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メディカル・レストラン

メディカル・レストラン

『健康×美食ラボ』が送るメディカルフードレポート
『健康×美食ラボ』所長:医学博士 岡野喜久夫 

第10回「シャンウェイ」


2007.4.13
現役の医師が、健康になれるグルメ情報をお伝えします
 
 先日花見に四ツ谷の土手を歩いて参りました。男子日本国に生まれ桜を愛でつつ酒を友と酌み交わす・・不 亦 楽 乎(また楽しからずや)。論語かぁ(笑)。なんとなく口ずさんでしまうほど漢文は学生の頃だれもが習わされましたよね(なーんて偉そうな事を書いちゃいましたが所長は現代国語と古文はメチャクチャできなくって漢文だけは何故か男性的で好きだったんです。笑)。

 中国は漢字以外にも宗教観から何から何まで数え切れない程の影響を日本に授けている事に異存のある方はいないでしょう。そして食に関しても日本だけに留まらず世界が認める大国です。「中華料理」と言いましてもあまりに多くのバリエーションがあるため、ひとまとめに語ることは不可能なのですが。。。「そろそろメディカルレストランとしても世界三大料理の一つの中華料理を緊褌一番取り上げないといけないよなぁ。。。」と思っていた矢先!

 派遣のラボスタッフが部屋に飛び込んできて「所長!オモロイ店発見しましたわ〜。この間カワイコチャン達と合コンしたんすけどね〜そこがですね。。なんと!鉄板焼の中華なんすよ!」

 はぁ〜?。。。。一瞬頭の中真っ白で料理の想像が出来なかった所長ですが、尋問には欠かせないカツ丼食わしながらネチネチと派遣君を締め上げた所、かの地が ①生半可なお店ではない事。②CPが良い事。③アバンギャルドなお店である事・・など冷凍ミカンが解凍するかの様にゆっくりとそして徐々に解明されました。合コンを所長に内緒でコソコソやった事は許しがたいのですが。。。まーいいでしょう。派遣スタッフに「おい。今日のお時給をちゃんと貰いたかったら、今晩このシャンウェイとか言う店に連れてくしかないと思えよ!」っと悪徳医者取締役幹事長補佐(笑)の所長はスカスオドスタカル!!(笑)。さっそく正社員含め全員を従えてラボを飛び出しました・・が、残念ながらその日
は鉄板焼を吟味すべきカウンター席がイッパイ!だけど所長の食欲はも〜誰にも止
められません。テーブル席でもいいのでまずは食させて頂きく事にいたしましたっ!


「シャンウェイ」

(住所)東京都渋谷区神宮前3-7-5-2F
(電話)03-3475-3425
(営業時間)月〜金 11:00〜14:30 18:00〜23:00
        土 11:30〜22:00
        日 不定休(予約のみ)

 
さて、席に着きましょう。今夜の所長の夕食は、

1、吉切り鮫の尾びれ鉄板焼
2、帆立貝柱と龍井茶(ロンジンチャ)の鉄板炒め
3、唐辛しと甘海老の炒め
4、やわらかヒナ鶏のネギソース
5、新鮮ホルモン四種鉄板焼(テッポー、ハツ、ハラミ、レバ)
6、凍頂高山烏龍茶の炒飯


1、吉切り鮫の尾びれ鉄板焼

 面白いですね〜最初っから姿煮の鉄板焼ですよ〜。フカヒレに本来はタップリとかかっているはずのソースが鉄板焼する事でパリパリのお煎餅になってます。この鉄板焼された姿焼(?)をですね、改めてフカヒレのスープ or 上海蟹のスープに浸して口に入れるのでありまーす。所長はなんと言っても上海蟹のスープがすんごく気に入りました!!生姜がとても効いてて濃厚な味の中に爽やかな風がフワッと感じられる素晴らしい味でした。コラーゲンたっぷりのアペタイザー。これにはビックリ!まずはワクワクさせられます。



2、帆立貝柱と龍井茶(ロンジンチャ)の鉄板炒め

 帆立貝にはミディアムレアに火が入ってますので甘みが生きてますし何と言ってもお茶の香りが素晴らしい!後でわかった事ですがこのお店の特徴である鼻で食す一品のはじまりはじまり〜!



