・「ふらんす亭」の再生を２つ返事で引き受けた井戸社長

　宿谷氏の役割は若いエムグラントフードサービス（以下「エムグラント」と略）の内部固め。愛知県のメガジー、「カフェ・ド・クリエ」、「ふらんす亭」という組織の出来上がった外食企業で働き、今年４月にエムグラントが「ふらんす亭」の運営受託を引き受けた際に同社に転籍した。「ふらんす亭」では７年間働いた。

「ふらんす亭」は１９７８年に東京・下北沢で松尾満治氏が創業。ステーキやハンバーグを鉄板でじゅーじゅー音を立てて提供するのがウリ。また、薄切り牛肉にレモンソースをかけた「レモンステーキ」も名物。これはエムグラントが今年９月に従来レシピで復活させた。

　ベンチャー・リンクと合弁で１９９９年、株式会社ふらんす亭を設立し、ＦＣ加盟店開発に励んだ。一時は全国に１００店舗以上展開したが、成功は続かず、２００６年に国内ファンド、山田MTSキャピタルに買収され、株式会社フードデザインが運営社となった。さらに、０８年に食肉卸大手のスターゼン株式会社が買収。そして、１０年４月からエムグラントがスターゼンから運営受託を受けた。直営・ＦＣ合わせて９月末現在、６３店。

「『ふらんす亭』は１５坪２４席、駅前の路面で、地下１階か地上２階でも成り立つパッケージで繁盛しました。１９９９年にベンチャー・リンクと合弁し加盟枠をどんどん販売していった。イニシャルで加盟金を貰って会社を回す仕組みです。ところが、２００１年にＢＳＥが発覚した際、既存店の売上が３割くらい一気に落ちました。そして加盟店開発が止まってしまいました。すると資金が回らなくなった。苦肉の策で新業態を開発し、それで加盟店開発をしたりしました。しかし、資産も財務も痛み出した」と宿谷氏。

「また、途中で１５坪という小パッケージから、３０〜４０坪の商業施設への出店に切り替えたんです。『ふらんす亭』は鉄板を調理器具の替わりにして肉を焼く。お客様の席に持って行ってソースをかけると丁度いいという仕組み。それは１５坪だからできた。４０坪だと、お客様の所に持ってくと温度が下がっています。『ふらんす亭』の商品が出せなかった。商業施設だとどうしても初期投資が大きくなり、賃料も１８％と高く、収支が合わずパッケージが崩れて行きました。」

「自力では再生不可能だったので、国内ファンドに入ってもらいました。が、上手くいかず、結果スターゼンに譲渡するに至りました。肉の流通の川上と川下が一緒になるとシナジーが出るという期待です。しかし、スターゼンは上場会社なので、過度に安く供給すると利益相反になりメリットを生まなかった。また、上場企業ということで動きが慎重で、本部固定費も月２５００万円を超えるまで膨れ上がっていた。このままでは難しいと判断しました。」

「元ワタミ専務の江村哲也氏に副社長として入ってもらい再生を考えました。スターゼンの傘下、単独で再生するのは難しい。事業会社同士の提携で持っていこうというということで、『けん』の勢いを見てエムグラントに決めました。当時の『ふらんす亭』の急務は商業施設の３０〜４０坪店の再生。路面は自力再生できます。サラダバーの付加価値を取り入れて、『けん』に業態変更してもらった方がいいだろうと判断し、エムグラントにお願いするしかないと思いました。」

「井戸社長に会うまでは、飲食に相応しくない、不動産上がりで胡散臭い人だろうなと思っていました（笑）。僕も井戸社長から胡散臭いと思われたようですが（笑）。ところが、僕らは２０世紀型の所謂QSC等に拘った経営を踏襲してきましたが、エムグラントは全く新しい切り口で経営を考えていました。僕は勝手に２１世紀型経営と呼んでいますが。正直、井戸がここまで冷静な凄い人間とは思わなかった。９割くらい断られると思って会いましたが、２つ返事でやってくれると言ってくれたんです。これは何がなんでも成功させなきゃいかんと思いましたね。」

・気合と根性から、仕組みへ脱皮させたい

★続く。
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