・恥ずかしさが心理的高揚に転じるメカニズムを追求
「めいどりーみん」がここまで発展できた理由は、今までメイド喫茶に来なかった新規顧客を開拓したからである。
1店を維持するのも青息吐息のメイド喫茶が多い中で、わずか2年半で5店まで拡大した。既にメイド・コスプレ系飲食企業では大手に属し、メイド喫茶店舗数では「@ほぉ〜むカフェ」と並んで最多になった。
開放的な店の雰囲気が好まれているのもあるが、旅行会社のツアーに営業をかけたり、修学旅行の際に寄ってもらえるように地方の学校を回ったりといった、地道な活動の積み重ねで顧客が入るようになった面もある。
ツアーで秋葉原に来る顧客は、神田明神から歩いて電気街にやってくるケースが多いが、休憩所として使ってもらう提案だ。人数が多人数になった場合は、午前中の空いた時間に幾つかの店に分かれてもらう。全店舗を使うこともある。
修学旅行ではコースに入ることはまずないが、東京での自由行動の時間に、生徒に来てもらえればと呼びかけている。
「アイドルタイムをいかに稼動する時間に変えるかをいつも考えています。関西の旅行会社と提携してツアーのコースに入れてもらっていますが、ファミリー、カップル、おじいちゃん、おばあちゃんからも好評です」と鈴木社長。
メイドと一緒においしくなるおまじないをお客さんにもやってもらう。
秋葉原の名物というと電気街と共にメイドは既に国民的に浸透している。しかし、メイド喫茶は小資本で営業しているため、雑居ビルの上のほうにあって普通に通りを歩いていても目に付かないものだ。要は行きたくてもどこにあるのかわからない。
歩いていて見つからないなら、もう最初から観光のコースに入れてもらおうという新しい手法の営業だ。実際に体験してもらうと、流行に敏感であろう若い人のみならず、お年寄りにも好評とのことである。
一方で、秋葉原を歩いている人には宣伝チラシを終日配って集客している。ビラ配りに年間2000万円の予算を充てており、現状秋葉原の通り沿いにビラ配りのメイドやコスプレーヤーが非常に多いのは、「めいどりーみん」が積極的にやり始めたのに対抗して他店が負けじと頑張っている印象すらある。
「メイド喫茶のいかがわしいイメージは、あちこちに多過ぎるビラ配りも原因ではないか」と質問すると、鈴木社長は「万世橋警察署に許可を取っていますし、今はまだ止めようと思いませんが、どこかの時点で止めるイメージはできています」と語った。
幅広い年齢層にアピールできるメイド喫茶は、どこがそれほど魅力なのだろうか。
「たとえば、飲み物が運ばれてきた時に、メイドと一緒においしくなるおまじないをお客さんにもやってもらうわけです。これはとても恥ずかしい。でも、はずかしめられることで気分が高揚する。そういうエンターテイメントなのです」。
ドリンクに対する、おいしくなるおまじないとは、メイドと「おいしくなあれ、萌え萌えキュン」などと唱和しながら両手でハート型をつくり、奇術師のようにハンドパワーを送るなどするパフォーマンスである。また、店内のステージでメイドと2ショットチェキを撮るのも、周囲の顧客に見られ、視線を浴びるから恥ずかしい。
しかし、恥ずかしいけれどもメイドと一緒に「夢の国」の舞台で演劇を演じているような錯覚に一瞬陥る。
「役者は三日やったら止められない」というが、役者よりもはるかにハードルの低いメイド喫茶のパフォーマンスは、お遊戯のようではあっても童心あるいは思春期に帰れるような甘酸っぱさあって、一度体験すればなぜかもう一度やりたくなる。8〜9割はリピーターになるそうだが、「めいどりーみん」には中毒性が確かにあるのだ。
鈴木社長は人類に普遍的に備わるはずの、「はずかしめられる」から「気分が高まる」への心理的反転による快感こそがメイド喫茶のポイントだと確信している。だからこそ、世界にも通用するコンテンツとして秋葉原を飛び出し、全国さらには海外の繁華街に打って出てみたいと夢を膨らませる。