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兵庫県、受動喫煙防止条例制定も視野に入れての審議会始まる。

2010.6.30
神奈川県に続いて、各地方自治体で受動喫煙防止条例制定の動きが広がっている。兵庫県では、従来からあった受動喫煙防止対策指針の運用が今年度で終わり、次年度から条例化することも選択肢となる有識者、関係する施設の代表者を集めた検討会が進められている。レポートは長浜淳之介。


西宮市保健所が認定する、「空気もおいしい店」ステッカー。

県の受動喫煙防止対策指針以降の方向性を論議

 兵庫県では、多数の者が利用する公共的施設における、受動喫煙防止条例制定を視野に入れての動きが始まっている。もし決まれば、神奈川県に続いて都道府県では2番目の制定事例となる。

 有識者らが集まった第1回審議会が、6月2日に、兵庫県庁近くの兵庫県農業共済会館会議室(神戸市中央区下山手通4)で開催された。

 従来から兵庫県は、非喫煙者であるにもかかわらずタバコの煙によって健康が損なわれる、受動喫煙防止の取り組みに対して熱心である。もちろん、公共的施設の中には飲食店も含まれる。

 平成15年に施行された健康増進法第25条に基づき、公共的施設での受動喫煙の防止対策を推進する、「兵庫県受動喫煙防止対策指針」を平成16年3月に策定している。

 これは条例ではなく、守らなければ罰則があるわけでもないが、具体的には官公庁(敷地内または建物内)、教育機関(敷地内)、医療機関(敷地内または建物内)では100%禁煙を目標。事業所(遊技場、娯楽施設、商店、社会復帰施設等を含む)、運動施設、文化施設、飲食店、宿泊施設、交通機関では、平成22年度までに禁煙(敷地内、建物内)または完全分煙100%を目指す。家庭では家庭内の妊婦や乳幼児がいる場での禁煙など、努力目標を定めており、県では指針に基づいた啓発活動を行ってきた。

 今年度でその指針の運用期間が終了し、来年度以降受動喫煙防止対策をどのように進めていくか、第1回審議会が開催されたものである。

 従って、神奈川県など他の自治体に感化されての同調した動きではなく、兵庫県が行ってきたこれまでの指針による成果を検証しつつ、次の方向性、対策をどう打ち出すかがテーマになっている。必ずしも条例化が前提の検討会でもなく、新たな指針が策定される可能性もある。

 審議会は、今後2、3回開催。次回開催は7月中旬を予定している。

 9月頃までに報告、提言がまとめられるスケジュールとなっている。また、審議会の議事録をまとめた文書が順次兵庫県庁ホームページにアップされる予定なので、審議された内容と議論の経過は、そちらより確認できるはずだ。


兵庫県庁(神戸市中央区)。

官公庁、医療機関と飲食店を同列に扱うべきか論争も

 審議会のメンバーは、15人。今後も増減の予定はない。

 メンバーは、あくまでタバコから立ち上る副流煙のほうが、喫煙者が吸い込む主流煙よりもはるかに有害物質の含有量が多いという、受動喫煙の健康被害を訴える観点から、公衆衛生の専門家を中心とし、禁煙・分煙に関連する公共的施設の代表者に入ってもらったとのこと。

 事務局は県庁健康生活部健康局健康増進課。公衆衛生の専門家である、医師会、歯科医師会、薬剤師会の代表者、WHO神戸センター、学者、マスコミなどの学識経験者、市長会代表、飲食業組合、ホテル旅館業組合、商工会の代表者、子育て関係のNPO法人代表者などで構成されている。

 飲食業からは、飲食業生活衛生同業組合より代表者が1人メンバーに加わっており、中小企業・飲食店の意見も組合代表者に述べてもらっているという。

 また、飲食業における受動喫煙防止の啓発活動も組合などを通じ、禁煙実施店には県が作成したA6サイズの禁煙ステッカーを貼ってもらうように指導している。禁煙ステッカーは、禁煙、施設内禁煙、店内禁煙の3種類があり、あらゆる公共的施設に対応できるようになっているので、飲食店にのみに向けた施策ではないが、店内禁煙は当然、飲食店、商店を主たる対象としている。

 現状、第1回審議会では、一部には飲食店を含む全公共的施設で禁煙を実施すべく、条例を制定すべきといった強硬な意見もある。

 一方、それは非現実的とする反対論もある。単に喫煙席と禁煙席を分けただけでは、喫煙者のタバコの煙が来る可能性があるので分煙とは言えない。完全に隔離した喫煙室をつくり、煙が禁煙室に来ないように空調も考える必要がある。

