・近所付き合いを大切に、リカーライセンス取得にも
「契約ができ、資金があっても、アルコールライセンスの取得が大変です。住民の反対に会います。地域コミュニティーのボードミーティングが毎週各地で開催されています。そこに行って、こういう会社でこういうレストランをやると申請します。オーナーが説明し、コミュニティーでまずOKをもらって、リカーライセンスのエージェンシーに行く。申請した通りの内装が出来てるのかチェックされます。例えば、トイレの数や席数も正確にチェックされます。住民の反対で諦めたこともあります。これを不動産契約後にやるのでリスクが大きい。」
「リカーライセンスだけでなく、ゴミや騒音の問題もコミュニティーで議論されます。ローワーイーストサイド、トライベッカなど地域毎にボードミーティングがあります。皆さん、ボランティア。地域住民は真面目なんで、にらまれたら営業できません。営業中でも近所付き合いが大事。住民は自分たちの住んでいるところを荒らされたくない。イーストビレッジで、日本食やはもう要らない、ノーモアジャパニーズレストランの運動をされたこともあります。」
「代行してくれる会社もありますが、オーナーはちゃんとボードミーティングに出て説明した方がいいです。しゃべらなくても立ってるだけでもOKです。米国は1920年代の禁酒法の名残で、お酒に対して厳しい。オーナーは指紋、犯罪歴、自分の口座預金などチェックされます。共同オーナーなら両方チェックされます。脱税もダメです。」
リカーライセンスは、ワインとビールの“ライトリカー”と、ウイスキーや焼酎の“ハードリカー”の2種。ハードリカーのライセンスを取得するのは難しい。
「今はライトリカーだけで営業する人が多い。内装も異なります。ハードリカーはトイレが2つ必要。これから作る新店の場合は、車椅子用のトイレも付けなきゃいけない。でないと、車椅子関係の団体が役所に訴える。隣人や車椅子を大事にしないといけません。条件を満たす物件なんかないので知恵を出します。大きな店舗だと逃げられず不可能。」
「過去の店を名前だけ変えて、ごまかしたりします。前の店がライセンスを持っていれば、 延長でやりきる。そして、後で名義変更します。まさに居抜きです。その場合は、造作やリカーライセンス代が必要になります。でも、新規と比べて、どちらが得なんでしょうか?借りたけど和食に向かないので、改装費用がさらに4千万円かかった場合もありました。またスケルトンの物件を借り、4千万円投資した方がいい店ができる場合もあり、駆け引きです。立地が良いので、造作代を払ってもよい場合もある。」
今回の取材で感じるのは、小規模な店でもニューヨークで十分に成功させることが可能ということ。日本に流れて来るのは「NOBU」「MEGU」「田舎家」など派手な大型店の情報ばかり。麦の穂、ウエストなどの活躍は知られていない。また、「HAKATA TONTON」や、東京・西麻布からニューヨークに出店した「BOHEMIAN」のような小企業がニューヨークに根を広げている。彼らの店は派手ではない、投資も小さい。法律や慣習は異なるが、日本と同じ感覚で出店し、お客に合わせて業態転換をしながら永く営業を続けている。日本のフツーの店で、フツーのやり方で、気負わず出店することが成功の秘訣のようだ。
炉端焼き「田舎家」。WDIが2009年2月に出店。約90坪もある。
繁盛する「一風堂」。
「うどんWEST」のかき揚げ丼。サプライズな演出も必要だ。
付け加えると、日本のビール会社は米国に進出し、日本料理店をサポートしてくれる。但し、協賛金を期待してはいけない。日本と同じように協賛金を支払うことは独占禁止法に抵触する。提供される見本やPOPの数にも制限が設けられている。
サッポロUSAの臼井勝彦氏。サッポロビールは25年前から米国に事務所を設け、現在は日本のビールの中でシェア51%を持っている。