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男同士でガブ飲みワイン。8割がボトルを注文し、3人で3本空けるケースも。
〜今、増えている“男同士でワイン”。新橋サラリーマンにも広がりを見せるワイン人気〜(3−2)

2010.10.5
新橋といえば、サラリーマンの聖地。居酒屋がひしめき合い、ワインのイメージとは結びつかない場所だったが、ここ数年で低価格帯のカジュアルなビストロやバールが急増。“ワイン通り”とも呼ばれるエリアも出現。男同士、しかもオヤジ世代でワインを飲む姿が多く見られるようになった。「重くて安い赤」、「2軒目でもボトル」そんなキーワードが聞かれる、新橋サラリーマンの“男同士でワイン”の実態を追った。3回シリーズ。レポートは村田麻未。


新橋サラリーマンの間で今、“男同士でワイン”が増加中。

男同士でガブ飲みワイン。8割がボトルを注文し、3人で3本空けるケースも。

 新橋烏森口から居酒屋やパチンコ店が立ち並ぶ雑踏を抜け、JRAのウインズ新橋の向い側、ビルの2階にあるのが「ビストロ グーテ」。金曜の夜8時過ぎに訪れると、店内の半数以上は男性だ。


男性同士のグループは全体の約3〜4割。

 7組いたグループのうち、男性のみのグループが約半数の3組。男性グループの年齢層は、40〜50代といったところ。店長の大宮氏によれば、「約3〜4割は男性のみのグループで、女性のみのグループとほぼ同じくらいの割合です。男女混合のグループも含めた全体の男女比だと、男性6:女性4の割合ですね。」

「ビストロ グーテ」は、今年5月にオープンしたばかり。安く美味しいワインを揃え、好きなだけワインを飲んで欲しいという思いのもと、店名の頭には、“ガブ飲みワインと合う料理”を付けている。夜の客単価は約3500円。2軒目利用であれば、2000円程度だという。


「ビストロ グーテ」外観。“ワイン通り”に位置する。

 ワインはグラスで赤白共に5〜6種類480円〜、ボトルは70種類程、2500円〜という手頃な価格帯と幅広い品揃えである。驚くのは、ボトルの注文率。約8割のお客がボトルをオーダーするという。これは店側も予想外だった。「当初オープン前は、5割程度と想定していましたが、それをはるかに上回る結果でした。男性のグループでワインを頼まれるケースは多く、ビールやスパークリングワインの後にボトルを注文され、3人のグループでも、2本や3本空けられることもあります。」と大宮氏。


壁の棚一面に置かれたワイン。

 ボトルでオーダーするといっても、ワインに詳しいお客は少なく、初心者レベルも多い。「“ワインが飲みたい”とか、“居酒屋では食べられないような料理が食べたい”という理由で来てくださっているお客様が多いと思います。ここなら、安くて美味しいワインが飲めると思って頂けているのではないでしょうか。」


人気の「田舎風テリーヌ」(右/580円)と「季節のラタトゥイユ」(左/480円)

 ワインリストを見て質問も無く、「じゃあ、これで」とワインをオーダーするケースは少ない。「半数以上のグループはリストを見ないでスタッフに飲みたいワインのイメージを伝え、相談して選ばれます。こういう感じが好きなんだけど、という形でリクエストを受けることが多いです。男性からのリクエストで多いのは“重くて、安めの赤”。やっぱり赤ワインの確率が高いですね。」

 これまでワインに馴染みの無かった男性が、臆すること無く相談できるのは、カジュアルなビストロならではなのかもしれない。そして、一般的に日本人男性は、“重い赤”が好きなようである。


ボトルに値段を表記。重い赤ワインは根強い人気。

 料理はカジュアルなビストロ料理。つまみは380〜580円、前菜も580〜680円程度、メインは1000円前後でリーズナブルだ。人気は、ビストロ料理の定番田舎風テリーヌ、砂肝のソテー、ハンバーグ、スパイシースペアリブなど。赤ワインにぴったりのメニューだ。


常連うち約4割が男性グループ客。カップル客や女性客の割合を抜いて最多。

 この男性間でのワイン人気の高まりの背景には、中高年の男性にワインの飲み方や知識が広まったことがある。飲みたいワインのイメージを伝えて注文するということは、コミュニケーションを取る機会が必然的に増える。その中で、ワインについての知識も自然と増えていく。

「例えば、このお店で自分の好みと予算に合ったワインがチリワインで、飲んで美味しかった、コストパフォーマンスが高いと感じられた方は、今度は他のお店に行ってもチリワインを頼まれると思います。実際に体験する形でワインに対する知識が増えて、それを他の店でも実践できる。比較検討もできるようになる。そんな方が増えていると思います。」というのが大宮氏の見方だ。

 これまで、中高年の男性サラリーマンにとって馴染みが薄く、日常的ではなかったワイン。そのワインの知識が実体験の中で増えているのだ。しかも、手頃なワインが増え、グラスで何杯か飲むならボトルで注文した方が得という飲み方も覚えて、ますますワインが身近な存在になっているのである。


【取材・執筆】 村田 麻未(むらた あさみ) 2010年10月2日執筆