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フードリンクレポート


職場の受動喫煙防止について公聴会開催。
このままでは外食市場はさらに落ち込む!

2010.11.16
厚生労働省が職場における受動喫煙防止の法制化に向け動き出した。健康増進法で、飲食店を含む多数の者が利用する施設での受動喫煙防止が努力義務とされている。また、労働安全衛生法で、労働者の職場環境を保護するために同様の努力義務が課されている。つまり、飲食店ではお客と従業員両方に対し受動喫煙防止対策が努力義務とされている。これを努力義務から規制に変更するための法制化が検討されている。来年1月の通常国会への提出を目指して、11/10に東京・虎ノ門にて公聴会が開かれた。レポートは安田正明。<全文フリー>


「職場における受動喫煙防止対策に関する公聴会」が11/10に東京・虎ノ門で開催された。

全面禁煙の声強し

 公聴会は厚生労働省の小宮山副大臣も出席し、公益代表・労働者代表・使用者代表の3つの立場の委員に対し、各種団体の代表8名が意見を述べた。これらの意見を踏まえて再度議論され、閣議決定を経て、労働安全衛生法での受動喫煙防止対策について現状の努力義務から、規制へと変更する改正案が来年1月の通常国会に提出される見込み。


小宮山洋子副大臣。

 意見陳述者の中には、外食企業関連の3団体も含まれた。チェーン外食企業約450社が加盟する社団法人日本フードサービス協会と、個人店を中心に約8万店が加盟する全国飲食業生活衛生同業組合連合会、ホテルや旅館など観光産業で働く約4万5千人が加盟するサービス・ツーリズム産業労働組合連合会。

 共に、全面禁煙や空間分煙とする流れには賛成。但し、快適な空間とくつろいだ時間を提供するのが仕事であり、現状でもなされている喫煙・分煙・禁煙の表示を各店舗で徹底させ、利用者が自由に選択できる環境が望ましい。一律的な全面禁煙、空間分煙は現実的ではないと主張。また、労働者の職場環境を保護するという観点もあるが、外食では一般の職場と異なり利用者という要素も含まれ、まずはお金をいただく利用者の事を考えなければならないと主張。

 対して、「禁煙スタイル」というHPを展開する法人が愛知県で2009年10月〜10年2月にかけて行われた1万1千店舗の調査結果を紹介した。敷地内全面禁煙にして売上の減少が見られたのは1割以下でビジネスへの影響は少ないと主張。但し、分煙による喫煙席の設置を認めると、小規模な店舗では設置できず、喫煙席の設けられる大規模店に喫煙目的客が流れてしまうという懸念も指摘した。また、受動喫煙を専門に扱う弁護士は、受動喫煙による労働者からの訴訟例を紹介し、屋内全面禁煙を主張。帝京大学教授らが、煙に含まれる浮遊粉じんの害について説明した。

「売上減少が反対理由なら、全面禁煙にすれば全店が同じ条件となり、外食産業の懸念は払拭されるのでは」というジャッジを下す側の委員の意見が耳に残った。


全面禁煙で外食市場はさらに衰退か

 果たして、全面禁煙にすれば外食店の売上は変わらないのだろうか? 

 全面禁煙となることにより、利用者が外食へ足を運ぶモチベーションの一部が奪われ、来客数が減ることが予想される。また、喫煙者の店での滞在時間が短くなり、客単価まで減る恐れもある。また、喫煙可能な屋外テラスを持つ店に喫煙客が流れ、大規模店・小規模店という対立が、屋外店・屋内店という対立にする変わることも考えられる。

 英国では、2007年に一律に全面禁煙が導入されてから、酒類の販売が8%減少し、パブなどの酒類販売業が10%程度廃業に追い込まれた。英国ではパブの外なら喫煙できるが、日本では道路では吸えないなど、屋外の喫煙場所も制約されている。日本では英国よりさらに大きなダメージを受ける可能性がある。

 外食市場は1997年の29兆円をピークに右肩下がりで、昨年は24兆円にまで縮小した。さらに、全面禁煙が施行されると市場が一段と小さくなる恐れが出て来くる。就労人口400万人以上を抱える外食市場で、しかも、零細な個人事業者も多い市場。失業者が数多く発生するだろう。

 受動喫煙防止対策は日本も取り組むべき重要な問題。しかし、単純に全面禁煙を決めてしまうのは早計だ。喫煙者が多く、零細な個人事業者が多い外食市場という日本の特殊性も考慮した上で厚生労働省には検討をお願いしたい。 


【取材・執筆】 安田 正明(やすだ まさあき)  2010年11月15日執筆


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