・メイドブームが収縮する逆風の中で奇跡の成長
とある平日の午後3時過ぎ、秋葉原駅にほど近い雑居ビルにある、メイドカフェ&バー「めいどりーみん」電気街口駅前店を訪れた。
エレベーターを開けた途端に広がる、テレビで見たとおりのお伽の国のような世界もさることながら、何組かの先客が並んでいて受付で待たされたのにまず驚いた。飲食店では典型的なアイドルタイムであるはずなのに、それとは無縁の世界がそこにはあった。
店内は一人で来ているいかにもアニメやゲームにはまっていそうなオタク青年と思しき人、2、3人組のサラリーマン、修学旅行中らしい制服姿の女学生の集団などで満席の状態。ホールを忙しく駆け回るメイドたち。角に設けられた小さなステージでは2ショットでチェキを撮っている人もいる。
「めいどりーみん」 店内。
ようやく席に通されると、メイドが注文を取りにやってきた。簡潔に店の説明をされたあと、強く勧められたのはセットメニュー。メイドがお絵描きするオムライスあり、メイドとのトランプなどの簡単なゲームあり。コーヒー1杯飲んだだけではわからない、メイド喫茶の醍醐味を伝えるに十分なセールストーク。よく教育が行き届いている。
隣の席に外国人観光客がやってきた。メイドが英語でメニューや店のシステムについて説明している。外国人は軽く笑みを浮かべ、納得してセットメニューを頼んだようだ。
秋葉原に4店、池袋に1店、計5店を展開するメイドカフェ&バー「めいどりーみん」は今、秋葉原のメイド・コスプレ系で最も元気な店と言われるほど勢いがあるメイド喫茶チェーンだ。
そもそもメイド喫茶で複数店舗を持つこと自体が珍しい。カフェの例に漏れず、顧客単価が低いわりには滞留時間が長く、かつそもそもが趣味の延長線上で経営している人が多く、儲けまでを求めていないからだ。
1号店のオープンは2007年4月25日。メイド喫茶としては後発で、2004〜5年の書籍・映画・ドラマとメディアミックスで盛り上がった「電車男」を頂点とする、アキバブームも少し醒めてきた頃だ。
雨後の筍のように増殖したメイド喫茶も顧客が減り始め、同じメイド服を着ていてもバー、リフレクソロジーなど競合を避けるために業態を変えるところも多くなっていた。
環境に決して恵まれたスタートとは言い難い。ましてや同年6月8日には世間を震撼させた秋葉原無差別殺傷事件が起こり、その影響を受けて日曜・祝日に実施されていた中央通りの歩行者天国が中止になった。
この秋葉原通り魔事件は秋葉原の観光客を3分の1に減少させたと言われるほど、秋葉原にとっては大打撃であった。そうした逆風の中で成長し、火が消えかかっていた秋葉原復興に一役買ったからこそ「めいどりーみん」の躍進には価値がある。
鈴木雄一郎氏。
運営会社のネオディライトインターナショナル、鈴木雄一郎社長に単刀直入に質問してみた。
「メイド喫茶を始める人は、マンガやアニメのオタクでメイドが大好きな人が大半なのですが、鈴木社長はそちらに趣味があったのでしょうか」。
「興味なかったですね。この商売を始めるまでは秋葉原に来たこともありませんでした」。 意外にも鈴木氏はさらりと答えた。