フードリンクレポート


消費者庁は半年以内に改善しなければ大手より処分を示唆。
〜混迷するロース表示問題。正しいのは消費者庁か焼肉業界か?〜(4−2)

2010.11.25
消費者庁は10月7日、焼肉店の業界団体である事業協同組合全国焼肉協会(東京都北区王子2丁目)に対して、ロース以外の部位を使った料理に「ロース」と表示するのは景品表示法違反の不当表示にあたるとして、表示を適正化するよう指導に入った。しかし、霜降り肉を「カルビ」、赤身肉を「ロース」と記するのは焼肉業界のしきたりであるとして、焼肉業界の反発は強い。果たして焼肉店はもも肉を「ロース」と表示し続けることができるのか。レポートした。4回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


農林水産省 牛肉小売品質基準・豚肉小売品質基準による部位図解。

消費者庁は半年以内に改善しなければ大手より処分を示唆

 消費者庁が焼肉業界の「ロース」表示に対して、改めるよう要請した背景には消費者からの訴えがあった。

 今年の2月、愛知県内の焼肉店で「ロース」を食していたとある顧客が店員にどの部位の肉なのか質問した。すると店員はもも肉だと答えた。さらに、値段が高い「上ロース」ならばロース部位の肉を使っていると続けた。

 この説明に納得できなかった顧客は、消費者庁に通報。それを受けて消費者庁が消費者、事業者、官公庁、専門家に対して実態調査を行ったところ、焼肉業界の長年の商習慣として、ロース部位にあたる背肉のみならずもも肉を含め赤身の肉全般を「ロース」と表示する実態が明らかとなった。


消費者庁が入居する山王パークタワー(千代田区永田町2丁目)。

 店によっては「上ロース」と表示していても、もも肉を提供している場合もある。焼肉店の場合、「ロース」や「カルビ」は食感と見た目で分けているメニュー名であって、部位名と一致させる発想が元々ないからである。

「業界の慣行と言っても消費者のロース肉の認識と乖離しています。消費者からはよくやってくれたとお褒めの言葉もいただいていますよ。業者からは何を今更との声も一部あるのは知っていますけれどもね」と、消費者庁は景品表示法の不当表示、優良誤認にあたるという判断に、消費者や世論の後押しがあると自信を持っている。優良誤認とは、価値のないものを消費者に対して騙して売ったということで、安いもも肉を高価なロース肉だと偽ったとの意味合いだ。

 確かに毎日スーパーや路面の肉屋で買物をしている消費者にしてみれば、「ロース」とはロース部位を指す。しかし「ロース」部位が背肉にあたると知っている人は案外少ないのではないか。だから、消費者の中から「焼肉店はもも肉をロースと称して騙して売っていた。しかも業界ぐるみとは驚きでけしからん」という反響が数多くあるのも当然と思う。

「今回のようなケースは一軒一軒、個別の事業者に行政処分を行ってもモグラ叩きになるので、全体として正してもらうために全国焼肉協会に周知、指導を求めました。半年くらいの猶予期間を設けていますから、来年の3月くらいまでに直してもらえればと期待しています」。

 それで「もし直さなければどうなりますか?」と消費者庁に質問してみた。

「通常の方法としては大々的にチェーン展開している大手から措置を取ります。不当表示を行っていると公表し、徐々に業界全体で正してもらいます」と、あくまで強気。処分のシナリオもできている。

 全国焼肉協会に指導に入ったのは、業界の慣行が問題視されたからで、協会の非加盟店だからといってお目こぼしがあると考えないほうがいい。特にフランチャイズ展開しているような大きなチェーンは、全国焼肉協会のアウトサイダーであろうと真っ先に告発される可能性がある。そうなると世間に悪者イメージが広がり、売り上げに悪影響をもたらすことは想像に難くない。

 焼肉業界全体に影響力が大きい、大手チェーン、有名店は「ロース」表示を改めなければならない崖っぷちにあると言えよう。

 では、どういう料理名に改めればいいのか。

「ロース(もも)と書くのはダメです。赤身(もも)ならばいいのではないでしょうか」。消費者庁ではあくまで、「ロース」ともも肉は別物と区別したい意向である。

 具体的にロースとはどの部位を指すのか。ももとはどの部位を指すのか。消費者庁は10月7日付「焼肉業者における焼肉メニュー表示の適正化について」で方向性を示している。

 当該文書によれば、メニュー表示の例として、「和牛ロース」としてロース部位でないランプ、そともも、うちもも、しんたまが使われ、「和牛上ロース」としてロース部位のかたロース、リブロース、サーロインが使われていることが図解してある。


消費者庁が例示した「ロース」「上ロース」表示例。

 これは明らかにJAS法を基準にしてあるが、JAS法は消費者庁の権限の範囲外なので言及していない。

 景品表示法の考え方として、昭和52年に制定された食肉小売品質基準で定められてから、小売店で売られている「ロース」はロース部位であり、焼肉用の肉も「○○ロース」と表示されていれば当然ロース部位。また、外食でもステーキやとんかつの店では「○○ロース」と表示されていればロース部位が使われている。

 このような状況下では、消費者は「○○ロース」と言えばロース部位の肉と認識する。もも肉などロース部位以外の安い肉を「○○ロース」と記載することは、焼肉料理の内容ついて、一般消費者に対して実際のものよりも著しく優良であると表示することであって、景品表示法第4条第1項第1号に違反するというわけだ。


農林水産省 牛肉小売品質基準・豚肉小売品質基準による部位区分。

 確かに現状の消費者サイドの認識に立てば、消費者庁が正しく聞こえる。

 しかし、赤身肉全般を「ロース」と焼肉業者が呼び出したほうが、食肉小売品質基準の制定よりも間違いなく早いのである。

 あとから決めた基準が一般に定着したから、焼肉業者は「ロース」において不当表示を行っていると断定できるのか、微妙な問題を孕んでいる。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ)  2010年11月23日執筆