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メディカル・レストラン

メディカル・レストラン

『健康×美食ラボ』が送るメディカルフードレポート
『健康×美食ラボ』所長:医学博士 岡野喜久夫 

〜博多を喰らう クーガー編〜
第21回「万十屋」
(もつ鍋、福岡)


2009.11.18
現役の医師が、健康になれるグルメ情報をお伝えします。
 
 クリスマスツリーがもうちらほら見受けられます。不景気が煽って年々早くなってますね。このまま行けばツリーのサマーバージョンも登場するかも(笑)。バーゲンセールなども一年中やっている店もあり・・この店ヤバイのかなぁ。。。と心配しちゃいますよね。食べ物の世界も松茸や秋刀魚などが春からあるのは、不景気とは関係なく地球温暖化の影響なのでしょうが・・やはり地球もヤバイのかな。。。と杞憂してしまう所長です。

 とにかくあとちょっとで今年も終わりです。1年の過ぎるのが早いです。まーそれはあっしの歳のせいでしょう。だけどそれとは関係なく時計の針は年々早く進み世界はどんどんちっちゃくなっているのかもしれません。

 落語『時蕎麦』の「今なんどきでぃ?」「へい。ここのつでい!」ってな会話は今の世では成り立ちません。「はぁ?12時はわかってんだよ!12時何分か聞いてんだよ!」と相手に怒鳴られます。札幌の工場の急なトラブルで会社を飛び出て羽田から札幌の工場へ。搭乗の際に携帯を切り、工場でのトラブルを解決し終って・・やれやれと携帯OFFだったのに気づいてONすると、間髪入れずに携帯が鳴りだし「2時間も連絡つかないでどこで何やってんのよ!」と彼女に怒鳴られる時代です〜そんな距離感&時間感をお持ちの読者に怒鳴られぬ様に(笑)今回のメディカルレストランは一挙に九州に行く事にいたしました!

 前回の20回までは東京都内のお店限定版のメディカルレストランでしたが、此の度はスタッフ共々博多にて肉食クーガー系と魚食ペリカン系の二本立てでお贈りしま〜す(草食系。。の話はまたの機会に、笑)。

 クーガー系の博多料理と言えば! そうです。もつ鍋ばい!

「万十屋」

(住所)福岡市早良区田村1-12-10
(電話)092-801-4399
(営業時間)11:30〜22:00
(定休日)不定休
(料金)もつ鍋1人前1,260円、馬刺し2人前1,050円、酢もつ315円など。

 
さて、席に着きましょう。今夜の所長の夕食は、

1)馬刺し&酢もつ
2)もつ鍋
3)ちゃんぽん麺

1)馬刺し&酢もつ




 九州は馬刺しが有名た〜い!メディカルレストラン第14回「銀座 仲巳屋」で取り上げましたが、馬肉は低カロリーである上にグリコーゲンなど身体に良い栄養素が豊富で素晴らしい食材なのですね。今回の馬刺しは熊本産のピカピカの赤身です。肉食系男子が勢揃いのラボですので(笑)あっと言う間に全員の胃袋に収納されました。そして酢モツも旨〜い!(写真2)ビールに合いまーす。しかしやはりここからは日本酒か?!とのスタッフの発声の下、熱燗の世界に突入でーす。

2)もつ鍋


 スッキリ系から突然のオイルな世界へようこそ〜。万十屋さんの国産牛のモツは大腸と小腸と心臓とセンマイのみを使用しております。仲居さんのおばさま達が面白い方々ばかりで冗談を言いながら石鍋に具をどんどん入れてすんべて調理してくれます。この間に箸を出してはいけません!グツグツグツグツ。。。。「待て!」と命じられた猟犬の如くじっとよだれをたらしながら待ちます。



