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フードリンクレポート


「ハイボールブーム」×「洋メニュー」 和風居酒屋でみられる新しい仕掛け?!

2009.12.14
ハイボールの人気は変わらず右肩上がり。その中で「和居酒屋での洋メニュー」、「洋メニューによって日本酒や焼酎ではなくハイボール」「ハイボールがあるから洋メニューも売り込みやすい」といったトライアングルが見えてくる。それぞれが引き立て合い、何よりお客様にとっては新しさと選べる楽しさを広げている。


「塚田農場 赤羽店」じとっこの秘味噌ピザ 580円。

魚串業態で、デミグラスソースの串を発見

魚串専門店の「さくらさく 神楽坂店」、炭火焼の魚串が30種ほど150円からとりそろえる日本初の魚串業態である。今年神楽坂、人形町と続けてオープンさせ業界でも話題となっている。


「さくらさく神楽坂店」外観。

 いつものように入店するとハイボールとあわせた差込メニューが目に付いた。「デミグラスボール串(1串210円)」。この店にカタカナ文字の串メニューがあることも驚きだが、それが「デミグラスボール」という訳だから余計にどんなものか興味が沸く。デミグラスはハンバーグなどにかけられるソースだろうし、ボール型になるのかとネーミングだけでもそそられる一品。

 注文してみるとまん丸のボールが、串ものというよりも、ピンチョイススタイルで登場。ニョッキ生地に包まれた熱々のデミグラスボールだ。揚げたジャガ芋(つまりフライドポテトのことだが)は小さい頃から皆が馴染みのある美味しいものだし、そこにデミグラスソースを射込めば、お子様ランチにありそうな分かり易くて子供から大人まで好きな味に仕上がるわけだ。

「魚串」という業態で予想外のメニューと出会い、またコロッケに代表される洋風の揚げ物は、あればいつでも熱々で美味しく食べられるものだとあらためて実感した。他に注文されているお客様に動機を聞いてみると「デミグラスボール串も串ものの一つだし面白い」「食べてみたい」「お腹が空いていたので、他の串ものよりも注文したくなった」などの声が聞かれた。

 他にも「肉味噌トマトパスタ」が差込みメニューとして並ぶ。「肉味噌とおくらの冷やしうどん」は同店の夏メニューで人気があったもので、その冬版らしい。八丁味噌をベースに使うところは同じで、今回はトマトソースとあえて最後はうどんではなくパスタに出来上がりのソースをかけた。味噌を使うことでしっかりと「和」をベースに残しながら、この店の〆にトマトスパゲティーを味わえるとは、意外でもあり新しい満足感を与えてくれた。


デミグラスボール串 210円。


肉味噌トマトパスタ 680円。

「魚串 さくらさく」
東京都新宿区神楽坂6-8
電話:03-5206-8547
経営母体:株式会社アントレスト


やきとんが看板メニューのひとつ「三丁目の勇太」

 同じく串焼きが看板メニューのひとつとなっている、今年6月オープンの新宿三丁目「三丁目の勇太」。この店でも角ハイボールを取り扱い、最初の一杯からハイボールというお客様も多いほど、ドリンクではビールと肩を並べてでているという。そんな角ハイボールも常時10種類をそろえ、スタンダードなザ・角ハイ399円から愛のハイボール(トマトとタバスコ)499円・‘活気’ハイボール599円とバリエーションも豊富だ。

 串焼きメニューの中に「牛ヒレ肉」の用意がもともとあるが、差し込みメニューとなっていたのはこの牛ヒレ肉に赤ワインソースを絡めながら焼いた「牛ヒレ赤ワイン串(200円)」。通常は塩をふってシンプルに焼くが、赤ワインソースをプラスオンすることで簡単なオペレーションでありながら味の幅を広げた。少し「洋」のテイストがはいるだけでより「ハイボールがすすむ」という声もあったという。

「チーズおでん」も面白い。普通に和風の出汁でつくったおでんに、フォンド・ブッフを加えチーズソース(クラシコ 4チーズアルフレッド)を最後に降りいれ仕上げたメニュー。フォンド・ブッフは「ビーフシチュー」や「牛の赤ワイン煮」などに使われる洋風の牛からとった出汁で西洋料理の基本スープのひとつだ。これをおでんのアレンジに使った意外性のある「洋メニュー」。注文したお客様からは「シチューのようで、美味しくあたたまった」と好評価。


「三丁目の勇太」外観。


牛ヒレ赤ワイン串 200円。


チーズおでん盛り 680円。

「三丁目の勇太」
東京都新宿区新宿3-6-11 第一玉屋ビル1F
電話:03-3225-3801
経営母体:株式会社ゴールデンマジック(「株式会社ダイヤモンドダイニング」グループ)


漁師居酒屋でも「洋メニュー」はそそる?

