フードリンクレポート
ヨーロッパの郷土料理が、スローフードの浸透でオープン相次ぐ。
<前編>
「クーカーニョ」 ブイヤベース
・田舎暮らしの本場、南仏プロヴァンス料理をホテルが提供
フランス料理というと宮廷料理を元としたソースでいただく、格式高い高級な料理といったイメージがあるが、日本の1.5倍の国土を持ち農産物の輸出国であるフランスは、地方によって特色ある料理を発達させてきた国でもある。北は大西洋、南は地中海に面しており海の幸が豊富、東にアルプス、西にピレネーと大きな山脈があり山の幸にも事欠かない。
そして、近年は日本でもフランス各地の郷土料理の店の開業が相次いでおり、従来のフレンチとは一味違った、カジュアルで素材を生かしたローカロリーな傾向のメニューを提供し、新風を吹き込んでいる。
新しい風はホテルのダイニングにまで波及しており、2001年開業した東京・渋谷の「セルリアンタワー東急ホテル」40階にあるメインダイニング「クーカーニョ」は、南仏プロヴァンス料理を提供する店である。
「ミシュランガイド東京2008」で星1個を獲得し、日本におけるプロヴァンス料理の代表店と認知されている。
プロヴァンスというと地中海に面した温暖なリゾート地で、フランスの代表的港町マルセイユ、保養地のニース、国際映画祭で有名なカンヌなどの都市があり、セザンヌ、ゴッホ、シャガールら多くの芸術家が魅せられた地域でもある。作家ピーター・メイルの『南仏プロヴァンスの12か月』は、田舎暮らしのバイブルとして読み継がれている。
なぜ、プロヴァンス料理だったのか。
「フランス料理のメインダイニングをつくる計画があったのですが、2001年当時はイタリアンがはやっていた時期でして、南仏のプロヴァンスの料理は、バターたっぷりとかソースで食べるというより、素材を生かすイタリアンと共通する考え方の料理だったので、これにテーマを絞りました。プロヴァンスはオリーブ油、ハーブ、くだものもおいしくて素材が豊富。ヘルシーなイメージがあるので、年配の方にも受け入れられやすい感じがしますね」と、同ホテル広報担当の川島知美さんはレストラン企画の背景を語った。
また、ホテルのメインダイニングといえども、特別な時しか利用できないものではなく、なるべく街場のレストランの値段に近づけて愛用してもらうという意図もあった。
なお店名の“クーカーニョ”とは、現地で話されるプロヴァンス語で桃源郷を意味する。
食事は、朝食、ランチ、ディナーと3つの時間帯で別のメニューが提供される。朝食は「コンチネンタルブレックファースト」(2772円)〜。ランチは4600円、5775円、1万円と3つのコース及び、4100円と5600円のアラカルトから選べるプリフィックスコースがある。
ディナーは1万5000円と1万8000円のコースと、1万円のプリフィックスコースがある。
メニューは随時変わっていくが、ニース風サラダやさまざまな素材を使った肉料理はもちろん、魚介類の料理の充実が目覚しい。ラベンダーなど多彩なハーブの使い方に工夫が見られる。特にプロヴァンス料理を代表する魚介類のスープ「ブイヤベース」は、この店の顔というべきもので、お勧めできるメニューだ。
ドリンクはシャンパン、ワインを中心にそろえている。
内装はホテルのコンセプトである「シンプル・モダン」に沿ったデザインで、周囲に高層ビルがないので夜景はきれいに見渡せる。
顧客は50代くらいの子育てを終えた奥さんにランチが好評で、周囲の南平台、松涛、田園都市線沿線から集まる。同窓会などの需要も多い。ディナーはビジネスミーティング、週末はカップルが中心となり、特に週末は込むそうだ。
また、外国人の比率が高く、ホテルの宿泊客の4割が外国人といった性格から、中でも朝食は外国人が多い。
「ブレッツカフェ クレープリー」のガレット「プロヴァンサル」(1680円)
全文(有料会員専用)の見出し
・ソバ粉でつくったクレープ、ガレットが赤坂サカスでヒット
・地中海シチリア島の人情にほれ込んで、郷土料理の先駆者となる
・“水の都” ヴェネツィアで修業したシェフが食文化の伝道師に
(写真全20点)