RSSフィード

メディカル・レストラン

メディカル・レストラン

『健康×美食ラボ』が送るメディカルフードレポート
『健康×美食ラボ』所長:医学博士 岡野喜久夫 

第14回「銀座 仲巳屋」
(馬肉料理、東京・銀座)


2007.12.5
現役の医師が、健康になれるグルメ情報をお伝えします
 
 光り輝く星の少ない秋の夜空は寂しい。。。しかし視線を下げて地上を見てみれば一段と光り輝く星がそこに・・東京版ミシェランの怪しい☆なんかではありませんぜ〜笑。騎手の武豊が11月3日に3000勝☆☆☆を達成したのでーす。緑の芝のカーペットの上でその明るい星は毎年ちゃんと輝いていました。コンスタントに毎年100勝以上。2003年から3年連続で200勝以上しての偉業なのであります。まさにサラブレッドの上にサラブレッドが騎乗している様は美しい二重星のアルビレオ。。。これからもどんな凄い輝きを見せ続けてくれるのだろうか。。。

 さ〜てと、てな強引な前振りからの展開で・・いつもの口調で今回のお題を料理してしまいましょう。今回のメディカルレストランのお題は「けっとばし」です。けっとばしをご存じない??あ、ごぞんじないっと。けっ飛ばす生き物と言えば・・馬でしょ?!だから馬肉や馬さんを主として食べさせてるお店を「けっとばし」って言うのでありますよ。そして東京ならお江戸の頃から色町であった吉原の近郊に馬肉屋さんは栄えました。簡単に言いますと精をつけてから色町に繰り出すぞー!って事っすね、笑。てやんでーどっこい今夜は銀座のど真ん中でけっとばして来まっせー!当然色の方もですね。たまにはババンと!あかん。。。手元不如意でごじゃりました。。。トホホ。。。


「銀座 仲巳屋」(ぎんざ なかみや)

(住所)東京都中央区銀座3-7-12 王子不動産ビルB1
(電話)03-3538-2010
(営業時間)17:00〜翌3:00(L.O.2:00)
(定休日)日・祝

 
今夜の所長の夕食は、

1)馬のすじトマト煮
2)馬刺盛り合わせ
3)上ヒレカツ
4)串焼き
5)仲巳屋サラダ
6)握り&馬汁(バジル)


1)馬のすじトマト煮


「すじ」と言うネーミングですが実際はお肉を解体する際に出るアラの部分のトマト煮込みです。所長はトリッパなどのトマト系煮込み料理が大好物。日本食を食べにゲートインしたのに洋風なので、おっ!オヌシやるな!と言う感じ。ちょっと食べ足りないぐらいの量もアミューズとして合格点ですね。アミューズってのはですね、これからの楽しい夕食の期待感を高める物である事と次に出てくる最初の一品を食べるために胃袋を叩き起こす物なのですからリッチでサプライズな物が少量出されるのがベストです。昔、とある有名店(鳥鍋屋)に行った際、アミューズになんとお煎餅などの乾き物が。。。おいおいスナックに来たのとちゃうぜー。興ざめやがな。。


2)馬刺盛り合わせ


 おー!豪華馬刺揃い踏みです。たてがみ(コーネ)、モモ(いちぼ)、ばらひも(さがり)、くらした(肩ロース)、ばらおび(カルビ)ハツ(心臓)の盛り合わせです。流石に新鮮な馬肉にてまったく臭いなど皆無。牛肉とは一線を画したしっかりとしたテクスチャーが楽しめます。そしてこの醤油が美味ですよ〜♪ 熊本のお醤油屋さんに特注して仲巳屋オリジナルを作ってもらっているんだそうです。刺身にニンニクか生姜をまぶして甘ウマの濃厚なお醤油で食べると至福の時が。。。中でも「たてがみ」に関しましては前回(第13回)の鯨を食べた際に馬鹿にしておりましたが・・なんのなんの、仲巳屋さんのは油っ濃くなくしっかりとした食感があり・・はて?なんでやねん? 料理長さんの鈴木秀則さんに質問した所、「たてがみ」とは実は油の塊ではなかった事が判明!首のたてがみの下の皮下組織でコラーゲンの塊なのだそうです。無知とは怖いですね〜だけど今まで他で食していた「たてがみ」は油っこかったんですけどね。。。なんで仲巳屋さんだけこんなにアッサリなんだろー?


