フードリンクレポート


外国人を狙い「江戸小路」に日本の伝統的な食が集結。
〜羽田空港のダイニング、新国際線ビル開業で話題沸騰〜(6−2)

2010.11.4
10月21日にオープンした羽田空港新国際線旅客ターミナル。これによって世界11ヶ国・地域の17都市が24時間営業で定期便で結ばれた。東京都心の浜松町と品川から最短13分でアクセスする新国際線ターミナルのインパクトは大きく、初日より大きな反響を呼んでいる。商業施設も江戸の町並みを模した「江戸小路」や空港初のプラネタリウムカフェなどを擁し、海外からの顧客、もちろん日本人の飛行機に乗らない空港見学者にも喜ばれるように設計されている。東京の世界への窓口、羽田のダイニングの今を取材した。6回シリーズ。レポートは長浜淳之介。


江戸の町並みを模した「江戸小路」。

外国人を狙い「江戸小路」に日本の伝統的な食が集結

 羽田空港新国際線ターミナルでも、特徴あるレストランが連なるのが4階の「江戸小路」だ。

 24時間空港であることに対応して24時間営業の店もあるほか、全店が朝8時までにオープン。夜は22時、23時頃まで営業しており、営業時間が長い。

 和食、洋食、中華、カフェなど多彩な業態が「江戸小路」の中に18店あるが、中心となるのは江戸の町並みを模した景観に溶け込んだ和食の業態。


「江戸小路」では日本の伝統を強調した演出が随所に見られる。

 特に出発ロビーから右手エスカレーターを上がった場所にある「江戸前横丁」と呼ばれるエリアには、日本の伝統的かつ庶民的な味を提供する店が4店並んでいて、海外から初めて日本を訪問した人にとって和食入門的な意味合いも持っている。


「江戸前横丁」。

 まず、オープン初日よりコンスタントな人気を集め、常に満席に近い状態と盛況なのが、回転寿司の「ありそ鮨し」。本店は江戸末期創業の日本海が見渡せる、福井県三国温泉の老舗旅館「荒磯亭」。8年前には東京・南青山に「ありそ亭 青山」という懐石や越前蟹料理をメインにした日本料理の店を開いている。


回転寿司「ありそ鮨し」。

 老舗旅館が開いた新業態の回転寿司は、全国の物流が集約する羽田空港という立地を活かして、鮮度の高いネタを調達しているのが特徴で、1皿190円からと高めではあるが同店ではネタの品質に自信を持っている。マグロは築地より天然本マグロを仕入れている。職人が直接握る形態なので、握りのパフォーマンスを楽しみたい外国人にも満足感を与えるだろう。席数は5つのボックス席を含めて37席ある。

 お土産に柿の葉鮨(1200円)を販売しているが、これも完売する好評さである。当日の朝、本店の旅館でつくったものを小松空港より羽田まで直送しており、「ありそ鮨しは回転寿司の既成概念を破っていく」と鼻息が荒い。


「ありそ鮨し」のおみやげ、柿の葉鮨

「江戸前横丁」最深部にある居酒屋「すぎのこ」は、豚しゃぶ・炭火焼の西麻布と渋谷「みろく」、和風ダイニングの渋谷と大井町「きざみ」などとの系列の店。52席あり、個室も付いている。日本酒、焼酎が味わえるだけでなく、1000〜2000円台の定食があり、お酒が飲めるお食事どころといった感じだ。

 外国人は居酒屋にお酒を飲む目的よりもご飯を食べに入るので、外国人をターゲットとした居酒屋ならこれでいいと思う。


居酒屋「すぎのこ」。

 銀座のおでんの名店「おぐ羅」も出店している。「おぐ羅」は日本橋三井タワー、秋葉原アキバ・イチにも店舗があるが、近年商業施設に積極的に出るようになった。朝と昼はだし茶漬けがメインの店となる。


おでんの名店「おぐ羅」。

「江戸前横丁」のもう1店は、そばと焼鳥の店「蕎麦前処 二尺五寸」でグルメ杵屋の新業態店。喉越しの良いそばに加え、夜は居酒屋需要も見込んで南部鶏の焼鳥も提供される。


そばと焼鳥の店「蕎麦前処 二尺五寸」。

 しかしながら、現状行列の長さならば双璧なのは麺類専門店のラーメン「せたが屋」とうどん「つるとんたん」。どちらも店舗数が10店前後とそう多くないがファンの多い有名店である。外国人にもラーメン、うどんは人気があり、さっと食事を済ませたい空港のニーズにも合っている。

