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“カレーに酢飯”が密かに流行。
猛暑対策の救世主は、「酢」だった!?

2011.6.27
「酢」を使ったメニューといってまず思い浮かぶのは、寿司や酢の物といった和食だ。そのさっぱりとした酸味も、健康的な効果効能も、特に女性の間で注目を集め、ヘルシーな調味料として支持を得ている。そんな日本食文化には欠かせない調味料である「酢」が、最近ではジャンルを超えて、さまざまな料理で使われるようになっているという。特に今夏は猛暑対策のひとつとして、各店が工夫を凝らした「酢飯メニュー」を提案していると聞きつけた。使い勝手のいい万能調味料、「酢」の知られざる可能性を探る。レポートは桜生マリコ。


カレーに酢飯を合わせるという斬新なメニュー。

・酢飯が“福神漬け”代わり!?

 私たちの食卓に欠かすことのできない「酢」。その歴史は紀元前にまで遡り、「塩」と並んで最も古い調味料とされている。どんな酒でも発酵させると酢になるといわれ、世界中の料理に活躍しているが、日本では「穀物酢」や「米酢」がポピュラーな存在として親しまれている。アミノ酸を多く含み、コクがある調味料。そのため寿司や酢の物、らっきょうやピクルス漬けなど、昔から和食文化には欠かせない逸品であったことは確かだ。昨今では、内臓脂肪の減少やカルシウムの吸収を促進する効果があると特に女性の間では人気の調味料として認められている。そんな「酢」の女性ウケのよさに着目する店も少なくない。


オープンテラスが目印。「ダブルトールカフェ渋谷店」の外観。


「ダブルトールカフェ渋谷店」のおしゃれな内装。

 渋谷からほど近い「ダブルトールカフェ渋谷店(渋谷区渋谷三丁目)」(運営:有限会社エス・エス・アンド・ダブリュー)は、明治通りから一歩裏手に入ったところにある隠れ家的なカフェだ。オープンテラスで開放感があり、駅から徒歩5分もかからないのに、その喧騒を感じさせない落ち着いた雰囲気が魅力。自家焙煎したての香り高い、本格的なコーヒーが飲めるのも嬉しい。ランチとディナーの合間も休みもなく営業していることもあり、近くに勤めるサラリーマンで終日混み合っている人気店だ。テラスのある1階も心地よいが、大きな窓から陽射しがさんさんと入る2階も明るく、気持ちがいい。客層は6割が女性、4割が男性といったところだ。


キャベツの漬物、ザワークラウトを添えた「茄子のキーマカレー 〜ビネガーライス〜(980円)」。

 そんなおしゃれなカフェを切り盛りするチーフテクニカルアドバイザー、北島恵さんは、女性向けのヘルシーな夏メニューを考案しようと、「ビネガーライスのキーマカレー」を思いついたという。「酢は、酸味と甘みを兼ね備えているのが特徴。実は私たちが作るトマトベースのカレーにも酸味と甘みが隠れていて、酢と同じような味わいがあるため、ビネガーライスとカレーの相性は抜群でした。ビネガーライスは福神漬けやピクルスのような存在で、味を飽きさせない役割があります」。夜の限定メニューとして登場して以降、やはり女性客のオーダーが多いそう。「オーダーは女性が大半。まだ始めて2週間ですが、一夜に2〜3食は必ず出ますね」。特に米酢は、酢のなかでもまろやか。トマトベースのカレーとの酸味具合がちょうどよく、“飽きない味”のポイントになっているようだ。


北島さんと共にメニューを考案した、笑顔の素敵な長井さん。

 「ビネガーライスのキーマカレー」を考案して以来、北島さん自身専ら「酢」にハマっていると語る。「カレーのメニューは8月末までの予定ですが、ビネガーライスにレモン汁やハーブを加えて、他のメニューにも応用できないか考えるようになりました。本当に加え甲斐がある調味料だと思います(笑)」。

■「ダブルトールカフェ渋谷店」
渋谷区渋谷3-12-24渋谷イーストサイド2階
電話:03-5467-4567
http://www.doubletall.com/




アメリカンな雰囲気漂う、「フィールズ」の内観。

・健康意識の高い人ほど注目する

 同じく渋谷の「フィールズ(渋谷区桜丘町)」(運営:フィールズ)は、外国産の瓶ビールが数多く揃い、アメリカンテイストなカジュアルな雰囲気を味わえる。ふらりと立ち寄ることができる、とにかく気取らずに訪れることができる居心地のよさが魅力のスポーツバーだ。スポーツ好きだけでなく、常連が多いのが頷ける。


至る所にサッカーのポスターが貼られている。

 スポーツバーとあって、健康意識の高い人が客層に多いと話すのは、店長である田中守氏。自身も長年やっているランニングに加え、3〜4年前からトライアスロンをしているという。「スポーツをしていて、自身の記録を伸ばしたいという人もいるが、健康の場として走る人が多い。トライアスロンでもレースの3日前から食生活を整え、当日の体の状態をベストになるようにもっていきます」というこだわりよう。食と健康に対する意識の高さが伺える。客層には、彼と同じ趣味をもつ人をはじめ、大勢のスポーツ好きが集まる。やはり積極的に「酢」を摂ろうと心がけている人が多いという。


