フードリンクレポート


有名店では率先してロース表示を変える動きも始まる。
〜混迷するロース表示問題。正しいのは消費者庁か焼肉業界か?〜(4−3)

2010.11.26
消費者庁は10月7日、焼肉店の業界団体である事業協同組合全国焼肉協会(東京都北区王子2丁目)に対して、ロース以外の部位を使った料理に「ロース」と表示するのは景品表示法違反の不当表示にあたるとして、表示を適正化するよう指導に入った。しかし、霜降り肉を「カルビ」、赤身肉を「ロース」と記するのは焼肉業界のしきたりであるとして、焼肉業界の反発は強い。果たして焼肉店はもも肉を「ロース」と表示し続けることができるのか。レポートした。4回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


「安楽亭」はメニュー名を変えることを日本フードサービス協会と協議している。

有名店では率先してロース表示を変える動きも始まる

 有名店、大手チェーンは「ロース」表示問題に、どう対処しているだろうか。

 全国焼肉協会加盟の全国約500社、約1400店に消費者庁は改善要請を行ったが、業界の代表という意味で、非加盟のアウトサイダーも含めての指導と考えるべきだろう。

 なので加盟店であるかどうかを問わず、幾つかの焼肉店にリサーチを行った。

 最初からロース部位を「ロース」として出しているから問題ないと答えたのは、焼肉料理発祥の店と言われる大阪の雄、「食堂園」。「ずっと昔からロースにはサーロイン、肩ロース、リブロースとロース部位を使っています。カルビもカルビの部位です。和牛についてもA5からA3の肉を使っています」。


食堂園 宗右衛門町本店。

 やはりロース部位を「ロース」として出しているので、表示を正すのはむしろ歓迎と積極的な肯定派なのは、大阪の「大同門」。「焼肉定食」の生みの親でもある。「弊社ではほとんどまじめ過ぎるほどまじめにやっていますから、もも肉をロースで出したりはしません。ほんの一部、腕に近い部分のミスジはロースと食感が似ているので、消費者の利益を考えて混ぜています。ロースはロース、カルビはカルビで、できるだけ正しい部位を出すべきですが、日本とアメリカとオーストラリアで、肉の切り方と部位が違う面がありますから業界でガイドラインをつくらないといけないと思います」。


大同門 江坂店。

 日本は多くの牛肉を輸入に頼っているが、海外の部位名と正確に一致しているわけではない。牛肉や豚肉の小売品質基準はあるが、外食はJAS法の適用外とはいえ、可能な限り一致させたほうが消費者の誤解を招かなくて良いということだろうか。

「牛角」チェーンを展開しているレインズインターナショナルでも、「元々ロースは肩ロースの部分を使っていますから、改善する必要はない」とのことだった。

「炭火焼肉トラジ」を展開するトラジでは、「ロースというメニューそのものがない」という。確かに店によって「ザブトンロース」などを出すところもあるが、「ロース」、「上ロース」のような表示は行っていない。肩ロース下部の霜降りが入った部分を「ザブトンロース」として出しているのであろう。


炭火焼肉トラジ アリオ橋本店。

 検討中と答えたのは、「安楽亭」。「弊社は全国焼肉協会に入ってはいないが、業界全体への指導と受け止めている。弊社でも業界の慣行どおり、赤身の肉をももを含めてロースと表示してきたが、メニュー名を変えることを日本フードサービス協会と協議している」。

 もう表示を変えたのが、とろける「ロース」を売り物にした「東京苑大塚本店」。「もも肉を使っていた10秒ロースは、焼くという意味のローストに変え、10秒ローストとメニュー名を変更しました。リブロースを使っていた3秒ロースは従来まま行かせていただいています」。


東京苑 10秒ロース改め10秒ロースト。

 つまり「東京苑」ではもも肉メニューの「ロース」表示を、「ロースト」とユーモアのある変え方をしている。顧客は気づかない人も多いが、なぜ「ロースト」になっているのか質問を受けた場合には、きっちり理由を説明することにしているそうだ。それで売り上げに影響が出ているということはないと、キッパリ言い切った。

 番外編として、「ザガット・サーベイ 東京版」で東京一の美味の焼肉店と評価された足立区鹿浜の「スタミナ苑」では、「全国焼肉協会という名は始めて聞いた。ウチは関係ないから」とのことで、同店で提供している中ロース、上ロース、特選上ロースがそれぞれどの部位を指すのかは聞かせてもらえなかった。


スタミナ苑。

 その他、何度電話をかけても関係者不在、あるいは折り返しの連絡が来ない有名店が幾つもあり、「ロース」表示問題が焼肉業界にとっていかに非常に答えにくい質問であるかがわかる。

 しかしタブー視していても、「ロース」のメニュー表示を改めなければ、来年3月以降消費者庁は景品表示法違反で処分を行うので、「俺は知らん」では通らなくなる。焼肉店の中にも消費者庁の側に立つ店もあって、一枚岩ではないが、少なくとも全国焼肉協会加盟店では意思統一してもらわないと、長年培ってきた「ロース」=赤身肉の慣行が優良誤認でこのまま処分されてしまうであろう。

 業者の中には、「ロース」表示よりも根深い問題が焼肉業界にはあると指摘する声もある。ハラミ(横隔膜あたりの肉)の表示でツラミ(頬肉)を売ったり、関東の店に多いカルビの名でハラミを売る店があったり、国産牛を和牛と称して売ったりといったことが、焼肉店では横行している。

 ハラミ、カルビ、和牛は、焼肉のメニューとして、一般に「ロース」よりもよほど売りになる言葉である。だからもっと厳正に表示するべきだというのだ。

 和牛に関しては「食肉の表示に関する公正競争規約」により、黒毛和種、褐毛和種、日本短角種、無角和種とそれらの交雑種、それらの交雑種同士の交配のみが、和牛と定められている。日本で生まれ育った牛でも、それ以外は国産牛ではあっても和牛ではない。

 また、牛の一頭買いにも問題があるという。一般に関東でモツ、関西でホルモンと称される内臓肉は畜産副生物のルートで流通するので、食肉とはルートが違うのだ。一頭の牛の赤身肉や霜降り肉と内臓肉をどのようにして照合しているのか、身に付いている肉と内臓で個体が別々になっているケースも多々あるとの指摘もある。

 今回、問題視されているのは「ロース」表示のみであるが、焼肉業界が消費者の知らないところで、さまざまな実態よりも良く見せる行為を行っているのも事実のようで、同じ業界内でもそれでいいのかと批判的に見る勢力もかなり大きいのである。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ)  2010年11月23日執筆