料理長の鈴木秀則さん


3)上ヒレカツ


 見てください。色のコントラストが美しいですね。桜肉と言うより花弁状の和菓子を連想してしまします。一口入れると・・美味〜い!!ミディアムレアの火入れが最高です。「あ〜ウマ!」なんてサブ〜イ木枯らし的な駄洒落なんか言ってますと落語家の大師匠でもバッサリと三行半の時世です。くわばらくわばら。。。


4)串焼き


 ばらひも(さがり)に串をうって焼いてありますが、ただの串焼きではありません。ゆず胡椒とマスタード(それもフランスはディジョンの)でフレンチジャパニーズなアクセントをつけて肉肉肉と続いた際の苦肉(笑)の工夫がしてあります。


5)仲巳屋サラダ


 季節の野菜(有機栽培)と自家製のスモークした馬肉(フエタゴといわれる横腹とたてがみ)を揚げ春巻きの皮、すり胡麻&自家製ドレッシングで混ぜ混ぜしております。肉肉肉肉と続いた後の野菜はやはりサッパリしてて美味しいですね。馬肉をスモークさせる事で肉のしつこさを完全消滅させてサラダなのにサイドディッシュではなく立派な一品として完成させております。


6)握り&馬汁(バジル)


 馬肉の握りと馬汁でシメでございます。ばらおび(霜降りカルビ)とモモ(赤身)の握りでした。バグッとくわえてみますと、牛肉の豊穣の味とは違った肉のしたたかさを感じます。やはり馬は色町に繰り出す前に男が食すお肉なのでしょうか。今回は店長の橋本道昌様に頼みまして完全な馬尽くしにしてもらいました。私の注文を完璧にこなして頂き、なんとサラダにも馬肉が入っておりました。全て完食!「馬肥ゆる秋」でなくって「所長肥ゆる秋」になっちゃいましたとさ(笑)。


橋本道昌店長





所長のコメント:


 前回と今回、2回続けて変則ジビエ(笑)を堪能いたしました。赤い肉に思いっきりかぶりつきますと原始の時代の本能がコンコンと身体の奥から湧き出てくるのがわかります。やはり肉の基本は赤身です。血の味。鉄の味。けだものの味ですよ。油タップリの霜降り肉ばかりでなまくらになった舌がビビビと刺激されました。人間の本能に訴える味覚。。。舌のブートキャンプもしないといけませんよ〜爆。

 さて、最初に馬肉のお勉強をしてみましょう。皆様、いくら野生の味と申しましてもサラブレッドなどの競走馬を食べて美味しいわけがございません。固過ぎです。今の世の中にはちゃ〜んと食用の為の馬があるのであります。食用馬には基本となるペルシュロン種、ブルトン種、ベルジャン種と言う三種があり、それらを交配した☆☆☆の食用馬種がペルブルジャンです!メチャメチャ安易なネーミングですよね。3つの名前をくっつけただけじゃん!!最近合併が相次ぐ銀行や製薬会社の新しい名前を思い出してしまうのは所長だけでしょうか?(笑)。

 そして、食用馬にひと昔前は牧草を食べさせていたのですがペルブルジャンなどは厳選された穀物飼料を中心にした食事をさせて格段に肉質を向上させております。つまり今日の馬肉は柔らかくて臭みが全然無い美食の点からも最高の食材に変化したのです。 その上ですよ、健康に良いときているんだから前回の鯨肉同様にメディカルレストランが取り上げない訳にはまいりません!

 基本的に食材を美味しくさせると食材の組成も変化をしてしまい脂肪分が増加したりと「美味しいけど身体に良くない食材」になるのが普通であります。ところがところが馬さんは違います。馬肉と牛肉、豚肉との栄養成分量を比較してみると・・馬肉の特徴は低カロリー&低脂質です。例えば牛肉と比較いたしますと脂肪分が約1/5,カロリーは約半分、カルシウムも牛肉や豚肉の約3倍。鉄分は豚肉の4倍・鶏肉の10倍にもなります。身体に良い不飽和脂肪酸やビタミンAとEも多くスタミナ源のグリコーゲンが牛肉の3倍以上。その他にも、馬肉は牛、豚、鶏肉など様々の食肉の中で一番安全なお肉と言われています。その理由は馬は牛や豚などよりずっと体温が高くて寄生虫が住みつく心配が少ないからだそうです。

 さら〜に厚生労働省より発表されている「食物アレルギーを引き起こす事が明らかになった食品」リストの中に牛、豚、鶏を含む24品目があげられていますが馬肉は含まれてないのでありま〜す。まさに前回の鯨を上回るスーパーヘルシーミート!!すんばらっしー!!

