フードリンクレポート


分煙に関する総合展示「分煙トータルソリューション」
HCJ2010で開催!

2010.3.5
2010年2月23〜26日の4日間「東京ビッグサイト」では 「HCJ2010」(「HOTERES JAPAN」「フード・ケータリングショー」「厨房設備機器展」の3展合同企画)が行われた。毎年8〜9万人ほどの来場があるホテル・レストラン業界の一大専門展示会。時代や社会の流れを反映したブースが数多く出展されるイベントとなっている。今回初めてこの展示会の中で、分煙に関する総合的な情報ブース「分煙トータルソリューション」が設置された。『神奈川県受動喫煙防止条例』は4月から神奈川県で全国初の施行が迫っている。ホスピタリティーとリラクゼーションを提供する宿泊・飲食業にとって、タバコ対策は避けては通れない道。この展示を期に関わる宿泊・飲食業社が真剣に取り組むきっかけになればと考えられた。同ブースには7社が参画、ばらばらに展示を行うのではなく一堂に会することで、飲食店業界全体としての取組み姿勢の喚起や気付きの機会にしたいという狙い。


分煙に関する総合的な情報ブース「分煙トータルソリューション」。

「分煙トータルソリューション」とは

 今回の「分煙トータルソリューション」は「分煙機器等を取り扱うメーカー出展コーナー(分煙機器関連、空気清浄機関連、個室型ブース関連、芳香関連など)」「プレゼンテーションコーナー(ホテル・飲食業界オピニオンによるゲストによる講演など)」「分煙情報発信コーナー(分煙手法・実例などのパネル展示など)」の3コーナーで構成され、分煙に関するあらゆる情報発信基地として企画された。講師やプレゼンテーターによるセミナーも開催。ホテルや飲食店の現場に携わっている人にとって見て、聞いて、分煙に対する知識を深めることのできるブースを目指した。


有力飲食業界誌対談「待ったなし!飲食店の分煙対策」

 開催初日には「有力飲食業界誌対談「待ったなし! 飲食店の分煙対策」」と題し、 『HOTERES(週刊ホテルレストラン)』の元編集長 毛利 愼氏、『近代食堂』編集長 亀高斉氏、『飲食店経営』元編集長 千葉哲幸氏、カフェ&レストラン』編集長 前田和彦氏の有力飲食業界誌に関わる4名の対談が行われた。


有力飲食業界誌対談「待ったなし! 飲食店の分煙対策」。左から千葉氏 前田氏 毛利氏 亀高氏。

『飲食店経営』元編集長の千葉哲幸氏は現在商業界の出版教育事業第三部部長を務めるが先日「繁盛する飲食店のたばこ対策(商業界刊、1500円)」を発売し話題となっている。その書籍の中でも触れられている「飲食店の様々な取り組みや現状」について、媒体側の目線を通し感じ得ていることについて、話しがされた。

 亀高氏は自身の扱う「近代食堂」でも喫煙の可否についての店頭表示について取り上げている。「大切なことは表示を見て、お客様自身が店を選べるということ。表示は分煙の大事なファクターと感じている」。又表示のデザインも独自に考え取り組んでいるところもあると「日本再生酒場」を運営する石井グループの事例を紹介した。決して堅苦しくなく、また「禁煙席がなくてごめんなさい」という柔らかい表現の工夫にも、前向きな姿勢が感じられる。


「日本再生酒場」の店頭表示の事例。

 前田氏は2年ほど前からレストランにおける分煙について取材を進めてきた。今まで「商品」「サービス」「雰囲気」がレストランを構成する3軸と考えられてきたが、この4つ目に「たばこ」という軸が出現し無視できないポイントになってきたととらえている。だからこそ、媒体からも情報を発信し本件と向き合うことを促したいと考えている。

 次に禁煙に関するマクドナルドの取り組みが話題となった。マクドナルドは3月から一ヶ月間、トライアルとして全店舗を禁煙にする。「進んでいる会社ほど真剣に考えている傾向がみられ、マクドナルドの取り組みについても一ヵ月後の結果が興味深いとところだ」と毛利氏。


神奈川県の条例施行についてはこう考える

 条例の施行は既に決定事項であるが、あらためてそれ自体がどうかという点も話された。今回は(調理場を除く)100平米を超える店舗が分煙義務の対象店舗である。罰則は2011年4月以降施行される。逆に、それ以下の平米数の店舗は努力義務にとどまる。昨年辺りは特に居ぬき物件の利用がブームともなっているので、大型の居抜き物件が動かなくなることも懸念されている。

 亀高氏は「プチ分煙」というキーワードで成功している店舗について紹介した。小さな店舗では分煙の設備をその内装に組み込むことが物理的に難しい。その中で「プチ分煙を行っています」というキャッチコピーとその店頭表示は「配慮が感じられる」とお客様にも好評。これらの事例から今回の飲食店における分煙の動きは、人と人との「了解」の上で成り立ち、向き合うことでもっと進むと示唆している。毛利氏は「たばこを吸いたい」「吸う」について行政ではなく「個」が決めることだとまとめた。「個々の店」の考え方であり「個人」が選んで店を決めるということ。「これを機に吸うひとのマナーが向上し、共有・共栄できるのが一番よい」。