3、唐辛しと甘海老の炒め

 さてさて、メディカルレストランはじまって以来の大問題作品の3です。こんな料理あり??ひたすら赤。見ればみるほどどす黒い赤。医師が見るに血が固まった時の本物の赤色です。昔の東映や日活映画で使われた安っぽいインチキな血の色ではありませんぞ。出てきた時は一瞬何かと思いましたが良く見るとその赤みは全て数え切れない程の唐辛しの海です。その中に甘海老が泳いでいます。香りはむせるほど刺激的で毒気さえうっすらと感るほど・・。「君子危うきに近寄らず!」。唐辛しは無難に避けて甘海老から口に運びます。マイウー!殻まで柔らかくてすべ〜て食べれます。こんなに柔らかく炒められた甘海老は初めてです。そして唐辛し!本当に辛いけど悔しいほど美味しい味!だけど・・・だけどですよ。。この周りの唐辛しまで完食する人がいるのでしょうか?お店の方にお聞きしたところたまには完食の人がいるとの事。。。ホントかいな(笑)。スタッフの何人かは無謀なる挑戦をした後に唐辛しみたいな真っ赤で見るも無残な顔になり(写真掲載禁止、爆)所長は彼等のもがき苦しんでいる状況を見つつ・・辛い→辛いなる一族→「華麗なる一族」というチャイニーズリング的な発想からTVの最終回に出てきたシーンを思い出しました。キムタクの「鉄鋼マンがさびてどうする!」や「メリークリスマス。」じゃないって!北大路欣也の「。。なんという残酷な。。。。」の方だっちゅーの!(古い。。。爆)。



4、やわらかヒナ鶏のネギソース

 これは鉄板焼ではありません。立派な蒸し物です(全品が鉄板焼ではないんですね)。しかしこれが本当に中まで柔らかくて骨までトロトロの作品で、ネギの香りも相俟って女性的なうっとりとさせられる作品です。口のなかが鉄鋼炉状態の鉄平君達には母親の万俵 寧子の様にさえ思える事でしょう。佐々木孝昌シェフの懐の深さに驚きました。本来様々な調理法を完璧にこなす方なんでしょうね。


5、新鮮なるホルモンに勝る美味しい物はなかなかありません。網で焼くのとはまた違った旨みがありました。内臓の美味さってなんでしょうね?所謂お肉は横紋筋ですが内臓系は平滑筋ですよね。油分が少なく美味しい食材。。。これからのラボにおける研究材料になりそうです。



6、凍頂高山烏龍茶の炒飯

 最後のチャーハン、お茶の使い方が本当に上手いお店ですね。鼻で食す炒飯。香りがとても新鮮です。一口いれると旨みと香りが口いっぱいに広がります。ごはんを食しながら最後に美味しいお茶を同時に飲んでいる様な不思議な感覚でした。



佐々木孝昌シェフ

所長のコメント:
 今回のメディカルレストランは料理の大人(タイジン)中華です。しかしクセの強いラボスタッフの捜し出して来たお店はかな〜り個性溢れるお店で中華料理界の四川、上海、広東、北京料理などに区別できる代物ではありませんでした。佐々木シェフの中華は簡単に表現しますと「枠にとらわれない中華。とんがった中華。懐の深い中華」。今回はスタッフ全員が初めて食べる中華料理ばかりで皆かなりのショックをうけていました。

 さて、味だけでなくメディカル的に検証をいたしますと、まずは看板通りの鉄板焼の品が多いのに油を感じさせなくとても爽やかな味つけの物が多い事に驚きました。肉なり魚介類なりを鉄板で焼く時はかなり油を使います。前々から私はそれが気になっておりました。網で焼く時の様に油が網の下に落ちる事もなくシャブシャブの様に湯に溶けて流れてくれるわけでもなくどんどん鉄板の上で食材に絡まる油・・余分なカロリーを取りたくないのになぁ。。。

 今回は勿論中華料理お得意の油の技を多用しております。しかし余分な油の使用を控えながら美味しくする高等技術!アブラトールリトリーバー(メディカルレストラン第三回「さんだ」参照)がキッチリとされておりました。例えば作品を再度濃厚なスープに浸して食べる事で旨みを感じさせたり、唐辛しのピリッとした辛み(ピリッどころじゃないけど、笑)でとんでもない爆発感を感じさせたり、爽やかなお茶の香りでうっとりとさせたり。。。意味のない余分な油を掻き落としても個性溢れる美味なる品にトリプルアクセルさせてしまうシェフのテクニカルポイントは10点満点に限りなく近いと思われます。

 そしてそして。。特に感心したのはお茶で〜す。最高級の二種類のお茶を使用したコンビネーションジャーンプ!すっかりその香しさに所長以下スタッフ一同魅了されてしまいました。また今回所長はお茶を食べるだけでなく老酒の合間に暖かいお茶をたくさん飲みながら食したのですが・・中華料理にはジャスミン茶や鉄観音茶がガップリと合いますねー。

 料理された食べ物だけでなく一緒に口に入れる飲み物も大事ですよね。お茶が身体の油をどんどん落とす・・なんてどこかのTV局みたいなインチキは申しませんが(笑)お茶なりミネラルウォーターなどで水分をたっぷり取りつつ食事をすれば必ず身体にプラスになる事は想像に難くありません。

そこで今回の『健康×美食ラボ』からの提案は、


「食事中のお酒の間に積極的に水分を飲むべし!」


 こんな簡単な事!って思われるでしょうがこれがかなり大事な事なのでありま〜す。その理由は二つあります。

《1》お酒で血液がドロドロにならない様にする!