 世界的に目を向けますとヨーロッパが一番の消費地らしく、中でも美食の国のフランスには馬肉専門店が多数ある事で有名で、女性が主として馬肉を家庭料理の食材として買い求めております。理由は馬肉の低カロリーのダイエット効果を期待しての事。なんとフランスでは日本顔負けに生のカルパッチョでも食しますし医者が病人に馬肉の食事を勧めるほどです。他にもフランス語圏のベルギーやカナダのケベック州などを中心に馬食は広がっております。反対に馬食に反対なのはアメリカが中心ですね(ウエスタンの時代から馬は大事なお友達〜♪)。

 メディカルレストランでは以前に羊肉と言う素晴らしい食材を取り上げましたが、今回は2回に渡り鯨と馬肉に於けますヘルシーな食材としての魅力をお伝え致しました。食材そのものが健康に良い時は変にいじらないできちんと処理して焼くなり煮るなりして普通にお料理して頂ければ宜しいと考えます。ですからこれら食材を使用すればプロでなくてもご家庭でメディカルヘルシーな献立を簡単に立てることできる訳です。多少固めの食感ですので違和感を覚える方は隠し包丁を入れて頂ければ柔らかくなります。そうすればお歳を取られた方でも問題ないでしょう。羊と鯨と馬が輝く食材の覇者になる事を祈念してやみませーん。

 さて、「馬」と聞きますと、そのイメージはやはり颯爽と走るサラブレッドですよね。語源を知ってらっしゃいますか?語源はThorough(スルゥー、徹底的に) + bred(ブレッド breed の過去分詞、品種改良された)からなんです。つまり遺伝子操作などが出来ない頃から優れた馬同士を何代何代も徹底的に掛け合わせて作り上げた理想の馬だと言う事なのですね。ほーっ。。。と感心した所で・・今回は遺伝子のお話です。遺伝子の研究は医学界の各分野で疾患の研究に欠かせなくなってきておりますが、一方で医学以外の分野でも話題を振りまいております。その一つに人類の起源を探る研究があります。

「ミトコンドリアイヴ」と言う言葉を聞いた事がありますでしょうか?約20万年前にアフリカで産まれて生活をしていた女性で今日の地球上の全人類の母親たる女性です。まずはそのお話。

 我々の細胞内にはミトコンドリアという大事な器官があるのですが、そのミトコンドリアの遺伝子DNAは何故か母親からしか子供に受け継がれないのです。普通は父親と母親の両方のDNAが半々に子供に受け継がれるはずですよね。しかしミトコンドリアDNAに関しては違うのです。精子が卵子に受精して直ぐに精子のミトコンドリアDNAは受精卵の中で破壊されてしまいます・・うーくくぅるしいぃぃ。。。。お前は精子か!しかし、それを利用して人間の母親サイドのご先祖様をどこまでも逆行して追いかけて行く事が可能になりました。父親からの影響は受けないのですからね。そしてずっとず〜っと過去に遡って行きますと・・今日生きている人類全員のご先祖様、「ミトコンドリアイヴ」と名付けられた女性にたどり着くのです。

 ミトコンドリアイヴさんはどんな女性だったのでしょうか?顔かたちなどは勿論不明です。しかしイヴさんは白人だったと考えられています。アフリカの人なのに意外でしょう?だけどチンパンジーの皮膚も真っ白って知ってましたか?共通の祖先から発生し今日の人類と遺伝子的にもほとんど同じであるチンパンジーも皮膚が白いんです。ただ、体毛がみっしりと生えているので判らないだけなんですね。

 その後のアフリカ人の皮膚の変化(黒人化)は体毛を亡くした人類が紫外線から皮膚を守るために進化したと考えられております。時間は進み。。。何万年もしてから、Out of Africa (出アフリカ)の人類大移動が数回起こり世界中に人間が広がる過程で日光が少ない地域では紫外線を浴びて皮膚でビタミンD3(骨などを頑丈にするのに必要)を合成する必要性から皮膚の色が薄くなったと言われております。アフリカ大陸内でも日光の量が地中海並みに少ない南アフリカに大昔から住んでいるサン族はあんまり皮膚の色が濃くありません。それではイヌイットなどのもっと極地で日光の少ない地域の人はなんで黄色人種なんだという問いには、彼等は魚を豊富に摂取したのでビタミンD3は足りてしまい皮膚の色を変える必要がなかったんだと・・・・ホンマかいな!(笑)

 皮膚の色の変化に関しては見て来たような、ホント〜?な説明が幅を利かせておりますが(後づけっぽいですよね!)それはさて置き、世界中への人類の大移動に関してもオモロイ遺伝学的研究成果が発表されております。ちょこっと難しいですがお付き合い下さ〜い。

