・主催は街づくりを考える「森ビル株式会社」
アーク・カラヤン広場(東京・溜池)の周りには、大使館やANAインターコンチネンタルホテルなどがあり、ここは国際色豊かなエリア。オフィスビルとしてはアーク森ビルや泉ガーデンタワーが並び、飲食店などは比較的少ない。同広場は広々とした屋外スペースで、それに面してレストランとテラス席が並んでいる。平日のランチ時にはオフィスビルからの会社員が多く、午後には子供連れバギーをひくママ達のグループがお茶をしたりする風景がよく見られる場所。ここで週に一度マルシェ・ジャポンが開催されるようになってから5ヶ月が経った。
このマルシェは「森ビル株式会社」が主催している。単に建造物の運営・管理ではなく街づくりや街に根付くコミュニティ作りに力を入れている同社、六本木ヒルズでは「田んぼプロジェクト」を進め、それにより住人や就業者が集まり新しいコミュニティがうまれたという事例もある。しかし、このアークヒルズ周辺では住人が最近多くなってきた割には、なかなか人が集って近所づきあいを持つ場が少ないままであった。「もっと楽しく住める場所」としての取り組みの実現に、マルシェの開催が一役を担う。回を追うごとにマルシェに集まる近隣住人は増えてきているという。
マルシェの風景。
・アークヒルズのマルシェに集まる人
バレンタインを明日に控えた2月13日のマルシェ、東京は雨のちらつく気温1.8度という寒さだ。10時のマルシェ開店時には人もまばらではあったが、11時頃にはどこからともなく人が増えその交流によるあたたかな雰囲気がつくられていった。土日は外国人の家族連れやペットの散歩の人が多くみられる。利用者の中には一週間分の野菜をここで買う人も。「野菜を食べる量が、すごく増えて健康的な感じが自分でもします」「つい買いすぎてしまう」「毎週、土曜日が楽しみになった」という声が多く聞かれた。外国人が多い為、頑張って英語表記のディスプレイを作る生産者もでてきた。そういった心遣いが利用者の再来店を誘う。
また一般消費者だけでなく、一流の飲食店が集まる東京の中心部ともあって、レストランのシェフ達の買い出しも増えている。希少性のある野菜を、少しずつ必要な量だけ、都心のど真ん中で産地に行かずとも手にとって購入できるのは大変なメリット。仕入れ目的だけでなく、勉強を兼ねて歩く料理人も多い。「生産者から直接聞く話は毎日素材を扱い付加価値をつけてお客様に提供する仕事の我々にとって、とても貴重です。伺うお話そのものが、レストランにいらっしゃるお客様を喜ばせることのできるちょっとしたエピソードだったりするからです」。
英語表記札と並ぶ野菜。
・ペット連れの多い会場に合わせたブース
犬を連れた人が多く歩いているのが目に付くのもこの土地ならでは。そのニーズに合わせた出店が、ペット犬専用のデリの店「キッチンドッグ!」。保存料や添加物を一切つかわず季節の食材で健康的なワンちゃん用の料理を提供。種類も豊富で、中でもマルシェの野菜を使ったワンちゃん用スープは一番人気。この日はバレンタイン前日で、ワンちゃん用のバレンタインの焼き菓子などが中心に並べられていた。
ペット犬専用のデリの店「キッチンドッグ!」
「キッチンドッグ!」外観。
・農家のこせがれネットワーク
これからの農業標準をつくるというコンセプトで若手就農者のネットワークとなっているNPO法人「農家のこせがれネットワーク」は「チャレンジファーマーブース」と題したブースエリアを設け参加している。金入有紀子さんは「こせがれネットワーク」事務局、マルシェのスタート時に若手就農者への直接声掛け参加を募った。マルシェ開催中はスタッフの一人として、各ブースを立ち回り気を配って全体を盛り上げる。スタートした5ヶ月前に比べ今では「出店したい」という希望を就農者の方から多く受けるようにもなった。本当にいいものを本来の価格で販売できる点は、若手就農者のモチベーションにつながっているという。
「農家のこせがれネットワーク」のひとり山内生子さんは、大阪出身。単身で昨年1月に茨城で独立した新規就農者。元々はネイリストやOLの経験があり、その頃の休日の農業体験参加などから農業に触れ「仕事としての農業」の魅力に惹きつけられたという。直接お客様に触れるこのマルシェでは、本人いわく最初は上手にお客様と会話が出来なかったと言う。しかし通るおひとり様ずつに気さくに声をかけて気を配る様子は、女性ならではのやわらかさと、都心で接客業にも携わってきたという経験が下支えになっていることは見てとれる。山内さんの「いくこの畑」ブースには、今は必ず立ち寄る常連客もいるほどの人気。
山内生子さんのブース。
接客する山内生子さん。
同じく「森のいちご」さん。香川県から新鮮ないちごを運ぶ。一番美味しいタイミングでお客様に一粒ずつ味わってもらいたい、と市場には出荷を今もしていない。代表の本田龍氏はその気さくな人柄でも人気をあつめる大阪からの新規就農者。まだまだ夢の一歩と謙虚ながら「いちご一会」という企業コンセプトのもと、今日も店頭でお客様との会話が絶えない。
森のいちごの本田龍社長(中央赤いジャケット)。
・近隣店舗もマルシェに飛び出す
カラヤン広場に面する既存のレストランは、パリの雰囲気を再現した「AUX BACCHANALES(オーバカナル)」や中華の「トゥーランドット
游仙境」など。どの店も開放的なテラス席を設けている。それらの店がマルシェの開催日にはレストランを飛び出してマルシェに参加。ここでは店内とは違ったまた新しいコミュニケーションが生まれるようだ。お客様が店のスタッフと顔なじみに自然になれるのもマルシェならでは。それにより通常営業への来店も増えているという。オーバカナルのブースではあったかいスープやパンを提供し、パンのカットも通常より小さめで食べ易く、価格も下げている。
「AUX BACCHANALES(オーバカナル)」のブース。
「トゥーランドット」はあったかいお粥でマルシェに参加。
イタリアンレストランの「Plates(プレーツ)」ではマルシェで買った野菜をそのままお店に持ち込み、オリジナルのパスタやピッツアに調理してもらうことができる。
「Plates」では野菜を持ち込み調理してもらえる。
他にも六本木ヒルズからトリュフ専門店「Terres de Truffes,Tokyo」の黒トリュフをチョコレートの中に混ぜ込み金箔をつけたひと粒3,000円のチョコレートもバレンタインにちなんで登場。季節ならではの特別出店の企画だが、3,000円のチョコレートが売れるというのも都市型マルシェならではかもしれない。
一粒3,000円のチョコレート。
・マルシェライブも国際色豊か
「マルシェライブ」は広場の真ん中で催され、癒しの音楽やダンスが週代わりで披露される企画。この日はペルー出身の2人グループ「マルカマシス」による南米フォルクローレ音楽のライブ。異国情緒あふれる音楽に引き寄せられるように子供達をはじめ人々がまた集まる。
都会の中心でビルに囲まれた「マルシェ」は、寒さに負けず人々の会話と触れ合う熱気で午後に入り、よりいっそう盛り上がりをみせていった。
マルシェライブの様子。