 小規模な飲食店などではそもそも分煙するほどのスペースがない、煙が来ないように仕切りをつくる工事費は誰が負担するか、全面禁煙にすれば集客に響くといった慎重論もあり、条例化されるかどうかは微妙な情勢。

「国によっては飲食店が全面禁煙の国もありますが、日本の場合は事情を聞いてみると、官公庁や医療機関とは一緒にはできない。分けて考えるべきではないかという意見に傾きつつあります。神奈川県も、飲食店の実情を考慮されて、床面積が100平方メートル以下のお店は条例の規制対象外で努力義務にされていますね」と、兵庫県健康増進課担当者。

 日本は平成17年2月に効力を生じた、「たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約」の批准国の1つであり、160カ国以上の国々で交わされた国際条約に基づいて、公共的施設での禁煙または分煙が進んでいる。

 英国のようにパプやレストランを含めて、公共的施設を全面禁煙にしてしまった国もある。

 しかし、兵庫県ではそこまでの強硬論は決して主流ではなく、官公庁、医療機関などと、飲食店は自ずと性質が違い、別々の対策を行うべきとの方向を取っていく見通しである。

飲食店の指針目標達成率は2割弱。認知度は14%

 ところで兵庫県健康増進課が平成20年8〜9月に行った郵送による配布・回収のサンプル調査(6008サンプル)によると、禁煙または分煙の指針目標達成率は、官公庁で58.5%、教育機関(幼稚園、小中高等学校)79.9%、教育機関(大学・専門学校)36.1%、医療機関79.4%、事業所49.0%、運動施設84.8%、文化施設83.6%、飲食店19.6%、宿泊施設17.1%、交通機関34.7%、娯楽施設(パチンコ、ゲームセンター)15.4%といった参考データがある。

 指針では100%達成を目標にしているのに対して、飲食店19.6%、宿泊施設17.1%、娯楽施設(パチンコ、ゲームセンター)15.4%という、10%台の達成率は、官公庁や医療機関に比べてあまりに低すぎるとの指摘は、審議会でも当然なされている。

 飲食店の有効回収は333(33.3%)であったが、健康増進法の認知度は41.0%、指針の認知度は13.7%にとどまっていた。

 宿泊施設も有効回収118(53.6%)のうち、健康増進法の認知度は56.9%、指針の認知度は19.8%と高いとは言えなかった。

 従来の努力目標では、最終目標である100%実現は難しいとの見方もあるものの、指針の認知度さえ上げれば改善されるといった意見もあって、そもそも飲食店の末端では、受動喫煙防止に関する法律、指針が浸透していない問題が浮き彫りになっている。

 中小店の集まりである飲食店は、業界ごと、地域ごとに細かく団体が分かれているし、それに所属しないアウトサイダーも数多くある。

 今回の飲食業代表者1名は、中小店の意見を代弁してなかなか頑張っていることがうかがえるが、県内の業界全体に対するアナウンスは十分とは言えないと思う。禁煙店であることをアピールできるステッカーにしても、浸透しているとは言いがたい。

 同じ兵庫県内でも、西宮市保健所では保健所員がリサーチして禁煙を実施している店は「空気もおいしい店」と認定して、店の外と中に、独自のステッカーを貼る活動を始めている。

 今のところはまだ市役所周辺の8店のみだが、西宮市のように市や町のレベルで(兵庫県には村がない)禁煙店、分煙店を認定して消費者が選べるようなシステムが普及しないと、飲食店での指針達成率を官公庁、医療機関並みに引き上げるのは難しいだろう。

 平成22年2月25日、厚生労働省より「多数の者が利用する公共的な空間については、原則として全面禁煙であるべきである」との通知が出されている。

 兵庫県健康増進課はあくまで厚生労働省の通知に従い、飲食店においてはまずは大型店の禁煙化または分煙化、あるいはランチタイムのみ禁煙にするなど時間帯による禁煙が、現実的な施策となる見通しだとしている。

 条例まで進むかどうかは、今のところ五分五分といった感じだが、神奈川県のように飲食店への告知が十分でないまま条例化されるのは、避けてもらいたいものだ。条例化されるにしても、最低1年の猶予期間は神奈川県同様に認められる公算が強い。

 しかし、指針としての努力目標運営期間が6年あったのは、兵庫県としての個別の事情であり、今降ってわいたように神奈川県に追従して、強硬に禁煙を推進しているわけではない、先進的で柔軟な姿勢は伝わってきた。

【取材・執筆】  長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年6月18日執筆


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