 それにはまずは神経のお勉強をしないと始まりません。

 我々の日常では周囲でさまざまな出来事と環境変化が生じますよね。それに対して適応&順応する一方で様々に工夫と学習しながら皆さんは生活して生き抜いている訳です。それらの行動を取る為には脳の中のドーパミンと言う大事な神経伝達物質が必要なのです。もしもドーパミンが上手く脳内で作用しないと、神経系が働くなくなり万事の行動がゆっくりと円滑でなくなり周囲への反応が鈍くなり集中力や注意力も失われ無気力になってしまいます。それがひどくなりますとパーキンソン氏病やうつ病にまでなってしまう事もあるのですよ。怖いですね。。

 そしてドーパミンと言う神経伝達物質が脳の中で働くためにはドーパミンが神経末端から適量に放出されるだけでなく、放出されたドーパミンをキャッチする側のドーパミン受容体がきちんと連携して作動していないといけません。

 そしてここからが本題なのですが、このドーパミン受容体には5つのタイプがあり、4番目のタイプの遺伝子(DRD4)DNAを研究していくと面白〜い事が判ったのであります。なんとこの遺伝子が人間(実は人間以外に犬などにおいても)の探究心、探索心を操作しているのであります。DRD4にはアミノ酸16個からなる反復配列があるのですが・・それが6回以上反復している人は少ない人より新奇性追求が強い事が発見されました。つまり好奇心旺盛でチャレンジャーで行動派だって事です。

 民族的研究を致しますと、日本人では6回以上の反復の人(好奇心旺盛型)は1%しかおりません。他のアジア人もほぼ同様。しかし日本人やアジア人と同じモンゴロイドでも南北アメリカの原住民は好奇心旺盛型がなんと53%もいるのです!じぇーんじぇーん違いますよね!この差の説明としては、アフリカを出て3〜5万年前にアジア地方にたどり着いた人達の中で探索心の旺盛な人々が1.5万年前ぐらいに氷河期で凍ったベーリング海を渡り北アメリカから南にずっと南下して行ったと言う事になっております。この物好き集団は好奇心旺盛なだけでなく体力も気力も凄かったのでしょうね〜。一方でヨーロッパでの好奇心旺盛型は21%。やはりアフリカから出た後に北進して寒い方向に向かうには探求心が必要だったのかも。。。そしてかな〜り近世になりヨーロッパから移民としてアメリカ大陸に渡った今日のアメリカ人は好奇心旺盛型が31%でヨーロッパよりも1割多いです。ヨーロッパの中でも新大陸に渡る勇気と好奇心あった方々の末裔なのでしょう。

 アミノ酸の配列がちょっと違っただけで人間の心や性格までが変化するって不思議ですよね。アミノ酸配列の違いから脳内物質の変化が生まれて心の領域まで影響を与えているのですね。日々のほんとうに小〜さな人生の選択をアミノ酸配列が決定し、それの積み重ねが徐々にその人の生活に影響して。。。何世代にも渡ると・・住み着く場所まで変えてしまう。。。

 周りに引っ越し大好きな人がいたらそれは好奇心旺盛型の人かもしれませんよ〜笑。そう言えばアメリカ人などムービングが大好きで車に家財道具を投げ打ってホイホイと気軽にしてますよね。。日本人は一所懸命って言うくらい土地に固執しますが。所長も家や土地には興味ありません。ひょっとするとアミノ酸配列の反復が多いのかも。。。

 これからも皆様のお役に立てるようにレストランを飛び回って頑張りますが・・話もポンポン飛ぶのはみーんなアミノ酸の配列のせいなのでお許し下さい!(爆)



オマケ:



 所長はこの取材の1週間後にソムリエの方も交えて馬さんをワインに合わせて再度チェックしました。その際、軽く冷やしたイタリアワイン「Lambrusco」のsecco(辛口)が最高でした(写真9)。赤なのに半発泡性のワインなのでとっても爽やかです。「馬肉には焼酎!」が常識になっておりますが、なんのなんの・・馬の足に嵌る蹄鉄の様に颯爽たる馬肉には軽〜い発砲性の赤がピッタリとマリアージュ致しました〜♪是非お試しくださーい。



執筆 『健康×美食ラボ』所長:医学博士 岡野喜久夫 2007年11月28日

『健康×美食ラボ』所長
医学博士 岡野喜久夫

岡野内科診療所院長
東京都港区新橋1-18-14 三洋堂本館ビル8F
03-3502-8060

Page Top