カツまでのった「フィールズの酢飯カレー(780円)」が男性に好評。


店長の田中氏は料理もすべて手がけている。

 そんな健康意識の高い客に囲まれ、田中氏が思いついたのが、「フィールズの酢飯カレー」だ。もともと「酢」を使ったメニューに「ゆで卵のピクルス」や「プチトマト、ホワイトアスパラ、ゆで卵のピクルス盛り合わせ」があり、3年ほど前から不動の人気を誇っていた。そこに目をつけた。酢に3日間つけ込み、しっかりと酸味が染み込んだゆで卵のピクルスを酢飯の上にのせ、ダブルで酸味を楽しめるメニューが誕生したのだ。口当たりはさっぱり、後からじわじわとカレーの辛味が感じられる。酸味と辛味が絶妙なバランスで交互に襲ってくる、クセになる味わいだ。ボリューム満点のカツも入っているため、男性客からのオーダーが目立っているという。


もともと人気を博していた「ゆで卵のピクルス」をオン。

 ゆで卵やプチトマトなどの人気のピクルスは、米酢の他に白ワイン、ハチミツ、タイム、ローズマリーで3日間じっくりつけ込んだもの。ほんのりベージュ色に染まったゆで卵はしっかりと酸味が効いていて、酢飯の美味しさをきちんと引き立てている。今はランチのみのメニューだが、夜は客側のリクエストで作ることもあるそうだ。

■「フィールズ」
渋谷区桜丘町15-19第8東都ビル2階
電話:03-3496-8844
http://www.e-fields.jp/




女性好みのおしゃれなインテリア。背の高いスツールでバルスタイルに。



・東南アジアの料理にもベストマッチ

 昨年オープンしたばかりのスペインバル「一の屋・人形町バル(中央区日本橋人形町)」(運営:有限会社一の屋)では、グリーンカレーにビネガーライスを合わせているという。同店の店長兼料理長である宗像亜夫氏は、懐石料理の板前として10年間修行を積んできたという幅広い経験をもつ。おしゃれなインテリア、立ち寄りやすいバルスタイルで、仕事帰りの女性客も多い。日本酒ベースのサングリアやワインをロックで飲むなど、猛暑対策や女性客を意識したメニューがずらり。斬新な切り口で次々と新メニューを考案している宗像氏が、今回食欲の落ちる夏に向けて、さっぱりと食べられるものを、と考えたのが「夏野菜のグリーンカレー&びねがーライス」だった。


自家製のオリジナルサングリアのメニューも。


サラダのような見た目の「夏野菜のグリーンカレー&びねがーライス(860円)」

 長年携わってきた和食での「酢」の扱いと、スペインや東南アジアでの「酢」の扱いが異なるため、当初は戸惑うことも多かったと話すのは調理長の宗像氏。「もともと米酢は和食の調味料。だからこそ、ひと工夫が必要でした。そこで頼ったのが、オリーブオイルです」。和と洋の調味料を合わせることで、より深い味わいが生まれる。「いざ酢飯を合わせてみると、グリーンカレーがマイルドになって食べやすくなりました。しかもカレーに負けずに、酢飯がいい具合に共存できている。驚きでした」。和食ではメインの調味料だったものが、別の料理では抜群の隠し味として生きると実感。ここスペインバルでも、「酢」は爽やかさを出したい夏メニューには欠かせない存在となった。


懐石料理の板前からスペインバルのシェフへ。異色の転身を遂げた料理長、宗像氏。


晴れた日はオープンエアで開放的な雰囲気に。

 夏野菜はたっぷり入り、さらにサラダ仕立てで涼しげに。そんな清涼感を意識して「夏野菜のグリーンカレー&びねがーライス」は仕上がった。作り方はまず、青唐辛子がベースのルウをココナッツミルクで伸ばし、ナンプラーを加える。そこにハチミツを隠し味としてプラス。野菜は旬の素材をメインにトマトやきゅうりなどを加え、最後に鶏肉もトッピング。通常グリーンカレーに入っている筍は除き、よりさっぱりした仕上がりを意識したそう。さらにビネガーライスには、オリーブオイルとフライドオニオンを絡ませたところ、絶妙な味わいに。サラダ感覚で食べられるカレーというだけでなく、サクサクっとした食感を楽しめるようになった。「味と食感で涼しさを表現できればと思いました」。その風味と食感は、女性客を中心に好評。夜、飲んだ後の締めにオーダーする人が多いという。

 すべての店舗において共通していたことは、料理に「酢」を加えることで、油っぽい料理がさっぱりとした味わいに仕上がるだけではなく、もともと食材がもっている旨味を最大限に引き出されているということだ。「酢」という調味料の酸味を通じて、野菜の甘みやスパイスの辛みが際立ち、さらに料理全体の味わいはマイルド、且つ味わい深いものになっている。そして、暑い日の食欲不振も忘れるほど、食が進むのだ。節電など、本格的な猛暑が懸念される今夏。美味しい毎日を過ごすためには、どうやら「酢飯」が大きな要になりそうだ。

■「一の屋・人形町バル」
中央区日本橋人形町1-2-7 人形町サンシティビル1階
電話:03-6231-1616
http://www.ichinoya.net/

【取材・執筆】 桜生 マリコ(さき まりこ) 2011年6月22日執筆

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