 お酒には利尿効果があり摂取した量よりずっと多くの水分が尿として体外に排出されてしまいます。その中でもビールはもっとも利尿効果が著明な事は毎晩人体実験をされている方には実感されているはず(笑)。お酒の利尿効果に関する研究は古く、なんと・・かの森鴎外先生がドイツ留学時代に世界ではじめて論文にしております。その中で、ビールが一番利尿効果があった事を発表し、日本に帰国してからも『麦酒ノ利尿作用』てな題で発表しています。実際にはビール大瓶を2本飲みますと・・ありゃありゃ〜本人は望んでもいないのにビール瓶3本ぐらいの尿が出てしまいます。ビールに限らずお酒を飲みすぎた翌日は喉カラカラですよね。そして血管の中は脱水でドロドロになっており血栓などが生じやすい危険な状態なんですね。だからなるべくお酒を飲む際は水分の同時摂取が必要なんです。

 豪華なミネラルウォーターが海外のセレブに大人気です。彼らの間には徐々にお酒の変わりに健康に良くダイエットにもなる(カロリーゼロ)ミネラルウォーターを飲みながら過ごす習慣が広がって行きました。そしてフランス人などから「水なんか飲むのはアヒルだけだぜ」とバカにされない様に、まるで高価なワインを選ぶが如く自分の好みの水を(軟水、硬水、ガスあり、ガスなし、産地、などなど)お酒の様なオシャレなボトルから飲んでおります。水の豊かな日本でこれを見習わない手はありません(残念ながら都会の水の味はイマイチですが。。)。

 今回取り上げました中華料理にはミネラルウォーターより暖かいお茶がマッチすると思います。(だいたい冷たい烏龍茶なんて苦くて中国ではほとんど飲んではおりません)。夏は冷たいお茶も一興ですが基本的にはあらゆる料理の場においても身体を冷やさない暖かいお茶が宜しいと思います(メディカルレストラン第8回「華味鳥」参照)。


《2》飲み方では猛毒にもなるお酒を薬にする!

「酒は百薬の長」とも言いますよね。まーそれは大げさにしてもお酒はタバコと違って適量(一日に1〜1.5合)なら血液の循環を良くしたり善玉コレステロール(HDL−コレステロール)を増やしたりと本当に身体に良い薬学的な作用を持っていることが知られています。そして楽しい仲間と酌み交わす喜びは人生において大事なファクターだと思います。凄く悲しい時や辛い時に涙しながら飲むお酒も。。。けっして酒に頼るわけではないけれど、それなりに人生をアップデートするのに貢献してくれるはず。。。誰がそれを止めろと言えましょうか!

 しかし毎日365日惰性で飲み続けるのはいけません!お酒はちゃんと飲めば薬になりますが、量を誤りますと肝臓や消化器や神経系にまで影響を及ぼす毒になってしまうのです。だけどですね。。。そう書きながらお酒好きの所長が悩んでしまうのは・・毎日は飲まないとしてもこの『一日の適量!』って奴ですよね。お酒が弱い人ならイザ知らず、ほんのちょこっとのお酒で飲むのを止められる人が世の中に一体全体どのくらいいるのでしょう?!

 お酒を飲みだすと気も大きくなります。悪友がとなりでずっと飲み続けながら「ホントに飲まないの?笑」などとチャチャいれられてお酒なしで一人平静を保てるのでしょうか。。。だいたい日本のお酒の基本パターンはお酒とオツマミでひたすら進行して最後にご飯物と汁物、そしてお茶が出て来るってルートですから目の前に飲み物が酒しかなかったらそりゃー飲んじゃいます。喉乾きますからね。酔わないでそこそこ飲めちゃうし!(笑)

 そこで意志の弱い人(友人との付き合いの良い人とも言います、笑)へのお薦めがこのお酒とお水を交互に飲む飲み方です。別にチェーサーはBARだけの特権ではありません。日本酒や焼酎のロックや老酒やワインはやはりビールなどよりずっとアルコール度数が強くて普通に飲んだら短時間にアルコールを多く摂取してしまうもんです。お酒の横に悪友でなくお茶やミネラルウォーターを置く。コレガタダシアルヨ!

