・メイドの夢を叶えるタレント学校経営も視野に
メイド喫茶の主役はやはりメイドである。メイドがいなければそもそも業態自体が成り立たない。
しかし、このメイドをいかに使いこなすのかはメイド喫茶の永遠の課題だ。なぜならオタクは特定のメイドを目当てに通う属性があり、人気のあるメイドはある種スターとして優遇されるケースが当たり前になっている。メイドが他店に移動すれば、顧客のオタクも一緒に移動してしまうリスクをはらんでいる。
その点、「めいどりーみん」では常連のオタクを特別扱いせず、メイド喫茶初心者の一般顧客を重視しているから、このリスクから逃れている。
今や秋葉原屈指の人気店となった「めいどりーみん」では、メイドの応募が殺到し毎月300〜380人にもなるとのこと。辞める人は10人程度だから、単純に補充のみで考えれば30〜40人に1人しか採用されない狭き門だ。では、どういう人を採っているのだろうか。
メイドの応募が殺到し毎月300〜380人にもなる。
「ルックスやアニメに詳しいかどうかよりは、出勤率と協調性を重視します。週に5回以上入れる人は優先して考えますね。ウチのメイドはよく働きます。他のメイドカフェでナンバーを張っていたとしても、特別扱いはしないです」と、鈴木社長は週に1、2回出勤して多くのオタクを集客するアイドル然としたメイドは不向きであると明言した。
飲食店での勤務経験はあったほうが望ましく、スタッフの半数が飲食店でのアルバイト経験者だ。
メイドは時給900円のアルバイトからスタート。5段階のクラスがあり、昇進によってメイド服が変わっていく。常連にはお気に入りのメイドの服が変わって行く成長過程を楽しみにして通う人もいるという。
希望者は社員に採用されるケースがあり、各店に3人くらいは社員メイドを配してサービスの向上をはかっている。人件費がかさむため、いつまでも低い時給で働くことを余儀なくされるのが当たり前になっている、従来のメイド喫茶に比べれば待遇の良さは歴然としている。
また、個々のメイドに、1日につき幾らの売り上げをつくれとノルマを課しているわけではなく、あくまで全体のチーム力アップを考えている。
「めいどりーみん」の顧客単価は昼間で2000円、夜はお酒を飲む人もいるので3000円程度。店内は「夢の国」であるとの設定があり、チャージとして1時間500円の「入国料」が発生するが、コーヒー1杯で帰るような顧客ばかりを集めていては不可能な金額だ。
そこでせっかく非日常の「夢の国」に来たからには体験してほしい、お絵描き付きのオムライスやハンバーグ、遊び心たっぷりのパフェ、カクテル、さらには食事とドリンクにメイドと一緒に遊べるゲームなどをセットにしたメニューを、顧客に積極的に勧めている。
メイドのセールストークがなかなか堂に入っており、1500〜2000円くらいするセットメニューが結構売れている。
「ウチのトップクラスのメイドなら、車を売ってもトップセールスレディーになれると思います。それほど自信を持っていますよ」。鈴木社長は自身が営業マンであったスキルを活かして、強力なセールスレディーの集団を形成してきた自負がある。
夜は飲み放題や宴会コースもあり、5〜6000円くらいまでで居酒屋のように利用もできる。名だたる一流企業の接待も多く、外国人を連れてくると非常に喜ばれる。そういった接待の場では、景気づけに「ドン・ペリニヨン」、しかも「ピンドン」を開けて皆に振舞う顧客も見受けられる。
「めいどりーみん」の演出として、顧客が席に着くとメイドがキャンドルを運んできて火を点すパフォーマンスがある。その瞬間より顧客には「夢の国」のご主人様、お嬢様へと頭のスイッチを切り替えてもらう。
そして、先述した「はずかしめられる」ことにより「気分が高まる」、心理的反転の非日常空間へとトリップが始まるのだが、夢先案内人のメイドが恥ずかしがっていたのでは話にならない。そこは「夢の国」のメイドを演じ切る度胸が必要。覚悟を決めたら楽しんでパフォーマンスができる人が、伸びていくような気がする。
