東京には、料理が美味しくてサービスも申し分ない、本当にいいお店がたくさんある。しかしその半面、接客について「マニュアル的な対応で心がない」、「何度行ってもよそよそしくて常連になりにくい」という声も。それに比べて関西では、ふとしたことで店のスタッフと話が弾んだり、二度目にはもう顔を覚えてくれるなど、どこか温かみがあって、また行きたいと思わせてくれる対応の店が数多くある。もちろん、東京でも店によって違うが、調べてみると興味深い地域差が見えてきた。心地いい関西のサービスは、東京とは何が違うのだろうか?3回シリーズ。レポートは伊藤由佳。

話してナンボの関西。店員とのかけあいも楽しい。
・気が利く関西、気を使う東京。リピーターにつなげる工夫とは?
「人を喜ばせたい、という気持ちが強いのが関西。僕自身、お客様に気持ちよく『ありがとう』と言ってもらえるのが一番嬉しいんです」。そう話すのは、三宮駅前にあるスペイン料理店「La
Cazuela(ラ・カスエラ)」の市森幹朗マネージャー(冒頭写真)だ。

「La Cazuela(ラ・カスエラ)」エントランス。

店内。常連客は30代〜50代。昼はカップルも。
「本来、料理や店の雰囲気のよさでお客様を呼ぶものですが、関西の場合はスタッフの人柄のよさもウリになっていると感じます」という市森さんは、客と話すためのきっかけ作りにも心を配る。客と会話を交わすことで距離も縮まり、自慢の料理を勧める機会が増えれば「もう一品頼もうか」となるからだ。
料理を取り分けることもする。「お客様にも喜んでもらえるし、温かいうちに食べていただくことで美味しさを実感してもらえると思うので」。

メニュー。コースは、料理3品、デザート、ドリンク付きで2680円。

人気のパエリア。ワインと共に。

厨房が見渡せるカウンター。
また、客の中には「いつものやつ」と言って注文する人もいるそうだ。「少しでもお話したお客様は顔や料理、話の内容をメモし、スタッフで共有して覚えておくようにしています」。
客との距離を保ち、失礼のないよう「気を使う」東京に比べ、客の気持ちを読み、「気を利かす」関西。ちょっとしたひと手間が客の心を掴み、リピーターの獲得にもつながるわけだ。
ところで、「日本で一番、味にも接客にもうるさい」とも言われる関西の客だが、どう対応しているのだろうか。
「確かに、関西のお客様は要求が多いですね。パスタに粉チーズをかけたいとか、食べられない食材を他のものに変えて欲しいとか。そういう声に応えるため、色々と用意しています」。しかしその一方で、「うちのパンは専門店にお願いしているこだわりの品。バターくださいと言われますが、そのままかオリーブオイルで食べていただくようお話します」。
客の要望を聞きつつ、店のスタンスとして譲れない部分はしっかり通す。そんな駆け引きもまた、関西の店に必要な資質なのではないだろうか。
明日から使える!?関西あるある五カ条
今回の企画で取材した店、東京と関西でのリサーチ、まわりの人々の意見を総合したところ、関西の接客術として浮かび上がったのは以下の五点だった。
1)顔を覚えるのが早い
2)すぐに声をかけてくれる
3)ちょっとしたことから話を広げるのが上手い
4)相手に素早く合わせる
5)とにかく喜ばせ上手(気が利く)
1)「顔を知った時点から常連」というほど仲良くなるのが早い関西。覚えてもらっているという特別感が、リピーターへのきっかけにもなる。
2)店員と話せば、次に行った時も話しかけてくれるケースが多い。店側が客を覚えているとアピールすることで、客が気持ちよく過ごせるからだ。
3)会話を一言で終わらせないのが関西流。話を盛り上げることで距離を縮め、客の好みやニーズをつかむこともできる。
4)くだけた話し方の人にはカジュアルに、かしこまった話し方の人にはかしこまって、相手と同じテンションで話すのが基本。客からのアクションをサービスにおいて同じだけ返すことが、信頼感にもつながる。
5)「大きな荷物を持ってカウンター席に通されたけど、他のスタッフが気付いて奥の広い席に通してくれた(30代・神戸出身)」など、さり気ないサービスが感動に変わることも。
本来、人は居心地のよさを求めるものだ。客が自分のキャラクターをさらけ出し、なおかつ店に受け止めてもらえる土壌があるのが関西。人間味溢れる接客は、その表れとも言えるだろう。一方、東京では素を見せるより、「客」と「店員」として振舞う方が心地いいのかも知れない。
接客に温かみを求めるのは、関西人だけではない。「仕事帰り、ちょっと言葉を交わせる店があると和みますね。自分を知って、話しかけてもらえると嬉しい(20代・新潟出身)」、「身内感覚というか、仲良くなると居場所ができる(20代・静岡出身)」という声も。
ちょっとした触れ合いがその店へと足を運ばせる。関西流のアットホームな接客術を少し取り入れることで、また新たな常連客の獲得が期待できるのではないだろうか。
【取材・執筆】 伊藤 由佳(いとう ゆか) 2011年1月9日執筆
神戸出身。関西でフリーライターとして京阪神のグルメ情報、ファッション記事のほか、人物インタビューや体験記事など様々なジャンルで執筆。2010年より東京に拠点を移して活動中。趣味はヨガ、食べること。