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居酒屋、バールと同じように市民権を得たビアバー。キーワードは女子会?
〜ビアバーブーム到来か?〜(3−2)

2011.2.9
アイリッシュパブ、ベルギービール専門店など、ビアバー(ビアパブ、ビアカフェ)はすっかりおなじみになった感もあるが、この1〜2年の間に再びビアバーのオープンが相次いでいる。ビアバーを作りたいという若手経営者も多いそうだが、今のこの波は本当に「ブーム」なのか、飲み手の側に変化は起こっているのか等、実態を探ってみた。3回シリーズ。レポートは小長光あかね。


「おいしいお酒が飲みたいから」女性も若い層も気負いなくビアバーを訪れる
(東京・渋谷「Craftheads(クラフトヘッズ)」

居酒屋、バールと同じように市民権を得たビアバー。キーワードは女子会?

 お酒を飲む場と言えば居酒屋だった日本に、バー・パブ文化が登場したのは15年程前。アイリッシュパブの躍進の後、ベルギービールがブームになり、そしてイタリアンバールの登場と、お酒を楽しむ場の選択肢は圧倒的に増えた。「アイリッシュパブは人が集いお酒と会話を楽しむパブの文化を、ベルギービールはラガータイプ以外のビールのおいしさを日本に持ち込んだと思います(「目黒リパブリック」小林氏)」


男の隠れ家的なバーとは違い、大勢で盛り上がって飲めるのがヨーロッパパブのスタイル。
(東京・目黒「目黒リパブリック」)

 フルーツフレーバーも多く飲みやすいベルギービールは多くの女性を惹きつけ、バールブームはニューワールドワインが台頭した時期とも重なって、ワインを驚くほど身近な存在にした。日本がサッカーのワールドカップに出場するようになってからは、スポーツバーも欠かせない存在に。このような「場」と消費者側の成長が熟したところに、前回述べたような、高品質の国産クラフトビールが再登場したのがこの数年のこと。これが今のビアバーブームのベースになっているといえそうだ。


スポーツ観戦用スクリーンのある店内。
いまやスポーツ観戦とビアパブは切っても切れない関係。

 ところで、最近どんなブームでも担い手は女性である。彼女たちの力あってこそブームは“定着”する。ではビアバーブームにおいては?実はどのビアバーに行っても「ひとりで来る20〜30代の女性が結構いる」「女子会も珍しくない」「みなさん、よく飲みます(笑)」という話を耳にした。ひとり飲みの場合は、仕事帰りなどにカウンターに座り、最初は携帯電話などをいじっているが、店員と1〜2時間会話を楽しんで帰るケースが多いそうだ。


カウンター越しの店員との会話もバーの醍醐味。(東京・両国「麦酒倶楽部ポパイ」)

 女子会に関しては、最近プライベートで「麦酒倶楽部ポパイ」を訪れた時のことだが、2〜4人の女性だけのグループが数テーブル、利き酒やビールタワー(ポパイ名物の卓上サーバーのようなもの)を楽しんでいる姿を目撃した。その際、何気なく会話を交した店長・青木氏は「女性は飲めればいいタイプの人は少なくて、こだわりのあるお客さんが多い。だから飲んでも乱れない、お酒を楽しむ気持ちを持っている」と女性客を称賛していたのが印象深い。


友達同士違うビールを頼んで味見し合うのもよく見る光景。女性客は好奇心旺盛。

 ビアバーの老舗と謳われる「ポパイ」では、男性会員は料金3%オフのところ、女性会員のみのグループには10%オフをするサービスを女子会が流行る以前から行っている(会員登録は誰でも無料で可能)。大勢に受け入れられ“定着”するためには女性を動かす必要があること、また女性客のポテンシャルに早くから目をつけての施策なのだろう。


タップが70個も並ぶ店に似つかわしくない(?!)デザート盛り合わせ1180円。
イチゴのアイスクリームが美味(ポパイにて)

 ビールのお供に欠かせない料理にも注目したい。ビールに合うのは「パンチがある」「濃厚」「スパイシー」というのがプロ共通の意見。ビールと言えば、鶏のから揚げ、フィッシュ&チップス、ソーセージ、ピザなどが定番料理だが、こういった定番ももちろん健在。ただしビールにもこだわる店では、隠し味のスパイスやチーズの濃厚さ、揚げ衣の質など、細かい点にこだわっている店が多いようだ。

渋谷のクラフトビール&バーボン専門店「Craftheads(クラフトヘッズ)」のマイケル野村氏も、「ビールならチャーシュー、ブルーチーズなんかが最高。ビーフジャーキーはぜひバーボンに合わせてほしい」とお酒と料理の組み合わせにこだわりを見せる。お酒に合わせる料理はお酒を使ったものが相性が良いと、趣向をこらすお店もある。

 
クラフトビールで煮込んだ国産大和豚の生姜ダレチャーシュー700円(Craftheadsにて)



白菜の漬物なども並ぶメニュー。オーナーのセレクト眼が光るところ(Craftheadsにて)


どんなお酒を使い、どの料理に合うかを丁寧に解説したメニュー(ポパイにて)

一方「パブフードに関してはまだ正解がない」と、オープンから3ヵ月の「目黒リパブリック」では毎週一度新メニューの提案会を行い、随時メニューの入れ替えをしている。すでに半数近いメニューが入れ替わっているそうだ。「何がビールに合うのか、何を日本人は本当においしいと思うのか、これに関してはまだ発展段階だと思います。おいしくないものはどんどん入れ替えます。半年後、1年後にうちの店に来たらびっくりしますよ(笑)(吉田まりこ氏)」。


「日本人ならビールにはやっぱり餃子」、八角をきかせオリジナリティを出している(6個500円)


“焼き鳥”から発展したバーベキュー(600円)。
添えられたマッシュポテトはパンチのあるゴルゴンゾーラ風味。
自家製の燻製はかじきまぐろ、たくあん、シューマイなどクセになるおいしさ。


ムール貝のビール蒸し、サイズやバリエーションにこだわったフィッシュ&チップスなどバリエーション豊か。

ビアバーに訪れる若者グループや女性グループの様子を見ていると、“こだわりビールを置いている特別な場所”に来ている感じは一切なく、「昨日は居酒屋だったけど、今日はおいしいビールが飲みたい」と、あくまで“選択肢のひとつ”として訪れているように強く感じた。さまざまな経緯を経て、ビアバーは市民権を得て、居酒屋やバールなどと同じ選択肢上に並んできているようだ。


【取材・執筆】 小長光 あかね(こながみつ あかね)  2011年2月4日取材
千葉県出身。株式会社リクルートで15年半情報誌の企画・編集に携わる。現在フリーのエディトリアルプランナー&ライターとして仕事、結婚、食、趣味など“普通の人の普通の生活に欠かせない”事柄をテーマに活動中。


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