「せたが屋」ではメインの魚ダシが炸裂する醤油ラーメン、つけ麺などは駒沢本店と同じもの。塩ラーメンは「ひるがお」のものではなく、ニューヨークの店などで提供しているものだそうだ。スープをつくれる環境にないので、他の店でつくって輸送しているそうだ。また、英語、中国語、ハングルでのメニュー表記、中国人の国民的カード「銀聯カード」が使える端末対応を行っている。


ラーメン「せたが屋」。


「せたが屋」メニュー。

「つるとんたん」では英語、中国語、ハングルでのメニュー表記のほか、羽田空港店だけの提案として外国人が好むロール寿司をラインナップに加えて需要喚起を狙っている。


つるとんたん 鰻ロール寿司(小580円、大1080円)。

 すき焼き、しゃぶしゃぶの名店「人形町今半」が新業態「たか福」を出店しているのも話題になっている。牝の黒毛和牛を使っているが、本店に比べれば値段がかなりこなれていて、ランチの「牛ふわ玉丼」は香の物、味噌汁付きで1260円。夜のステーキ重は2940円。終日提供している「すき焼定食」は並肉が2940円、上赤身肉3675円、霜降肉4935円となっている。

 同店では「これから年末年始にかけて夜はどんどん宴会が入ってくる」と豪語しているが、そのとおりになるかどうか注目される。


「たか福」の看板。すき焼きをアピール

 また、とんかつ「和幸」がブランド豚「和豚もちぶた」を使った新業態、「和豚 かつ仙」を展開している。「ひれかつ膳」と「ロースかつ膳」の〈竹〉1700円、〈松〉2200円と通常の「和幸」よりは値が張るが、もちもちした歯ごたえと甘みのある肉質を味わうことができる。


とんかつ「和豚 かつ仙」。

「八丁味処 串の坊」は大阪・法善寺発祥の串揚げの店。商業施設では六本木ヒルズ、アトレ恵比寿、銀座コリドー街などにも入っている。


串揚げ「八丁味処 串の坊」。

「日本の旬の味 百膳」は「つるとんたん」と同じくケー・エキスプレスの経営。天丼、親子丼などをメインにした25種類の御膳を、四季毎に合計100種類提供するユニークな店である。


百膳では和服でお客様をお出迎え。

 24時間営業の「DINING24 羽田食堂」は、和洋中韓カテゴリーレスの日本の食文化を発信していくお好み食堂。カレーライスあり、ラーメンあり、各種定食あり、丼ものありといった感じでかつての百貨店の食堂が21世紀に思わぬ形で復活した感がある。深夜、早朝の発着のある国際線ターミナルで、その時間帯に空腹を満たすとすればこの店しかなく、どれだけの需要があるか注目される。


24時間営業の「DINING24 羽田食堂」。

 甘味喫茶として江戸時代から続く金沢発祥の「京はやしや」が出店している。テイクアウトの店で、店舗のすぐ横に広がっているのは共用スペースの庭園である。「抹茶ソフト」、「抹茶白玉ソフト」などの宇治で生産している抹茶を使った和風スイーツなどを販売している。ドリンクはほうじ茶、煎茶、抹茶ミルクといった感じで250円からとなっている。


甘味喫茶「京はやしや」。エントランスと共用スペースの庭園。


「京はやしや」 抹茶白玉ソフトコーン(650円)。

 百貨店、商業施設に最近出店が増えているが、物販、カフェ、テイクアウトと3業態あるので柔軟な対応力を持っていることが評価されている模様。ちなみにラゾーナ川崎の店もテイクアウトだ。

 ゆくゆくは外国人の反応を見てお土産用スイーツを充実させていきたいという。

「将来的には海外へのお茶の販売、カフェの出店も視野に入っています。今回の空港初出店はその試金石の位置づけです」(京はやしや広報営業・原敬之氏)。

「江戸小路」に出店している店は空港初出店が大半であるが、京はやしやのように海外進出の第一歩としたい向きも多いのではないかと思われる。

 羽田にしかない新業態の店舗も目立ち、食事のためにわざわざ顧客が目指して来る店にしていきたいと各店の店主は考えているようだ。


【取材・執筆】 長浜 淳之介(ながはま じゅんのすけ) 2010年11月1日執筆