フードリンクレポート<有料会員>


低価格均一料金居酒屋は地方へと展開していく。
〜2011年の外食業界は都心部と地方にマーケットが分離する〜(5−1)

2011.1.5
2010年の外食業界は一言で言えばデフレ旋風が吹き荒れ、300円以下のメニュー均一料金居酒屋やB級グルメが注目された一年だった。しかし後半には新橋を中心にビストロがブームとなり男性サラリーマン層も取り込むなど、価格が上がる傾向も見えた。2011年は都心部は高価格帯も狙えるが、地方は均一居酒屋が広がるといったマーケットの分離が進みそうだ。5回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


三光マーケティングフーズの「月の雫」。思い切った値段引き下げで270円均一にした。

低価格均一料金居酒屋は地方へと展開していく

「2010年の外食業界は10月くらいから全般に良くなっています。2011年も少なくとも前半はこの調子で好調に推移するのではないでしょうか」。

 こう予想するのは外食専門のアナリストである、いちよし経済研究所企業調査部第一企業調査室長・主任研究員の鮫島誠一郎氏。


いちよし経済研究所 鮫島誠一郎氏。

 確かに年末の忘年会の受注状況を見ると、少なくとも2009年のような最後の1週間くらいしか予約が入らないといった極端な節約傾向は脱して、例年並に戻してきた感がある。 それとともに一般の居酒屋、カジュアルダイニング、レストランにも顧客が戻ってきており、全般に一息ついた感があるように見受けられる。

 現在の30代、40代、50代はそれぞれ外食産業の発展とともに生きてきた世代であり、外食は単なる飲食の場ではなく新しい情報に触れる場でもある。これ以上長期間外食を我慢することもできなかったと思われる。

 一方で、300円以下のメニュー均一料金居酒屋は新宿、池袋、神田などを中心に爆発的に広がったが、ついには居酒屋市場を完全に制圧することはできなかった。ここに鮫島氏は低価格均一料金居酒屋の限界を見る。

「結局、低価格均一料金居酒屋で忘年会をするのかという問題です。この業態がなくなることはないですが、都心部では一巡したと見ています。むしろ普通の居酒屋が戻してきていますから今後は共存していくことになるでしょう」。

 接待、記念日の食事会、デート、合コン、今はやりの女子会ともなれば、均一料金居酒屋よりも雰囲気のいいレストラン、バーに行こうとするのは当然であり、2011年は消費者が外食を控えるか、低価格しか行かないといった困った状況からは脱する模様である。

 日常の飲みには均一料金居酒屋を利用するが、これという時にはもっとアッパーな店を利用するという使い分けが進むだろう。

「ひらまつはずっと好調ですが、うかいもまずまずですから都心部では高い料金の店も成り立っていくでしょう」と、かなりアッパーな業態でも大丈夫ではないかと鮫島氏。


東京・芝 とうふ屋うかい。

 ただし、「都心部と地方では所得格差が開いているので、これから均一料金居酒屋は地方に展開していく」と、鮫島氏は均一料金居酒屋の地方への拡散を予見している。

 政令都市や県庁所在地のような大きな都市の都心部と、郊外、さらに地方はマーケットを完全に区別して考えるべきであり、むしろ郊外、地方に均一料金居酒屋は広がっていくのではないだろうか。

 低価格居酒屋と言えば、指定の焼酎を無料で出す「居酒屋革命」が2010年前半は話題になり、銀座のような都心部にも進出したが、結局うまく行かず、東京都心部からは既に撤退している。

 板橋区大山の総本店、稲城市若葉台のカレー無料のラーメン店は残っている模様で、都心部の顧客と郊外の顧客の違いが浮き彫りになった。


居酒屋革命若葉台店 カレー無料のラーメン店、夜はおでん居酒屋に。

「居酒屋革命」の欠点は無料になるお酒が決まっていることで、酔えばどんな酒でもいい顧客が一定数いる郊外・地方と、お酒そのものを楽しみたい銀座の顧客は全く違っていたのが現実だった。料理は北海道からの産地直送だけでは顕著な売りがあったわけではなく、他のお酒を注文すると会計は一般の居酒屋と変わらないので、顧客が白けてしまい定着しなかった。

 ただ、「居酒屋革命」が本当に駄目だったかどうかは大山総本店がどうなるかに掛かってくるだろう。郊外・地方では成り立つ余地があるのかもしれないので推移を見守りたい。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ)  2010年12月31日執筆