 仲居さんの「食べて良ーし!」の合図で一斉に箸をつっこんで金魚すくい為らぬモツ掬い!モツ鍋ガチンコ勝負です。モツ以外にはニラと玉葱とエノキにキャベツという「もつ鍋四兄弟」が入ってます。万十屋さんはもつ鍋の元祖のお店です。これら四兄弟が長年の経験から選択されたサイドモツの究極の品々なのでしょう。きちんと各々の役割をこなしております。栄養学的にはニラと玉葱は抗癌作用も大きくエノキとキャベツはカロリーオフであると共に食物繊維も十分に入っておりメディカル的にもお勧めの品々です。石鍋は火のあたりがソフトになり焦げたりする事がない優れものなのであります。ところでもつ鍋はカロリーがすんごく高いと思ってませんか?ところが水炊きやキムチ鍋、石狩鍋などより全然カロリーは少ないんですよ。コレステロールの含有量も卵や練り物が多いおでんなどよりずっと少量なアメージング鍋なのであります!モツをモツとくれ〜い。。。さむ〜。。鍋なのに。。。

3)ちゃんぽん麺


 最後にちゃんぽん麺を仲居さんが入れて手際よく調理してくれます。うーん、美味い!この味付けにこの麺が微妙に合います。空港から博多ラーメンも食べずにタクシーで遠路遥々来た甲斐がありました。我々はカロリーコントロールのために二人で一人前のボリュームで抑えました。それでも大満足!夕食のペリカンタイムまでにお腹が空いてくれると良いのですが。。。。


店長の岳さん

 所長はスタッフ達と共にお昼に伺いました。店長の岳氏にお話をお聞きしますと、万十屋さんは開業65年の『もつ鍋元祖』のお店です。そのプライドは普通ではありません。建物は銀座のティファニーや本年建て替えられた根津美術館なども手がけた隈研吾氏の設計です。博多市内からタクシーに乗って約40分。どんどん空が広くなって来た頃突如と川原の横に現れる万十屋さんの建造物は遠方からでも只者でない雰囲気を漂わせております。

 2階に上がって靴を脱いで大広間で頂くのですが・・そこは全面ガラス張り&天井も高いので臭いも籠らずとーーても開放的!こじんまりとした東京のもつ鍋屋さんとはまったく環境が違います。借景として広がる室見川の川原を見ながらの鍋は都会人には郷愁を呼び起こし。。。気持ちも和らぎ精神的にも癒されます。なんか・・もつ鍋キャンプをしているごたあばい!あー来てよかったなぁ。。。

 酒を飲みながらワイワイとやりつつ、ふと我々の周りのお客さん達を見ますと・・家族連れが多くって、お酒も飲まずに烏龍茶などを飲みながら淡々と家庭内の事などの話をしながらもつ鍋を食べ、ちゃんぽん麺で〆てサクッと帰って行きます。我々の様に前菜をツマミながらゆっくり酒飲んでだらだらとダベッているお客さんなどおりませ〜ん。あーそうか!そうだったのか!!もつ鍋ってのは東京の様にネオン輝く夜に閉鎖的な空間でお酒を飲みながら延々と食べるのではなく、昼間に空でも見ながら家族でサクッと食べるのが本当のもつ鍋の食べ方なのかもしれません。

 他に店舗を展開することもせずにこのご時勢に博多の中心街から遠い場所で唯我独尊と開店している「万十屋」さんの姿勢は単にご立派だと思っておりましたが、実はそれだけでなくって、この空間&開放感こそお客様への一番のご馳走だって事を社長さんはご存知なのでしょう。そのスタンスですので今後も東京などに進出するつもりはないそうですが、ネット販売はされているそうなので〜皆様是非一度郊外にて開放的なオープンもつ鍋を試してみて下さいね〜♪


 さて、前回は脳内の神経伝達物質のお話でしたが今回はモツにちなんで『腸』の神経伝達物質のお話です。

 最近ではTVのコマーシャルでもやってますから過敏性腸症候群(Irritable Bowel Syndrome、IBS)と言う病名も小耳にされた方も多いのではないでしょうか。以前は過敏性大腸炎と言ってた疾患です。医者仲間では略してイリコロと呼んでました。例えば部下のドクターに「あの患者さんは症状からしてイリコロだと思うんだけど〜念のため来週大腸検査組んどいて!」なんて感じで使ってました(笑)。

 数年前からこの疾患の病因の所在が大腸(Colon、コロン)だけでなく腸管全体に及ぶ事も判ってきたため腸(Bowel、バァウル)に変更されました。癌や潰瘍などの器質的疾患はないのに腹痛・腹部不快感と便通異常(下痢、便秘)などの消化器症状が長時間持続もしくは悪化・改善を繰り返す疾患です。

