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どこに行くのかビアバーブーム。消費者と作り手をつなぐ存在とは?
〜ビアバーブーム到来か?〜(3−3)

2011.2.10
アイリッシュパブ、ベルギービール専門店など、ビアバー(ビアパブ、ビアカフェ)はすっかりおなじみになった感もあるが、この1〜2年の間に再びビアバーのオープンが相次いでいる。ビアバーを作りたいという若手経営者も多いそうだが、今のこの波は本当に「ブーム」なのか、飲み手の側に変化は起こっているのか等、実態を探ってみた。3回シリーズ。レポートは小長光あかね。


店舗数が増加すれば競争が起こり、そのお店ならではの魅力が問われる。

どこに行くのかビアバーブーム。消費者と作り手をつなぐ存在とは?

 「飲む側から“店をやりたい”という人が増えた印象はありますね。でも、それと筋が通っている店が増えているかは別。飲み手もそこまでは層が広がっていないというか、同じパイを取り合っている感じもしますしね」と今のビアバーブームを冷静に見つめるのは、クラフトビール&バーボン専門店「Craftheads(クラフトヘッズ)」のマイケル野村氏だ。


オーナーの眼鏡にかなったビールの中には、国産クラフトビールも。
(「Craftheads」にて)

 鷺沼と渋谷にお店を持つ同氏は、年に2回自ら渡米し直接醸造所を訪れ、自身がおいしいと思ったものだけを独自輸入。品揃えはバーボン300種類以上、ビール100種類以上にものぼり、ここでないと飲めないお酒を求めて集まる常連客は多い。「僕は自分の好きなお酒を仕入れているだけ。それにお客さんが付いてきてくれるかだよね。万人受けするバーはないから」。こともなげに話す野村氏だが、ビアバーのあるべき姿のヒントが隠されているように思える。


棚には(メニューには)数えきれないほどのビールとバーボン。
ビールの後にまったりバーボンを楽しむ人も。


“今アメリカでいちばん人気のビール”KBS。コーヒー思わせる深い香りと
味わいは、ビールの認識をはるかに越えている。(「Craftheads」にて)

飲食店が多くの人を惹きつけられるかどうかは、その店でないと味わえない何が提供できるか、にかかっている。特にお酒のような嗜好品の場合は、立地、値段などネガティブ要因をカバーしてしまうこともある。「Craftheads」の独自輸入ビールは1本3000円を超えるものも珍しくないが、“ここでしか味わえない”ものを求めて人々がやって来る。70近いタップ数で他店では味わえないビールを提供する「ポパイ」、「目黒ラガー」を独占販売する「目黒リパブリック」。国産クラフトビールも輸入ビールも決して安くはない。ビール1杯に1000円近く出してもいいと思わせるオリジナリティが必要だ。


70のタップがついたビールサーバー。圧巻!(「ポパイ」にて)

 消費者に「あの店に行きたい」と思わせるには、サービスの質も重要だ。ここに若干の懸念がある。ブームと言われる時期には、知識をひけらかす“いけすかない”店員が出がちだ。ワインブームの初期、「ワインの知識がなくて恥ずかしい」から専門店には行きたくないという人が多く見られた。ビールもカタカナの専門用語や一般的ではない種類も多く、素人にはわからない言葉が目立つ。ビアバーオープンラッシュの中、ややその傾向が見られるようだ。

 ワイン、日本酒など他の酒類は、ソムリエ、ワインアドバイザー、きき酒師などサービス提供者側の資格制度があり、受験者数も多い。ビールは、日本地ビール協会主催のビールの専門家・愛好家向け資格「ビアテイスター」はあるが、知名度、現場での有効度や受験者数はそれほどではない。資格がすべてではないが、他のお酒に比べ発展途上であることはうかがえる。


「お酒はおいしければいい。御託(ごたく)はいらない」と紹介コピーは最小限。
(「目黒リパブリック」にて)

 サービス姿勢については、ビアバーのはしりとして頑張ってきた老舗店に学ぶところが多い。1985年オープンの「ポパイ」では、店長の青木氏自ら接客に努め、どんな人にもクラフトビールの魅力を熱く語る。若いスタッフにビールの味を尋ねても、素人でもわかりやすいように丁寧に説明してくれる。自分たちは、一店員という存在ではなく、クラフトビール生産者と消費者をつなぐ重要な存在であることを心得ているのだ。


消費者向けに、クラフトビールの魅力を伝える勉強会も頻繁に行っている。
(「ポパイ」にて)

 消費者と生産者をつなぐ存在としては、昨年7月に「ビアジャーナリスト協会」なる団体も発足している。協会ホームページの挨拶文には、発足の背景としてメディアにおけるビール関連記事が「ビールに合うピリ辛料理特集」やビアガーデン情報どまりであることを指摘し、「私たちは「造り手」と「飲み手」の進化に追いつき、その両者を公正にかつ正確に、責任を持って繋ぐ伝達者にならなければなりません」としている。ビール業界は目下成長中だ。

 ビールは他のお酒に比べて価格が安価、高々とグラスを上げて乾杯し、みんなでワイワイ飲むのが似合うお酒だ。不況・不透明感が続く中、消費者のお財布事情だけでなく、気持ち的にも、この「気分の上がる」飲み方が時代にマッチしている向きも感じる。日本人にとっていちばん安くて身近なお酒が、「ワインほど高くないのにこだわりの味が楽しめる」と認識される。そうやってクラフトビールやビールバーが入り口となり、お酒業界全体の活性化につながれば、これはしめたものである。

【取材・執筆】 小長光 あかね(こながみつ あかね)  2011年2月4日取材
千葉県出身。株式会社リクルートで15年半情報誌の企画・編集に携わる。現在フリーのエディトリアルプランナー&ライターとして仕事、結婚、食、趣味など“普通の人の普通の生活に欠かせない”事柄をテーマに活動中。


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