・ニッチで3年以内にトップに立てる業態を熟考
鈴木社長は1974年生まれの36歳。経歴をたどると「ふとんのマルハチ」丸八真綿で営業マンをした後、「中古車のガリバー」ガリバーインターナショナルに入社。
在籍していた10年のうちに店長、スーパーバイザー、部長と順調に昇進。IPOを経験し、東証1部上場にまで一気に駆け上って行く過程と共にあった。
そしてキャピタルゲインを得たのが、起業の後ろ盾となった。
「小さな中古車屋であったガリバーがこんなにも急成長できたのは、ニッチな市場でナンバーワンのシェアを取れたからです。メイドはアキバの文化として海外でもジャパンクールと呼ばれるほど人気が高い。独立した時に、この業態ならと思ったのです」と鈴木氏は、3年以内にニッチ市場でトップに立てるビジネスを熟慮した結果、メイド喫茶にたどり着いたと強調する。
ガリバーはベンチャー・リンクと提携しFCで急速に店舗を増やして上場したわけだが、レインズインターナショナル(現レックス・ホールディングス)がやはりベンチャー・リンクと提携して急成長を遂げたのを見て、飲食業で回転率を高めると非常に魅力あるビジネスになると感じていた。そこもヒントになった。
もちろん、ただニッチなだけでは成長性はない。今でこそ中古車の買取は当たり前になったが、つい十数年前まではエンドユーザーが中古車屋から車を買うことはあっても、マイカーを売りに行く場所ではなかった。買い取り査定が不明瞭でエンドユーザーが騙されたような気分になっていたのに対して、ガリバーは車種、走行距離、傷の状態などによる明確な基準を示した。
中古車屋はいかがわしいといった一般社会のイメージをガリバーは変えた。
ひるがえってメイド喫茶の一般的な印象はどうだろうか。テレビではしばしば目にするが、オタクの行くどこかいかがわしい場所といったマイナスイメージを拭い去れないまま今日に至っている。
夜明け前の中古車買取市場、まさにガリバーが急成長する直前と同じにおいを鈴木社長は感じ取ったのだ。メイド喫茶は第2の中古車買取市場になり得るという読みである。
「潜在的に一度は行ってみたいと思っているお客様は、非常に多いと思うのです。めいどりーみんはオープンな雰囲気づくりをしていまして、一見のお客様に対して常連様以上に丁寧に接客をするように教育しています。まだ、雑居ビルの上にあったりするもので、入りにくさを完璧に払拭できたわけではないですが、これからも最大限の努力をしていきます」。
「めいどりーみん」で最初にメイドがシステムの説明をきっちり行うのは、顧客の頭の中にあるマイナスイメージを取り去って、異空間であるところの「夢の国」入国に誘うオリエンテーションの意味合いを持っている。
実際に「めいどりーみん」に行ってみて店内を観察していると、エレベーターが開いた瞬間、躊躇して慌ててドアを閉めて1階に戻っていく人たちを何組か見かけた。どこかまだ抵抗があるのだろう。
エレベーターが開くと、ファンタジーな空間が現れる。
今も常時満席に近い賑わいの「めいどりーみん」ではあるのだが、まだまだ顧客になるべき人を売り逃がしている感がある。
メイド喫茶に限らず飲食店は、どうしても何度も来てくれる常連を優先しがちである。しかしそれも過度になると、店員と常連客の間で排他的な空気ができてしまい新規の顧客が寄り付かなくなってしまう。
特にメイド喫茶にありがちなケースとして、常連のオタクばかりが集まるようになってしまうと独特の濃い雰囲気が醸し出される。かつメイドが常連とばかり話している状態になると、顧客開拓が途絶える危険信号である。その悪循環で多くの店が消えていった。
確かに毎日のように通ってくれるオタクは、財布の紐も緩く経営的にもおいしいケースも多いが限界がある。オタク専用の店は2000年頃から残っている古株の秋葉原のメイド喫茶に任せておいて、「めいどりーみん」はメイド喫茶を体験したいと思いつつもまだ入ったことのない、一般の潜在ニーズの掘り起こしとそのリピートに注力しているのだ。