女性が接客する業種なので、酔った勢いなどで勘違いをして、メイドに触る不届き者もごく稀にいるが、一瞬にして楽しげな空気が暗転し、甚だしき場合は男性スタッフに通報されて店外に出される。客層が良いためか、これまでストーカー行為はないというから女性にとって安心して働ける職場と言えるだろう。
新機軸としてネオディライトインターナショナルでは、9月に渋谷「ちとせ会館」2階「渋谷肉横丁」に豚料理とハイボールの店「豚海賊と世界のハイボール」を出店した。鈴木社長によれば、メイドたちは強制せずとも自主的に飲みに行っているそうで、結束力の強さを感じる。
今後の展開であるが、鈴木社長は「めいどりーみん」を全国主要都市の繁華街に出していきたいのこと。まだ、メイド喫茶の全国展開に成功した例はなく、冒険的なチャレンジだ。手始めに今年1月に池袋サンシャイン通りに出店し、こちらも好調に推移している。新宿のような主要ターミナル駅周辺には、いずれ近い将来に店舗ができるであろう。
マンガ、アニメ、ゲームなど日本発萌え系コンテンツ、ジャパンクールの聖地として世界的に名高い秋葉原でトップクラスの実績ともなれば、海外でも注目の店となる。実際に店舗には英語の話せるスタッフを配して対応しているが、海外からも店を出してみないかとオファーがある。
まずは国内の政令都市に展開していく方針だが、フランス、アメリカ、アジア諸国などジャパンクールの信奉者の多い国への出店のほうの展開が早くなる可能性も十分だ。
ガリバーもレインズも近年では最も成功したベンチャーではあるが、中古車買取や焼肉でトップに立っても、社名に付いているインターナショナル、国際性は未だ実現したかは疑問が残る。それに対してネオディライトはニッチ市場でもメイド喫茶を選択したことで、小さくても国際企業としての佇まいを持ち始めている。
飲食で世界を相手に商売するのなら、実はメイド喫茶が一番の近道だった。それを鈴木社長は最初から理解していたように思える。
もう一つ、ガリバー、レインズとの違いは人づくりが重要な業種なのでFCには消極的であって、基本的に直営で展開する方針であることだ。
IPOは今の時点では考えていないが、財務状況を調べてもらったところ問題ないとレポートが上がってきた。将来的にはあり得るとしている。
「ディズニーランドのような万人が楽しめる強いエンターテイメントのブランドとして、認められるのが目標です。エンターテイメントレストランでは大先輩である、ダイヤモンドダイニングさんに一歩でも近づけるように努力していきたいです」。
ただし、鈴木社長はメイド喫茶が何十店、何百店も多店舗出せるような業態とは考えていない。
そこで狙っていくのは関連業種への横展開。たとえば「渋谷109」に入っているショップと提携して、新しいアパレルのブランドを立ち上げる計画が進んでいる。メイドたちがサンプルを試着して意見も出しているそうだ。
メイド有志による歌のグループ「QSQS」も結成していて、10月16日にセカンドシングルを自主制作で発売する。ブロマイド、タペストリーなど物販には魅力があり、土産物として強化していく。
さらには、秋葉原ではアルバイトをしながら声優、歌手などを目指す人も多いので、タレント学校の経営も構想に入っている。実現すれば、「めいどりーみん」で働きながらタレントを目指すことも可能になる。
人的資源であるメイドを活用してのビジネス展開の夢は多彩に広がる。
メイド喫茶事業という宝の鉱脈を発見した鈴木社長は、店舗のコンセプトのみならずビジネス展開でも「夢の国」に至る道筋を開拓したように見受けられた。
■鈴木雄一郎(すずき ゆういちろう)
1974年生まれの36歳。「ふとんのマルハチ」丸八真綿で営業マンをした後、「中古車のガリバー」ガリバーインターナショナルに10年間在籍。2008年ネオディライトインターナショナル創業。同年4月秋葉原にメイドカフェ&バー「めいどりーみん」1号店出店。現在秋葉原に4店、池袋に1店と計5店展開。メイド喫茶初の全国展開を目指す。
→「めいどりーみん」