 漁師・漁港から直送をキーワードに鮮魚を幅広くそして安く提供するコンセプトの「あぶらぼうず 六本木店」。外観からも港や漁師を強くイメージさせるファザード。同店でもこの秋「紅ズワイガニクリームコロッケ(680円)」「魚屋が作る煮込みハンバーグ(1,280円)」が人気を集めた。当然のように魚の刺身を最初のお目当てに入店されるお客様が多い店で、洋風の新メニューは初のトライアルだ。紅ズワイガニクリームコロッケを注文した人からは「魚をウリにしている店で洋風なものを出すのは意外性があって良い」という声。

 お店自体が鮮魚をウリにしていて、飲み物のオーダーも焼酎や日本酒がよくでる同店だが、このコロッケが登場したことにより「脂っこさを角ハイボールですっきり流せる」と通常よりも角ハイボールのオーダーは確実に増えたという。ハイボールとセットでコロッケをつまみ、もっとお腹の空いている人は同じく洋風の新メニューで出していた「魚屋が作る煮込みハンバーグ(1280円)」を迷わずご飯とセットで注文。〆メニューは元々「かにチャーハン」や「海鮮焼きそば」があるが、それと並んでオーダーが入る様子をみていると「こういったスタイルも新しくアリなのかな」とお店側も新しい可能性を感じたようだ。


紅ズワイガニクリームコロッケ 680円。


魚屋が作る煮込みハンバーグ 1280円。

「あぶらぼうず 六本木店」
東京都港区六本木5-9-22 シェアービル1F
電話:03-6698-3523
経営母体: ヘンリーブロス コーポレーション


塚田農場 赤羽店「味噌ピザ」

 店名からもしっかり「和」をイメージさせ、かつスーパー看板メニュー「じどっこの炭火焼」を引っさげるAPカンパニー「塚田農場(赤羽店)」。秘伝のオリジナル自家製味噌で生キャベツときゅうりをいただくお通しも、言わずと知れたここの定番。

 このオリジナル味噌を使った分かり易く且つ新しさの感じられる「じどっこ秘味噌ピザ」が登場。ハイボールとの組み合わせを書き込んだ差込みメニュー表も目を引き、促されるようにハイボールとあわせて注文してみた。「トマトソースと当店の自家製味噌は意外とぴったり合うんです」とスタッフからもオススメの一言。ピザ生地に味噌とトマトソースをぬり、チーズを散らしてトースターで焼き上げるだけの簡単なものだが、やはり自信の味噌があることでこの店だから味わえるテイストに仕上がっている。強力な看板メニューの中で、味噌ピザがよく出ていたのは、カラーの写真付きメニュー表がしっかり役割を果たしたともいえる。


じとっこの秘味噌ピザ 580円

「塚田農場 赤羽店」
東京都北区赤羽1-8-4 B1
電話:03-5939-4577
経営母体:株式会社APカンパニー


季節の牡蠣をつかったホワイトソースたっぷりのグラタン

「駒八 本店」でも角ハイボールと合わせたっぷりのホワイトソースがチーズととろけるグラタン焼きが提供されていた。店名からも入店時のモチベーションは「和」。洋食店では定番かもしれない「冬の牡蠣」と「ホワイトソース」の組み合わせだが同店の常連客にとってはやはり目新しい。「色々選べることは嬉しいし、料理写真が美味しそうだったから、美味しければ嬉しい、選べれば楽しい」それで思わずオーダーしたという人や「ハイボールが好きで、ハイボールに合いそう」というハイボール側から動機喚起された声もあった。

 併せて登場していたのは日本人の大好きな「カレー」テイストを取り入れた「牛スジのカレー煮(580円)」。冬の寒い日に、よりあったまるイメージが沸き注文したと人や、カレー味がこの店にあるという期待がそもそもなかったので目に付いて注文したという人も。食べてみると牛スジとカレーの組み合わせには新しさを感じ、でもやはりカレーテイストには馴染みがあり親しみ易いとその相乗効果で評判は上々。


角ハイボールとのセットをオススメしたメニュー表。


「駒八本店」外観。

「駒八 本店」
東京都港区芝5-16-1 橋本ビル1F
電話:03-3453-2530
経営母体:株式会社駒八


新しい市場の可能性

 今回のお店は全てが「和」の居酒屋でありそれぞれが新しい試みで行っていた試験的要素を含んだものであった。そこでの「洋」テイストはどれも、入店時には期待がなく、写真付きのメニューを通して「新しさ」を感じ、「美味しそう」「食べたい」という欲求を喚起させられる。そして結局注文という、まさにメニューブックの仕掛けにはまったとも言える。居酒屋に来る常連客が皆「和」のモチベーションであったとしても、定番の洋食テイストには懐かしさを感じ基本は「大好きな味」で受入れられ易いということもあらためて分かった。更にその日に食べた料理の中で結果的に「和」の店であったからこそ「洋」のメニューが「最も印象に残る」という効果も自身の体感を含めてあった。

 ハイボールの人気は変わらず右肩上がり。その中で「和居酒屋での洋メニュー」、「洋メニューによって日本酒や焼酎ではなくハイボール」「ハイボールがあるから洋メニューも売り込みやすい」といったトライアングルが見えてくる。それぞれが引き立て合い、何よりお客様にとっては新しさと選べる楽しさを広げている。洋食用の本格的なソースや出汁(フォン)も今の時代はバラエティー豊かに各メーカーから提供されていることも再度注目したい。和居酒屋でも、手間をかけずアイデア一つで商品化できる訳だ。
角ハイボールは「角」のウィスキーとしてイメージを一新させ、カジュアル感を訴求しターゲット層を広げ市場に受入れられた。今後更にフードとの新たなコラボレートで広がりを見せていくことを期待し、楽しみにしたい。


【取材・執筆】 国井 直子(くにい なおこ) 2009年12月8日執筆


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