 千葉氏は新橋の駅前にある12坪44席、月商500万の「カフェトバコ」について触れた。全席喫煙の愛煙家のためのカフェで、街の喫煙ルームになっている。「なぜ人は飲食店に行くのかと原点に返って考えると「憩いの場所」であり、お祝い事などの「ハレの日需要」がこれにあてはまる。様々なソリューションが飲食店内にはあり、オーナーや店長の自由競争の市場で行政がひとつの方向に持っていってはいけない」と苦言を呈す。




愛煙家の憩いの場である新橋駅前の「カフェトバコ」。


居酒屋繁盛の条件

 開催4日目(最終日)には「居酒屋繁盛の条件」と題し居酒屋店を経営者による対談が行われた。壇上にあがったのは、夢笛 代表取締役の高橋 英樹氏、キープ・ウィル ダイニング社長の保志真人氏、リアル THE ハッピー社長の菅野 剛氏の3名。
 
 高橋氏は広島・福山に「なごみ」、「むてき」など日本料理店、居酒屋、串焼屋を複数経営し、NPO法人「居酒屋甲子園」の理事でもある。保志氏は居酒屋「魚健」など神奈川県内で7店を展開、第3回外食クオリティサービス大賞も受賞している。菅野氏は神奈川県藤沢市で串揚げ居酒屋「喜怒愛楽」を経営する。


壇上の3名。左から高橋氏、保志氏、菅野氏。

 不景気といわれる中、業績をのばしている三社だがその秘訣は何なのだろう。高橋氏は2010年のキーワードを「極み力」とし、全社で掲げているという。作業の効率化や経費削減について見直す。又来店ターゲットについても店毎に年齢や家族構成まで詳細にターゲットを絞り仮説を立て、メニュー校正や客単価など細かく検討しターゲットに合った業態に磨き上げていく。なるべく映像でイメージできるように深堀りして考え、落とし込んでいけるかがキーだという。菅野氏も同じ視点で「K1」を例にあげ「極み力」と同じ視点について説明した。「K1」では鉄壁の防御を誇る選手が強く、強い人ほど打たれない。使うお金よりも使わない形で経営を考えることが、レストラン運営における防御ということだ。しっかり守れる体制があってこそ勝てる飲食店でいられるという。

「価格均一業態」の流行傾向についても話題があがった。価格勝負だけにならない「力のある店作り」が大切という。価格勝負だけでは大手にはかなわない部分もある上、より安い店舗のオープンがあれば、すぐにお客様は流れていってしまうことが予想できる。「ここに行きたい」と思ってもらえる店にならなければ生き残ることはできない。菅野氏は「串揚げ」専門の居酒屋を経営しているが、その中で売上げ構成比の中で串揚げは20%以上を占めるように常に目指しているという。専門性がお客様へきちんと伝わり、他ではなくこの店を選ぶという動機になるように努力し差別化している。

 外食の頻度(回数)が全体的に減っている傾向の中で、逆に外食に費やす「時間」を大事にするようになっていることも傾向としてみられる。お客様の側には店選びで失敗したくないという想いが強くなり、又宴席で二次会へ流れることは減って「一店舗で済ませて帰る」傾向が増えている。二次会が減った分、一次会の客単価があがるということだ。そういった背景の中、保志氏はお客様のお店選びの想いや費やす時間を今まで以上に大事に考えている。一組一組のお客様に商品説明や配慮のあるお声掛けをよりすすめ「お客様に魔法をかけていく」かのようにコミュニケーションをとっているという。


当事者である飲食店の「分煙」への関心

 分煙のスタイルは様々だ。テーブル席を禁煙にしてオープンカウンターを喫煙にすることでオープンカウンターが「シェフとお客様が会話できる場所」となった店もある。「会話を楽しむ」ことをひとつの目的に来店した人にとって、それは満足度アップに直結する。繁盛する飲食店にはベースとなる「料理」「サービス」「雰囲気」の店舗力とあわせ仕掛けや工夫が必ず隠されている。「分煙対策」というファクターもとらえ方と考え方ひとつで、様々なソリューションがある。

 一番よくないのは肝心の飲食店が無関心であることだ。自由競争の中でダイナミックにドラマチックに飲食店が居続けるためには様々な対策と研究が「分煙」に限らず今後も必須となってくる。各自のアイデアで「出来ること」を自ら見つけ、お店に来てくれるお客様に対し自分達のスタンスを決めて動くべきである。何かしらの検討とアクションをすることが求められている。


【取材・執筆】 国井 直子(くにい なおこ) 2010年2月28日執筆