そしてそしてこれから重要な医学データを御教えするのですが、お酒の飲む量の
多い男性諸君には特別に注意をして頂きたい注意点があるのです。

 平成17年度の日本人の癌死亡数におけます統計で、男性が女性と比べて圧倒的に多い癌はなんだと思いますか?前立腺癌?!そんなのあたりまえやん!女に前立腺があるかいな。アホとちゃうかぁ。てな冗談言ってる場合(笑)ではなくてですね・・・正解は食道癌でして、なんと男性は女性の5.5倍ものリスクなんです。肺癌は男性に多いので有名ですが(喫煙率が大きいのが原因と言われてる)それでも女性の2.7倍しかありません。食道癌はなんとその2倍以上です!驚くべき事です(ちなみに最近肉食や洋食化で急増している大腸癌なんかは男女ほぼ同数)。私も医師を25年以上しておりますが食道癌の患者さんはほとんど男性でした。消化器系の予後の悪い癌として有名なと食道癌ですが、なんで食道癌は男性にこんなに多いのでしょう?

 一応ですね・・食道癌の危険因子としてとりあげられているのは、高齢者、男性、お酒、タバコ、緑黄色野菜の不足、熱い物を冷まさないで飲み込むこと、などがあげられております。タバコの発ガン物質は肺だけでなくジワジワと食道にも染み渡り、アルコールは食道に慢性的な炎症を引き起こし、熱い物は食道に火傷を負わしているんですね。だからアルコールを多く摂取する比率の高い男子陣には食道癌の危険度が高いと言うことになるんですね。ここまでは耳学問でなんとなく聞き知っていらっしゃる人もいるでしょう。

 今回はこのデータに加え、食道癌とお酒い関する重要なメディカル情報があります。

 結論を先に申し上げます。

1、大量の飲酒をしなくても食道癌になりやすい体質の人が日本人(東洋人)には多く、その遺伝的な詳細がわかってきた事。

2、遺伝子診断などしなくても簡単にそのヤバイ体質を知る方法が見つかった事。

 蒸留酒などを濃いままガンガン飲んだら食道が焼けてしまってどんな遺伝的に恵まれた人でも食道癌になってしまいます。そうでなく優しく飲まれてても遺伝的に食道癌になり易い人が日本には大勢いるので自分の遺伝的体質を正しく知り注意をしましょう!という話です。

 アルコールの体内の代謝は、アルコールが分解されアセトアルデヒドになりこれがアルデヒド脱水素酵素(ALDH)で酢酸になり尿などに排出されるのですが、日本人の約42%の人がこのALDHと言う酵素の働きが弱いため飲酒後アセトアルデヒドの血中濃度が何倍にも高くなり顔面紅潮や動悸が引き起こされます(彼らをフラッシャーと言います)。そして高濃度のアセトアルデヒドは細胞のDNAと結合して細胞障害をひきおこし・・結果として食道癌を誘引します。

 遺伝的にメチャクチャにALDHの働きが悪い人(日本人の7%)はこの症状のためお酒はまったく飲めない下戸ですが、そこまで働きの悪くない人達(日本人の35%)は飲酒を日々続ける事でフラッシャーでなくなり段々症状も出なくなりお酒が飲めるようになります(かくれフラッシャーですね、笑)。

 実は危険なのはこの『かくれフラッシャー』の人なのです。彼等は酵素の働きが悪いのに飲酒後症状もないのでお酒を飲み続け、常時高濃度のアセトアルデヒドによる暴露が続いてしまいます。彼等の食道癌になるリスクは酵素が正常に作用する人の10倍以上になる事がわかっております(本当は話がもっと複雑なのですが簡単にしております。念のため)。

『かくれフラッシャー』をチェックする質問は簡単で〜す。「大昔にお酒を飲み始めた頃、顔が赤くなりませんでしたか?」。これだけでほとんどの『かくれフラッシャー』は診断可能です。質問の中の『大昔お酒を飲み始めた頃・・』って所がミソです。是非御自分の体質を自己チェックしてみてください。そして食道癌の多い男性方は(勿論大酒飲みの女性も)所長のはじめた飲み方を実行して下さい。最初は違和感がありますが慣れれば大した事はありませんよ〜♪「論語読みの論語知らず」にならないようにして下さいねー!


■所長の独り言

『かくれフラッシャー』の所長はこの身体に良いお酒の飲み方に先日から挑戦してちゃんと続いておりま〜す。周りの輩からは「柔な酒の飲み方すんなよ。」とか「身体でも悪いの?うん?」なんて罵声を浴びておりますが(笑)。しかしですね。これがなかなか身体の調子が宜しいし、当然の事ながら翌日アタピンの二日酔いにならないのでありま〜す(笑)。さて今晩も水飲みに繰出しますかぁ(笑

執筆 『健康×美食ラボ』所長:医学博士 岡野喜久夫 2007年4月4日

『健康×美食ラボ』所長
医学博士 岡野喜久夫

岡野内科診療所院長
東京都港区新橋1-18-14 三洋堂本館ビル8F
03-3502-8060

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