力は公衆衛生の専門家であり、医師会、歯科医師会、薬剤師会の代表者、WHO神戸センター、神戸新聞の記者、学者などの学識経験者、市長会代表、子育て関係のNPO法人代表者などといった面々。

 第1回委員会の委員長のまとめでは、「官公庁をはじめとしたところの全面禁煙が必要で、条例化することも一つの考えということについては一致した見解」、「サービス産業については色んな見解がある」と、官公庁、学校、病院などと、飲食店やホテル・旅館を分けて考える方向性が提示されていた。


頭ごなしの禁煙条例化は神戸の喫茶文化を滅ぼす

 第2回の特徴として、委員会メンバー15人に加えて、事務局の兵庫県健康増進課の提案で4名の参考人が各約5分ずつ意見陳述を行った。

 意見陳述は、JT、フィリップモリスといったタバコ産業の代表者から各1名計2名、兵庫県喫茶飲食生活衛生同業組合から1名、兵庫県喫煙問題研究会から西宮市保健所長1名といった内訳で、条例化慎重派から3名、推進派から1名。今回はどちらかというと、5分という短い時間ながらも慎重派の意見も詳しく聞いてみたいという狙いであったようだ。

 JTは「喫煙者と非喫煙者の共存」をテーマに、喫煙マナーの向上に関する啓発活動の実践、理想的な分煙環境の提案について発表した模様。

 フィリップモリスは公共の場所を「人々が行かなければならない場所」と、「人々が選んで行く場所」に分け、前者は禁煙を含めた規制を行うべき、後者のバー、レストランなどは喫煙を可とするか、不可とするか、経営者の裁量を認めるべきとの主張を行ったようだ。

 兵庫県喫茶飲食生活衛生同業組合理事長で、「リア珈琲」(神戸市垂水区)代表の林靖二氏は、「委員構成を見ると兵庫県とは関係の薄い、タバコの嫌いな人たちが大勢を占めています。私たち喫茶店の立場で言いますと、お客様にはタバコを吸う人が多いです。公共的施設ということで一律に規制されてしまうと、潰れてしまうお店も数多く出てきます。飲食業には他にも居酒屋、旅館などさまざまな団体がありますし、禁煙を条例化するのならもっと多くの人の意見を聞いてからにしてもらいたい」と、公共的施設に属する関係団体でありながら委員から除外された悔しさを語る。

 林氏は官公庁、病院、学校のような公共の場所での禁煙には反対していない。ただし、それらと民間で経営している喫茶のような飲食業とは、性格が自ずと違うということなのだ。

「不況でお客様は減っていますし、分煙をするにも多額の資金が要ります。それをどう調達すればよいのか。そもそも狭いお店では分煙するスペースがない。禁煙にしてお客様がさらに減ったら、とても苦しいです。大震災もあったし、新型インフルエンザの影響も受けた。なんで神戸ばかりという思いもあります。喫茶は神戸の地場産業だと自負していますし、中小零細があってこその地場産業です。これを何としても守っていきたい」。

 港町・神戸は早くから舶来文化が栄え、喫茶、カフェのレベルの高さも全国有数である。UCC上島珈琲の本社も神戸にある。喫茶と喫煙の関係ももちろん深く、市民がふと一息入れる場として喫茶店は愛され続けてきた。その神戸の喫茶文化の存亡の危機ともなりかねないと、林氏は懸念している。

 また林氏は、「こういう条例が決まろうとしているのを県民の多くが知らないのが大きな問題ですし、ぜひとも市民の声で地場産業を守っていく方向にいってもらいたいです」と、危機感をあらわにした。ある日突然決まったからと施行されて驚く前に、県民の間で公共的施設の禁煙、分煙をどうするのか、議論が深まることを期待している。


兵庫県の井戸知事は受動喫煙防止に対して積極的

 フードリンクが神奈川県の飲食店200店に対して行った受動喫煙に関する電話調査では、79店(39.5%)が、今のところ何の対策も行ってないと回答。分煙としているのは53店(26.5%)。喫煙は27店(13.5%)、禁煙41店(20.5%)であった。

 また、分煙していると回答した店で、パーテンションなど仕切りを設けているのは10店のみで、受動喫煙を防止するには喫煙席と禁煙席を分けるだけでなく、煙を遮断しないといけないので、実は対策になってない店も多数あった。

 分煙、禁煙化によって生じる問題点としては、7割になる140店が売上(集客)の低下、5割近い94店が設備投資費用を挙げていた。

 特にバーのような業態では「完全禁煙にすれば顧客が減る、経営の危機」といった声が多い。小さな店では「分煙をするほどのスペースがない、店の構造的に分煙は無理」との回答も多く、分煙化に踏み切る大型店でも「大きな投資が必要でもっと補助政策を考えてもらいたい」と不満の声が噴出している。

 先に条例化が行われた神奈川県でも、飲食店の受動喫煙禁止条例をめぐる問題点は兵庫県と同じであった。

 それについて、事務局の兵庫県健康増進課・明神繁氏に感想を聞いてみると、「受動喫煙防止の推進派ばかりの意見ではバランスを欠くので、今回は積極的でないほうの側の代表の人に多く来てもらって意見陳述をしてもらった。官公庁、病院、学校などに関しては条例化の方向でほぼ合意できたように感じています。しかし、飲食店、ホテル・旅館業に関しては今のところ白紙と考えています」とのことだ。

 つまり、官公庁、病院、学校などの公共施設は条例化に舵を取り、飲食業、ホテル・旅館業などのサービス産業については分けて考え、別途論議するということだ。

 委員の兵庫県飲食業生活衛生同業組合・入江眞弘理事長によれば、「委員15人のうちのほとんどは、公共の場での禁煙を強硬に主張する人ばかりで、しかも兵庫県とは接点がなかった人が多い。これは公共の場での禁煙に関して思いの強い、井戸敏三兵庫県知事の意向が反映していると考えています。禁煙が条例化された神奈川県も、松沢成文知事の意向が反映していますし、兵庫県の場合も条例化は避けられない情勢になっているように感じます。ただし、飲食業や旅館業は、官公庁、病院、学校などとは性質が違いますから、そこから除外していただきたいと、私どもは申し上げています」と、語っている。

 飲酒運転に対する規制強化で郊外の居酒屋などは、特に経営環境が厳しい。そのうえ禁煙化を進める条例が施行されれば、営業が成り立たなくなる店が続出するだろう。入江氏は「お客様には喫煙する権利もある。その店が禁煙か、分煙か、喫煙か、お客様のほうで選べるようにすればいい話ではないのか」と選択できる方式を提案している。

 8月初旬には3回目の会合が予定され、もう1回4回目の会合の後、9月に委員会の報告書が提出される。これからの攻防は、官公庁、病院、学校などの公共施設の条例化は前提で、飲食店、ホテル・旅館などをどう扱うかに絞られたといっていいだろう。

 すなわち飲食店、ホテル・旅館などのサービス産業を条例化の項目に入るか、除外されるかである。

 最終的には井戸知事がいかに考えるかにもよるのだが、事務局としてはあくまで柔軟な姿勢で臨むとの態度は保っている。

 飲食業という産業をどう発展させていくかという観点を強く主張していけば、条例化から除外される、あるいは条例化されるにしても条件が緩和される可能性も残されている。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ)  2010年7月27日執筆


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