 世界的に成人における有病率は5〜20%まで及ぶと言われ日本でも約1,200万人の患者さんがいると推定されます。そして下痢型は若い男性に多く通勤途中などにて難儀をきたします。今までの治療方法は漫然と下痢止めの薬を処方するしかなかったのですが、昨年にイリボーと言う特効薬が発売になりました。そしてこの薬はなんと今の所『男性専用』のお薬なのです。女性専用の車両やフィットネス、旅行パックからスパなど「女性専用」って単語は世間に頻出ですが、「男性専用」って単語はなにやら怪しい系を想像してしまいますよね(笑)。しかしこの男性専用ドラッグがなかなかの優れものでして、私のクリニックでもうら若き男性患者さん(笑)にはとーても好評です。

 ところで、下痢型の過敏性腸症候群の主病因として考えられているのが腸管に存在するセロトニンと言う物質です。このセロトニンは人体の作用する場所で様々なアクションをする物質なのですが(前回お話しました様に脳内ですと鬱病などの発病に関与しております)、ストレスを受けますと脳から神経を介して腸管のセロトニンの泌が促進します。そして腸管神経に存在する5-HT3受容体(セロトニンがくっつく事で作用する場所の事)に結合しますと腸管では消化管運動を異常に亢進させて下痢などを引き起こします。特効薬のイリボーはこのセロトニンが5-HT 3受容体にくっつくのを腸管にて邪魔する事でセロトニンの作用を抑え込みます。IBSの治療ストラテジーの中心となる薬がやっと登場したと言う訳です。

 考えてみましたらおシモの問題は過去も未来も案外深刻な事柄だと思います。例えば人生五十年だった戦国時代の武将は当然若い男性ばかりです。その中にはお腹の具合が悪かったために命を落とした者も多かったはずです。生きるか死ぬかの決戦が迫りストレスが頂点に達した頃、「。ゴロゴロゴロ。。。」「うん?雷か??いや。。。ヤバ〜い。なんでこんな時にハラがぁ。」。。そんな事には関係なく敵は目前に現れ〜!悲惨です。腕が悪くて敗れるのならまだしも鍛錬した力量を発揮できずに死んでいくなど。。。

 智将石田光成も関ヶ原の合戦の大事な時にお腹の不調で指揮がろくに取れず惨敗!周りの武将には食中毒などの記録もなく、彼の病状は典型的なIBSと今日では考えられております。六条河原で処刑される直前に薦められた柿をお腹の具合を考えて食べなかった有名な逸話も残っております。智将故に体質だけでなく日々の精神的なストレスも多かった事で罹病したのかもしれませんね。

 IBSに似てますがISSって皆様わかりますか? International Space Station、つまり国際宇宙ステーションの事です。ISSでIBSも問題になるはずです。アストロノーツは年齢制限もあり若い人が多いはず。宇宙服での船外活動などはストレスフルに決まっております。もしも大事な時に。。。。まー未来にはおまる着きの宇宙服など開発されるかもしれません。やはり開発する会社は名前から言って、ベン。。。ツでしょうか(失礼しました!爆)。

 それにしても東京から離れますと時計の針もゆっくりになった気がします。食事の味って気分や雰囲気で何倍にも良くなりますよね。東京のお店ばかりを紹介してた事を反省する所長でした。。。。ひょっとするとカントリーサイドではIBSのお薬はあんまり売れないかもしれませんね(笑)。


 余談ではあるが(司馬遼太郎風、笑)。。。。鍋を突つきながら、仲居のおばちゃんに「この石鍋見た目は熱そうじゃないですよね。。」と言った所、「そげな事いうならさわってみんしゃい!」と私の手を取って鍋にペタン!驚く私に皆で大笑い!ビビッタァ〜〜爆。石鍋ってクールな見かけ通りであんまり熱くないんですね。豪放磊落な仲居のおばちゃま達、皆様全員が万十屋のMVPです。いつまでもお元気で〜!!

執筆 『健康×美食ラボ』所長:医学博士 岡野喜久夫 2009年11月16日

『健康×美食ラボ』所長
医学博士 岡野喜久夫

岡野内科診療所院長
東京都港区新橋1-18-14 三洋堂本館ビル8F
03-3502-8060

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